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8月のエッセイ「お取り寄せについて思うこと」
Discover Japan 編集長 高橋俊宏

2020.8.11
8月のエッセイ「お取り寄せについて思うこと」<br>Discover Japan 編集長 高橋俊宏

正直に言うと、お取り寄せという言葉があまり好きではなかった。なぜなら、お取り寄せをするのではなく、お取り寄せされるような逸品を食べに行こう、買いに行こう、つまり旅に出て現地を体感してこそという考え方だったから。

そのなかで概念が変わったのが南伊豆のジビエをお取り寄せしたとき。南伊豆で環境問題に取り組む「森守」さんからいただいたFBのメッセージに心を動かされたのがきっかけだった。普段は駆除したイノシシや鹿を都内のレストランに卸しているのだが、コロナの影響でそれがストップ。慣れないながらECを開設して一般の方に購入できるようにしたとのことが書かれてあった。それを受け取った僕はすぐに注文をした。イノシシのバラ肉とロース、届くまでの時間も楽しかった。

南伊豆は個人的にも大好きな場所。かつてシーカヤックを所有していたとき、夏になると毎週このあたりに出かけてツーリングと、シュノーケリングを楽しんでいたからだ。このあたりは奇岩景勝が多く、洞穴や洞門の中をカヤックで探検したことや、沖縄や離島に引けを取らない透明度の高い海の中を夢中で魚を追いかけていたことなどを思い出しながら、南伊豆への思いを「森守」さんにメッセンジャーで伝えると往復のやりとりが膨大になりスレッドが異常に盛り上がったのだった。想いやその土地、ストーリを知っていると待ってる時間は旅の道中に似ている。

届いたお肉は滋味あふれるものだった。イノシシは大量のモヤシと一緒にしゃぶしゃぶに。臭みがまったくなく箸が進むたびに元気が出るような気分になる。野性の命をいただくとはこういうものかと思ったのだった。鹿肉はロティに挑戦しようとまだ冷凍庫に大事に眠っている。なるほど、コロナがなければこんな恩恵はなかったと思った。何よりもお取り寄せでこんなにその土地に浸れたのは発見だった。
そして、お取り寄せを体験することで、ますます強くその土地に行きたくなった。

今回の特集が生まれた背景にはそんな実体験があった。スタッフ共々、特に苦労して実現に漕ぎつけたのは「名旅館&一流ホテルのお取り寄せ企画」編集部のこれまで蓄積した経験とつながりから宿の名物をピックアップさせていただいた。

扉温泉「明神館」には昨年の9月にお邪魔した。長野県は松本の山奥、扉温泉にあるこの宿に空路で旅をした。プライベートジェットの会社であるスカイトレックと明神館が提携し信州まつもと空港を利用し空路で誘客を狙うという事業開始のときにゲストとして招待していただいたのだ。代表の斎藤忠政さんはとてもアイデアマンで本件の他にも松本の地域活性に携わったり、古民家を改修して農業体験ができるアグリツーリズムを提唱したり、本業である明神館は部屋の一部改修やレストランのメニュー開発などアップデートが常に行われている。地元松本を愛してやまない、松本という地域の魅力をおもてなしとしてどのように提供するか、斎藤さんはその思いにあふれている。明神館は今回特別に弊誌限定のお取り寄せを用意してくれた。料理長が惚れ込んだ無農薬野菜のボックス、そして日本酒とワインのお供贅沢セットだ。個人的に明神館の朝食が大好きだ。レストランの端のテラス席で山を眺めながらエッグベネディクトをいただく時間がとてもいいのだ。信州の新鮮な果物や野菜を使ったフレッシュジュースやコンフィチュールなどが自宅でも堪能できたらと思っていたことが実現したことがうれしい。

スカイトレックで富士山を遊覧しながらまつもと空港へ。そして明神館へ
明神館の立ち湯「雪月花」。四季折々の季節の景色とともに立ち湯を楽しめる

日本味の宿の皆様にもご協力いただいた。この宿のご主人たちや女将さんたちとは顔が見える関係値。だから今回の企画もいの一番にお願いに上がった。「角上楼」は名物の天然ふぐを贅沢に提供。代表の上村さんは「フグは魚じゃない、ケモノですよ」と語る。野性味あふれるふぐを自宅で楽しめるとは最高だ。「紅鮎」は今回のために琵琶湖の湖北地方の郷土料理である「ぼく鍋」を弊誌オリジナルに準備を。「ぼく」とは稚鮎を食べて大きく育った鰻のこと。地元漁師たちは大きく育った鰻を「ぼくた」と呼び、蒲焼きではなく鍋に入れて食すという。あっさりとしたなかにコクがあり、口の中で鰻の身がとろけていく。これは悶絶もので、鰻料理の概念が変わった。地酒、七本槍と一緒に楽しむと湖北の景色が見えるかのようだった。「石山離宮五足のくつ」からはアジの味醂干し。これは地元天草の崎津集落のおばちゃんに干してつくってもらっている特製。五足のくつに泊まったときに朝食にいただいた感動の味がお取り寄せできるなんて……。他にも日本味の宿の個性あふれる名宿から一流ホテルまで、それぞれ名物料理が出揃うことになった。これは手前味噌ながら贅沢な企画になったと思っている。

名宿とはその地域の迎賓館であると思っている。そしてご主人や女将たちはコンシェルジュ。歴史や文化、みるべき場所、美味しいお店、生産者、地域のすべてに通じているからだ。僕は宿に泊まると次の日必ず昼のお店やお土産、スポットをご主人や女将に聞く。彼らとの会話には安易な検索ではたどり着けない「コアな情報」がある。そんな地域の本物をこの12年間弊誌は収録してきたつもりだ。だから今回のお取り寄せ特集に寄せて、名宿の皆さんの協力は欠かせなかった。

もうひとつの思いはこの夏、まだ旅が思いのままにできない今、せめてお取り寄せで日本全国を感じてもらいたかったということがある。そして何よりも一番の思いはお取り寄せを通じて地域を少しでも応援したいという気持ちである。

改めて冒頭の反省をしたい。
そして今は確信している。
お取り寄せは、気軽で楽しい「旅の入り口」だ。

角上楼といえばふぐ。今回の企画では各宿の名物がお取り寄せ可能に

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