「大和屋シャツ店」創業140年を誇る日本初のシャツ屋
大熊健郎の東京名店探訪
「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねるシリーズ。今回は銀座に店を構える、日本初のシャツ店として1876年に創業した「大和屋シャツ店」を訪れた。
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
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人が歳とともに成熟するというのは幻想だ。と最近つくづく感じるのはもちろん自分自身を振り返ってのことである。歳50にもなれば一体自分はどんな大人に成長しているのかと思いきや、ただその未成熟ぶりにがくぜんとするばかりの今日この頃……。
とはいえ、いや、だからこそせめて身なりや立ち居振る舞いはきちんとした大人でありたいと思うようにもなる。幸か不幸かこれまでスーツを着る仕事に恵まれなかった身としては、きちんとした身なりの象徴といえばシャツである。
そろそろ自分の体型に合わせた見栄えも着心地もよいシャツをつくるなんて贅沢をしてもよい年齢ではないかと思っていたところ、格好の店が銀座にあるという。
みゆき通りと交詢社通りに挟まれた西五番街通り沿い。まさに銀座の懐にその店、大和屋シャツ店はある。黒を基調とした外観に金色のゴシック体でシンプルかつ力強く店名が表現されたファサードは実にモダン。日本最初のシャツ店として横浜に創業したのは1876年。戦後現在の銀座6丁目の地に店を移したが、140年以上にわたってオーダーシャツをつくり続けている老舗だ。
店内に一歩足を踏み入れ目に飛び込んでくるのは左右の棚に整然と並ぶシャツ地の数々。カルロ・リーバ、アンダーソン、アルモといった世界屈指の高級メーカーの生地がこれほど揃う店は国内はもとより、海外でもほとんどないという。
「小さな店ですが、ここにはそういったヨーロッパの高級生地メーカーのオーナーがふらりとやってきます」と話してくれたのは6代目社長の石川成実さん。店に並ぶ生地は長年の実績が生んだ生地メーカーとの信頼関係の証しであり、この店自体の信頼性を物語る何よりの証拠でもある。
オーダーの手順は、まずはじめに大体のデザインを決め、次は生地選び、そして襟型、カフス、ボタンなどのディテール決め、最後はメインイベントの採寸へと進む。ただ身体の寸法を測るだけではない。
どういったシーンで着るのかといったことから、その人ならではの身体の動きの癖などをコミュニケーションを十分に取ることで見極める。そして待つこと約3週間。自分だけの着心地を手に入れることができるというわけだ。
各界の著名人にも愛用者が多く、近頃は20代、30代の若い世代や女性も増えているそう。既存のシャツでは味わうことのできない醍醐味を、贅沢としてではなく大人の嗜みとして楽しみたい。
2020年1月号 特集「いま世の中を元気にするのは、この男しかいない。」