ART

《大分県立美術館/OPAM》
建築家・坂 茂設計の県産材×竹工芸をイメージさせるモダン建築

2022.7.9
《大分県立美術館/OPAM》<br><small>建築家・坂 茂設計の県産材×竹工芸をイメージさせるモダン建築

JR大分駅から徒歩15分の場所に位置する、「OPAM(オーパム)」の愛称で親しまれている「大分県立美術館」。“街に開かれた縁側としての美術館”をコンセプトに建築された外観は、大分県の竹工芸をイメージさせる斬新なデザインが人目を引く。手がけたのは建築家・坂 茂氏。展示室では、「出会い」をテーマにした新たな視点に立つユニークな企画展と、大分の伝統や文化を様々な切り口から紹介するコレクション展を開催。このほか、全身で美術を楽しむためのユニークな教育普及事業としてワークショップなどを開催するほか、学校などでのアウトリーチプログラムも多数行っている。展示室の外には無料で気軽にアートを楽しめる空間が広がり、ミュージアムショップやカフェなどが常設されるなど、日常的に人々が集まる工夫がされた「大分県美術館」の魅力とは・・・・・・。

出会いによる新たな発見と
五感で楽しめる美術館

国道沿いからも見える“OPAM”のシンボルマークはオープン以来、人気のフォトスポット

“OPAM”の愛称で知られる「大分県立美術館」。その由来は、新しい美術館を世界の人に認知してもらうため、大分県立美術館の英語表記「Oita Prefectural Art Museum」の頭文字からきている。「O」は太陽を彷彿させる円のフォルムに、「A」は天に延びるような長体にし、マークに動きを取り入れることで、多様性の象徴化と視覚化を造形したそうだ。

「出会いと五感のミュージアム」、「自分の家のリビングのような美術館」、「県民とともに成長する美術館」という3つのコンセプトを掲げている。大分県は、絵画では田能村竹田をはじめとする豊後南画、そして日本画の福田平八郎や髙山辰雄、彫刻においては朝倉文夫、竹工芸の生野祥雲斎というように、さまざまな芸術分野において多くの巨匠たちを輩出している。重要文化財など貴重な美術品が約5000点所蔵されている。

外と中がゆるく繋がる建築

外観は近未来的でありながら、まちに馴染むモダンなデザイン
自然光が射し込む工夫がされている
Photo by kai

OPAMの建築コンセプトは「街に開かれた縁側としての美術館」。さまざまな視点、感覚を通じて、感性や創造性に訴え、訪れる人が五感で楽しむことができる美術館。大分と世界、古典と現代、美術と音楽など、さまざまな「出会い」をテーマにした企画展をとおして、新たな発見や刺激を受けることができる美術館を目指している。

坂氏は「一般的に美術館という場所は、中で何が行われているのかがわかりにくいブラックボックスのようなもの。でも、本当はもっと多くの人が楽しめる場所であるはず」という思いから、美術館へ訪れた人はもちろん、市民が気軽に利用できる“憩いの場”となるような建築をした。

外観は、一面ガラスに覆われ、大分県の竹工芸をイメージさせる斬新なデザインが特徴的。メイン通りに面した南側の壁面部分は、開閉できるガラス水平折戸になっていて、開けると、まるで縁側のように開放的な空間へと変わる。エントランスを抜けた先には、巨大なタマゴ型の作品がゆらゆらと揺れる、オランダのデザイナー、マルセル・ワンダースの《ユーラシアン・ガーデン・スピリット》が出迎えてくれる。

1階 アトリウム・モバイルカフェ

1階は、天井高10mの吹き抜けのアトリウム空間が広がる。外からも中の様子がわかるように全面ガラス張りで、無料で誰もが気軽にアートと触れ合える展示作品や、ミュージアムショップなどを併設。OPAM Museum Shop(オーパム ミュージアムショップ)では、「着る・遊ぶ・食べる」アートをテーマに、大分県内を中心としたアーティストとコラボレーションしたOPAMオリジナルグッズや、過去の展覧会図録・関連書籍などを販売している。アトリウムのインフォメーションやミュージアムショップは可動式になっているため、自由自在にレイアウト変更が可能となっている。

2階の情報コーナーには、独自のテーマを持って収集した書籍も数多く展示。絵の具の素材となる鉱物や植物の図鑑、自然科学・大分の生活・日本人の心など、さまざまなジャンルの本を用意。目で見て楽しめる図鑑なども多く揃っているため、展示されているエリアは「目で楽しむブックギャラリー」と呼ばれている。また、食事もできるカフェも併設され、美術鑑賞の前後のひとやすみや、待ち合わせの場所として日常的に利用できる。天井や外壁、床などに大分の自然素材を多く使用しているため、木の温もりや、大分の風土や土地柄を感じる空間となっている。

《天庭(あまにわ)》
3階へ上がると竹工芸をイメージさせる天井と、光が差し込む屋外展示《天庭(あまにわ)》が目を惹く

3階のゆるやかにウェーブのかかった木組の天井は、竹工芸をイメージさせる骨組みを使用し、中庭に自然光が射し込むような工夫がされている。建物の外観を印象的に魅せている外壁の木組も間近にみることができる。大分県産の杉を用いた斜め格子の木組の背後には、鉄骨+唐松の耐火集成材の柱があり、ガラスのカーテンウォールで覆われている。床には大分県産の「日田石」を採用。館内に置かれている机や椅子も坂氏がデザインをしている。

建築家
坂 茂(ばん・しげる)
1957年 東京都生まれ。84年、クーパー・ユニオン建築学部卒業。82年から83年まで、磯崎新アトリエに勤務。85年、坂茂建築設計を設立。95年から2000年まで、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)コンサルタント、同年にNGO ボランティア・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)を設立。現在、京都芸術大学芸術学部環境デザイン学科教授。主な作品「カーテンウォールの家」、「ハノーバー国際博覧会日本館」、東京銀座「ニコラス・G・ハイエック・センター」、フランス国立近代美術館分館「ポンピドゥー・センター – メス」 、パリ郊外セガン島音楽ホール「シテ・ミュージカル」コンペ優勝(2013)など。
http://www.shigerubanarchitects.com/

大分県立美術館は、大分県立芸術会館が37年間にわたって収集してきた、近世美術や近代日本画、洋画、伝統工芸、彫刻・立体作品など、約5000点の作品や資料を引き継ぎ、至宝として保管しながら、展覧会を通じて紹介するとともに、その魅力を広く国内外に向けて発信している。

アート鑑賞後は、café Charité(カフェ シャリテ)へ。ゆったりと寛げる空間と産地にこだわった美味しい料理やスイーツが味わえる。店内のインテリアデザインも、坂氏によるもので紙管を利用したスタイリッシュモダンなデザイン。

夕方には建築空間の光と影の効果によって、あたたかみを感じる外観へ

アートを楽しむのはもちろん、日常的に人々が集まるそのような仕掛けを施した「大分県立美術館」。大分に訪れた際にはぜひ、立ち寄ってみてはいかがだろうか。

大分県立美術館/OPAM
住所|大分県大分市寿町2-1
Tel|097-533-4500
開館時間|10:00~19:00
※金曜日・土曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日|なし
観覧料|コレクション展 一般 300(250)円 大学生・高校生 200(150)円
※( )内は有料入場者20名以上の団体料金
※中学生以下は無料
https://www.opam.jp/

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