京都《阿以波/あいば》のうちわ
|天皇や公家が愛した逸品③
都が置かれた京都には、町のそこかしこに天皇や公家が愛した食や工芸品が伝わっている。御所の風情を感じられる逸品を手に入れて、宮中の文化の一端に触れてみよう。
今回は御所うちわの流れを受け継ぐ、観賞用にも実用にもなる「阿以波(あいば)」のうちわをご紹介する。
鑑賞用にも実用にも、禁裏御用の京うちわ
禁裏御用の老舗には、ある時代まで御所の注文のみを請け負ってきた店があり、1689年創業の阿以波もその一軒に数えられる。
初代は良質の竹が採れる滋賀県高島市の出身。京に上がった後は扇子づくりや出版業も手掛けている。7代目以降は京うちわ専業となり、御所にうちわを納めてきた。京うちわとは貴族らが好んだ装飾性の高い「御所うちわ」の流れを受け継ぐ伝統工芸品。すべての工程が手仕事で行われ、宮中が好んだエッセンスが詰まっている。
京都でつくられる工芸品は、かつて「京物」と称賛されたが、人々がたたえたのは仕事の確かさと、そこに秘めた都の精神性。
自然の風物を写し取る眼には京都で育まれたスピリッツが宿り、御所の仕事を請け負うことで、その感性や技は磨かれてきた。
阿以波は明治以降、一般向けの商品を販売するようになり、繊細な仕事が施されたうちわが気軽に手に入るようになった。はじめて店を訪れると、ショーケースに展示される鑑賞用のうちわに目を見張るだろう。
90~120本使う竹の骨組みをあらわにし、表裏を和紙の切り絵細工で飾る「両透かし」はまさにアート。手元に置いて細部をじっくり見ても、遠くから眺めても飽きることがない。文様は代々のものから当代の作までさまざま。どれも絵のような美しさをたたえている。
実用性のある商品の中には、江戸時代の版木で刷った木版うちわも。図案は数百年の時を経たとは思えないほどモダンだ。
うちわはいまでこそ実用品として親しまれているが、かつてそれは人気絵師の作品の発表の場でもあった。阿以波の先代がコレクションしてきたうちわには扇面を狩野派の絵師が描いたものもある。それを丁寧に仕上げた仕事には、「いまに生かせるヒントがたくさんありますね」と10代目当主の饗庭長兵衛さん。「温故知新」は阿以波が大切にしているキーワードだ。
京うちわの魅力を実感した後は、オーダーに挑戦してみるのもいい。注文の際、店には好みのモチーフなどを伝えるのみで細部はできれば店に任せたい。そうすることで、宮中も認めた職人の手になる「京物」を手にすることができる。
line
京うちわ 阿以波
住所|京都市中京区柳馬場通六角下ル
Tel|075-221-1460
営業時間|10:00~18:00
定休日|日曜、祝日(4〜7月は無休)
www.kyo-aiba.jp
≫次の記事を読む
text: Mayumi Furuichi photo: Mariko Taya
Discover Japan 2024年11月号「京都」