HOTEL

クリエイティブディレクター 木本梨絵さん編
宿づくりのプロに聞くリセットしに行く宿

2022.6.13
クリエイティブディレクター 木本梨絵さん編<br><small>宿づくりのプロに聞くリセットしに行く宿</small>

慌ただしい日常から距離を置いて頭の中を解放したい。はじめての土地で、新しい何かをインプットしたい。そんな気分にふさわしい宿を、宿のスペシャリストたちに教えてもらった。

<教えてくれた人>
クリエイティブディレクター 木本梨絵さん
1992年生まれ。HARKEN代表。日本草木研究所共同代表。自らも事業を営みながら、さまざまな業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクションを行う。武蔵野美術大学非常勤講師。

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快適に長居するために回遊性を重視

2019年開業。軽井沢の自然の中に佇む、隠れ家的リゾートホテル。第1軒目は建築家の坂茂氏がデザインを担当。今後もコレクションとして増築予定

2020年に独立して以来、ホテルやコスメ、商業施設などのブランディングを手掛け、職業柄、全国各地に出張することが多い木本さん。せっかく訪れたのだからと、少し足を延ばして気になるホテルにもう一泊したり、知人が手掛けたホテルに泊まりに行くなどして、年間30軒以上のホテルに宿泊しているという。

「リセット目的で宿泊する際は、何もしなくても満足できる、環境のととのったホテルを選びます。仕事柄、普段は忙しく動き回っているので、オフのときはなるべく外に出たくなくて。だから館内で長く過ごしていても退屈しない、回遊性の高いホテルが私は好きです。昨年泊まった中で印象に残っているのは軽井沢の『ししいわハウス』です。坂茂さんが設計されたことで有名ですが、建物自体が森に寄り添う曲線的なデザインで、とても有機的で心地よいのです。館内もユニークで、一般的なホテルは共用部が全体の2割程度ですが、こちらは施設の半分ぐらいを共用スペースが占めていて、泊まった人同士の交流が楽しめる造りになっています」

全10室。キッチンにお皿が多めに用意されていたりと、どちらかというとAirbnbのようなアットホームな雰囲気が特徴的。「私が利用したときはほかに宿泊客はおらず、まさかの貸し切り状態でしたが、それはそれでゆったり過ごせました。次回はぜひ、ほかの宿泊者の方たちと思い出をシェアしたいですね」

ししいわハウス
住所|長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-646
Tel|080-7691-6020
料金|1泊朝食付4万9280円~(税・サ込)
https://www.shishiiwahouse.jp/

コンセプトは「木立の中に浮かぶ空間」。360度、どこにいても美しい樹々が目に入る、自然を感じられる空間。国内外で多くの受賞歴がある注目の宿泊施設

建築的な目線で宿を探すこともあるという。「軽井沢と言えば『輪の家』も楽しかったです。世界的にも注目されている名建築なので、ぜひ泊まってみたい! と、友人6人を誘って訪れたのですが、軽井沢駅からのアクセスが非常に悪くて(笑)。真っ暗な夜の森をひたすら進んで行った先に、ぼうっと光るガラス張りの家が佇んでいて、すごく存在感がありました。周りにはレストランも何もないのでみんなで自炊して、カードゲームをしたり、ぐたぐたと自由に過ごしました。建物は車道に面しているのですが、奥深い森の中だけあって、車は一切通らないので、夜みんなで表に出て、星空を眺めたりもしました。屋内から見る景色とは全然違って、下から見上げる夜空は格別。本当にきれいでした。訪れたのは12月だったので、雪景色と建物のコントラストが非常にすてきでしたが、いつか新緑の風景も見てみたいです」

輪の家
住所|長野県北佐久郡軽井沢町茂沢
Tel|03-6435-3889
料金|1泊素泊まり7万5900円~(税込)

ラグジュアリーホテル「アマン」初の温泉を有するリゾート。英虞湾の風光明媚な景色と、この地ならではの日本料理、温泉浴が楽しめる

リセットというキーワードで名前が挙がったのは、三重県伊勢志摩の「アマネム」と石川県の「べにや無可有」。「アマネムは主人と二人で2泊したのですが、外には一歩も出ず、ホテル内でずっと過ごしていました。水着で利用できる温泉水の屋外温浴施設があって、これがとても気持ちよくて。時間帯によっては貸し切り状態だったので、滞在中よく入っていました。ケリー・ヒルの設計による建築も圧巻で、瓦屋根や能舞台のような木のデッキなど、随所に日本の建築美が反映されていて、いい意味で既視感がありました。内装も、食事をとる会場には金色の屏風があしらわれているなど、異世界というよりもどこか懐かしさを感じさせるデザインでした。いうなれば、極上のおばあちゃんの家でリラックスしている感じ? 背伸びしないで過ごすことができるのです。料理も素晴らしく、英虞湾(あごわん)から水揚げされたばかりの魚介類は絶品でした。また、ラウンジでは、ガーデンを眺めながらゆったりと寛げ、和菓子やドリンクなどを楽しむことができます。長く居座る身としては、とてもありがたいサービスでしたね。『からっぽの中の豊かさ』をコンセプトにした『べにや無何有』は、大自然とお風呂以外、本当に何もありませんでしたが、とても充実した時間を過ごすことができました。しかも、『何もしない』と言いつつも、夜食にカゴに入った細巻きをサービスしてくれたり、要所要所で粋なおもてなしをしてくれるのです。その絶妙な気遣いに惚れてしまいました」

アマネム
住所|三重県志摩市浜島町迫子2165
Tel|0599-52-5000
料金|1泊2食付18万9750円〜(税・サ込)
https://www.aman.com/resorts/amanemu

山代温泉の高台に佇む、別荘のような宿。山庭の自然の息遣いが感じられる開放的なつくりで、静寂で平和な時間を過ごすことができる

べにや無何有
住所|石川県加賀市山代温泉55-1-3
Tel|0120-07-1340
料金|1泊2食付4万6130円~(税・サ込)
https://mukayu.com/

アプリ上で自宅とホテルの切り替えが可能な新しい住まいのかたち。2022年夏頃から宮崎県青島、栃木県那須などに順次開業予定

ホテルの仕事に携わっていて感じるのは、年々そのスタイルが利用者のニーズとともに変化していることだと木本さんは語る。木本さんが現在手掛けている「NOT A HOTEL」は、アプリを使ってワンタップで自宅をホテルに切り替えることができる、新しいかたちのホテル。オーナーは家を空けている間は自宅をホテルとして機能させ、収入を得ることができる。つまり旅好きの人にこそぴったりのビジネスモデルなのだ。「利用する側も、全国各地の絶景ホテルに気軽に泊まれるので、私のような滞在派の旅行者にもおすすめ。日本中に増やしていく予定なので楽しみにしていてください」

NOT A HOTEL
https://notahotel.com

text: Yukie Masumoto, Misa Hasebe
Discover Japan 2022年5月号「ニュー・スタイル・ホテルガイド2022」

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