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フードジャーナリスト 向笠千恵子に聞く
生産者からお取り寄せすることの醍醐味

2020.8.20
フードジャーナリスト 向笠千恵子に聞く<br>生産者からお取り寄せすることの醍醐味
田舎庵の鰻蒲焼き

生産者からのお取り寄せが身近になってきた昨今。生産者と向き合いながら〝本物の味〟を探究し、日本の食について多面的に発信し続けるフードジャーナリストの向笠千恵子さんに、生産者からお取り寄せすることの醍醐味と意義を伺いました。

向笠千恵子(むかさ・ちえこ)
フードジャーナリスト、食文化研究家、エッセイスト。東京・日本橋出身。慶應義塾大学文学部卒業。本物の味、安心できる食べ物、伝統食品づくりの現場を知る第一人者。志をもった生産者、美味しさ、民俗、歴史、うつわなどを多面的にとらえながら、現代の食をつづっている。2011年にグルマン世界料理本大賞グランプリを受賞した『食の街道を行く』(平凡社新書)や『ニッポンお宝食材』(小学館)など著書多数。

https://mukasa-chieko.com

最新刊
『おいしい俳句——続・旬の菜事記』
食の季語を切り口に「食」の楽しさを語る。好評エッセイ『食べる俳句』の第2弾。

本体価格|2090円
発行|本阿弥書店

これまで、47都道府県の何周分にもなるほどの取材旅行を重ね、生産者の志に触れてきた向笠千恵子さんにとってお取り寄せとは?

「日本の農林水産業を支える権利で1票、投じるようなもの。日本には素晴らしい食材がたくさんあるのにもかかわらず、食料自給率は30%台。そして食の現場では、高齢化や過疎化に加え、コロナ禍で苦難に陥っている生産者がたくさんいます。このままでは、本物の食材や日本ならではの食文化など、稀少なものが日本列島から消えてしまう。そうならないためにも、志をもって食に取り組んでいる生産者に、お取り寄せというエールを送ることが大切だと思います」

お取り寄せの醍醐味は生産者との交流にあり

エールを送りたくとも、初心者にとっては、何を取り寄せるかを決めること自体がなかなか難しい。

「まずは、普段の食生活を整理整頓して、食べ物に関するコンセプトをもつことからはじめるといいと思います。その上でいろいろ試してみる。失敗してもいいんです。お取り寄せは知らない世界への手掛かり。日本の食にはさまざまな変化球がありますから、いろいろなものを楽しまなければもったいない。そして自分の中に、食にまつわる経験を蓄積した引き出しができればできるほど、応用力も身について、楽しみが増します」

さまざまなお取り寄せを試す中で、ぜひ取り入れたいのが「生産者へのアプローチ」だと向笠さんは言う。

「Eメールでも電話でも伝票の裏に書くだけでもいいから、食べた感想を生産者に伝えるんです。生産者と交流することで、その食が生まれた土地の風景が浮かび上がります。そうすると味が膨らむのはもちろん、自分にとって新しい田舎ができたようなもの。これもお取り寄せの醍醐味です」

また、交流によって生産者の横のつながり=ネットワークによる情報も入ってくるようになる。

「いいものをつくっている生産者にはネットワークがあります。たとえば『良い食品の4条件・良い食品を作るための4原則』を基本理念に掲げる『良い食品づくりの会』は、約130社の生産者と販売店が加盟しています。生産者も、絶えず食品の学習をしているところがいい。生産者同士の交流から製品に広がりも生まれます。お取り寄せが縦糸で、生産者のネットワークが横糸。ふたつをからめると日本の食の現状が見えてきます」

本物の味は本物の食材でこそ生まれる

そうして生産者が真摯に食に取り組むように「食の職人としての自覚、誇りをもち、〝食に携わる仕事は聖職者と同じ〟という覚悟をもつ人を見つける努力が、取り寄せる側にも必要」だという。それは、いわゆるグルメ情報ではなく、もっと本質的なところで生産者と向き合う姿勢、言い換えれば本物を見極める目をもつための努力である。そのためには、食にまつわる経験を重ねることが大切だが、「本場の本物」(伝統的な〝本場〟の製法で、厳選原料からつくる〝本物〟を認定する地域食品ブランドの表示基準)といった認証制度など、産地や生産者を取り巻く状況にアンテナを張り、広く知ることも大切だ。

「生産者との交流を通して、産地の背景までを知った上でお取り寄せをしていると、生産者がいかに苦労して本物の味をつくっているかがわかります。世代を超えてその味、その技を受け継いでいる人たちをいま応援しないと、次の時代につながりません。志をもった生産者からのお取り寄せは、日本の食の未来につながっています」

この夏、向笠さんが 注目する生産者リスト

石黒農場 【岩手県花巻市】
日本での飼育は難しいとされるほろほろ鳥の専門農場。温泉の熱を利用して飼育している。
https://ishikuro-farm.com/

久松農園 【茨城県土浦市】
1999年より有機農業に取り組み、年間100種類以上の野菜を意欲的に栽培する。
http://hisamatsufarm.com/

村田商店 【長野県長野市】
特別栽培の県産大豆をアカマツの経木に包んで発酵させる経木納豆は香りがよく爽やか。
https://muratashoten.com/

清水牧場チーズ工房 【長野県松本市】
標高1400〜1800mに広がる牧場で育った牛と羊の乳からチーズやヨーグルトをつくる。
http://www.avis.ne.jp/~svarasa/

中川畜産 【滋賀県東近江市】
江戸時代から同地で飼育されてきた黒毛和牛・近江牛を飼育から販売まで一貫して行う。
http://omigyu-nakagawa.jp/

ミツル醤油醸造元 【福岡県糸島市】
各地で修業をした若主人が地元産の原料を木桶で仕込む伝統的な醤油づくりを行っている。
http://www.mitsuru-shoyu.com/

今帰仁アグー 【沖縄県今帰仁村】
在来種豚・今帰仁(なきじん)アグーを飼育する。肉は赤みが強く、濃い味わいが特徴。
https://www.nagado-ya.co.jp/

text=Miyu Narita photo=Kazuya Hayashi styling=Fumie Takeyama
2020年9号 特集「この夏、毎日お取り寄せ。」


≫Discover Japan編集長 高橋俊宏「お取り寄せについて思うこと」

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