HOTEL

建築家 広谷純弘さん編
宿づくりのプロに聞くリセットしに行く宿

2022.6.10
建築家 広谷純弘さん編<br><small>宿づくりのプロに聞くリセットしに行く宿</small>

慌ただしい日常から距離を置いて頭の中を解放したい。はじめての土地で、新しい何かをインプットしたい。そんな気分にふさわしい宿を、宿のスペシャリストたちに教えてもらった。

<教えてくれた人>
建築家 広谷純弘さん
1956年、和歌山県生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒業後、1980年、建築研究所アーキヴィジョン入社。2006年、アーキヴィジョン広谷スタジオ設立。ホテル、保育園、道の駅など幅広く手掛ける

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日常の風景を特別にする宿

建築家の広谷純弘さんが高野山の麓につくった宿「山荘 天の里」は、部屋からふと窓の外を見たときに、枠で切り取られた自然の美しさに思わずハッとする。

桜や新緑の季節もよし、初夏になると小川から湧くようにホタルが舞うと広谷さん。近くに地元民が大切にする「丹生都比売(にうつひめ)神社」がある。高野山と深いつながりがあり、世界文化遺産に登録され、白洲正子さんが愛した場所だそうだ。わかりやすい絶景ではなく、四季折々の美がある。広谷さんが大切にするのが、そこに気づくことができる建築空間だ。

山荘 天の里
住所|和歌山県伊都郡かつらぎ町下天野1620
Tel|0736-26-0753
料金|1泊2食付4万293円~(税・サ込)
https://amanosato.com/

雑木林に趣の異なる7つの風呂を配す宿。8畳間から露天風呂付きの離れまでさまざまな客室があり、阿蘇のあか牛など地元の美味が味わえる

プライベートで何度も訪れるという宿選びでも、豪華さや派手さより、居心地のよさが勝る。「つい足を運ぶのは、なんとなくいろいろなところに居場所がある宿」。熊本・阿蘇では、黒川温泉街の外れに佇む「旅館 山河」の名が挙がった。

「外湯めぐりがとてもいいのです。岩を組んだ露天風呂や大きな桶風呂、檜の内風呂などいくつものお風呂があり、それぞれが雑木林に溶け込んでいるのです。途中に休憩小屋があり、それが峠の茶屋のような佇まいでいい雰囲気でね。湯上りに、そこに腰掛けて涼むときの小川の音がまた……」。昔から薬師の湯として名高く、お風呂はふたつの自家源泉から引いた湯を掛け流し。一人よりも、家族や親しい友人と行くのがおすすめだ。

黒川温泉 旅館 山河
住所|熊本県阿蘇郡南小国町満願寺6961-1
Tel|0967-44-0906
料金|1泊2食付1万6500円~(税・サ込、入湯税別)
https://www.sanga-ryokan.com/

本館と離れからなる全9室はそれぞれに趣きがあり、各部屋に野の花を生けた静謐な佇まい。部屋付きの風呂ではかけ流しの源泉を楽しめる

神奈川・奥湯河原の「石葉」は、隠れ家的な静けさと、日常的な心地よさが同居しているところが気に入り、何度も足を運んでいる。「旅館でありながら住宅のような設計で、特に絶景が広がるというのではなく、森の奥に箱根の山々が広がる落ち着いた景色に和みます。知り合いの家に遊びに行ったような安心感があるのです。女将さんの話を聞きたくて中にどうぞとお声をかけても、板の間から畳には入られない。一歩控えた姿勢も好きです」 

別荘時代の建物を生かした部屋は改装を重ねているのだが、いい意味で主張がないと広谷さん。「デスク付きの部屋があるのですが、そこから見える景色もよくて。ここなら仕事を持ち込んでも快適だろうなと思っています」

石葉
住所|神奈川県足柄下郡湯河原町宮上749
Tel|0465-62-3808
料金|1泊2食付5万6000円~(税・サ込)
https://www.sekiyou.com/

1999年のオープン以来数々のデザイン賞を受賞。すべての客室に海を一望するウッドデッキが付いている。夕食は紀伊の海の幸を部屋でゆっくりいただける

和歌山・奥白浜の椿温泉にもいい景色がある。6室すべての部屋が海に面した「海椿葉山」だ。「海の見え方が抜群です。なんとか陽が沈む前にチェックインして夕日を眺めます。月夜は海に光の道ができる。たまたま雨の日に訪れたこともあるのですが、雨の海もぐっときます。鉛色に近いブルーの海と空の境目がにじんで、そこに雨が落ちている。ただただ海を見るために泊まりたい宿です」。温泉は透明でなめらかな美肌の湯。湯船からも太平洋を眺めることができ、温泉と冷泉を楽しめる。

海椿葉山
住所|和歌山県西牟婁郡白浜町椿1063-20
Tel|0739-46-0909
料金|1泊2食付2万5450円~(税・サ込)

広谷さんがインテリアデザイン、設計を手掛けた(街制作室と協働)宿が「OMO(おも)5小樽 by 星のリゾート」だ。北海道・小樽の築90年ほどの商工会議所をホテルに改装したもの。隣に新館を建て、新旧が違和感なくつながる。 

「講堂があった3階は天井も高く、明るくて気持ちがいいのでレストランにしました。会頭の部屋の一部はそのまま生かし、残されていたコート掛けや本棚などもリストアして、本もそのままに使っています」。小樽を歩くと、同じように古くて趣のある建物がたくさん。「歴史がある町全体が博物館のよう。その一要素である歴史的建造物に泊まると、まさに町とつながる感覚を得られますよ」

OMO5小樽 by 星野リゾート
住所|北海道小樽市色内1-6-31
Tel|0570-073-099
料金|1泊8000円~(税・サ込、食事別)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo5otaru/

text: Yukie Masumoto, Misa Hasebe
Discover Japan 2022年5月号「ニュー・スタイル・ホテルガイド2022」

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