京都《山田松香木店》の薫物
|天皇や公家が愛した逸品④
都が置かれた京都には、町のそこかしこに天皇や公家が愛した食や工芸品が伝わっている。御所の風情を感じられる逸品を手に入れて、宮中の文化の一端に触れてみよう。
今回は平安貴族のステータス“煉香(ねりこう)”の世界「山田松香木店(やまだまつこうぼくてん)」の薫物(たきもの)をご紹介する。
平安貴族が熱中した薫物合を疑似体験
6世紀頃の仏教伝来とともに広まった香の文化は、仏教儀式の一環として香を焚くことからはじまり、『日本書紀』には、あるとき淡路島に漂着した「沈水香(じんすいこう)」の香りがあまりに素晴らしく、それを朝廷に献上したという記述も見られる。
平安時代に入ると香は貴族文化に深く浸透し、暮らしの中で楽しむ嗜好品へと発展している。当時は、衣服や部屋に「薫物」を焚きしめることが盛んに行われ、『源氏物語』のいくつかの巻でも描かれている。
京都御苑の西側に店を構える山田松香木店は、享保年間(1716~1736)に薬種商として創業。その後、香木を中心に香原料を扱う卸としての商いから小売りへと変化した。天然香原料にこだわった商品は多岐にわたり、室内香や匂袋、文香などのほか、平安時代の貴族文化に触れられる煉香も扱っている。
煉香とは粉末にした香原料を炭粉と蜜で黒く丸めた粒状のお香。熱した炭を香炉の灰にうずめ、その上に煉香をセットすると、熱によって立ち上る芳香がゆっくりと広がる。
店には茶道の家元好みなどさまざま揃うが、ぜひ試してみたいのが平安時代より続く代表的な煉香「六種薫物(むくさのたきもの)」。六種とは「黒方」、「梅花」、「荷葉」、「菊花」、「落葉」、「侍従」という6つの薫物の呼称のことで、それらを平安時代から楽しまれてきた「空薫(そらだき)」という焚き方で焚くと、雅やかな王朝時代へ束の間トリップでき、文字や絵だけで見てきた悠久の文化を感じられる。
香の世界へのアプローチはまだまだあり、貴族たちが自分好みの香りをつくり、優劣を競い合った薫物合を思わせる商品も揃えている。「香り遊び 手作り薫物」は、自分で煉香をつくるアイテムで、9種の香原料と炭粉、蜜のほか、調合用の椀や計量用スプーンもセットされている。
煉香は焚いてみるまで、どんな香りになるかわからないおもしろさがある。薫物合さながら、自分であれこれ考えながら、自分のアイデンティティを表現するような好みの香りを見つけたい。
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山田松香木店
住所|京都市上京区勘解由小路町164
Tel|075-441-1123
営業時間|10:30~17:00
定休日|なし
https://yamadamatsu.co.jp
text: Mayumi Furuichi photo: Mariko Taya
Discover Japan 2024年11月号「京都」