高知の魚のたたきとお芋のおやつ
|料理、菓子研究家・小島喜和の美味しい地元自慢⑥
真に美味しいものはローカルにあり! 旅の目的にするもよし、取り寄せて自宅で楽しむのもおすすめ。今回は料理・菓子研究家の小島喜和さんが高知県の美味しいオススメを紹介。
小島喜和(こじま きわ)
高知県生まれ。伝統製法でつくられる調味料や和の台所道具、郷土料理の継承をライフワークとし、料理教室、執筆活動を行う。著書に『心ふるえる土佐の味』(高知新聞社)など
高知といえば「鰹のたたき」と言われることしばしば。確かにものすごく美味しく、高知の人は鰹の美味しい食べ方を知っていると思う。鰹が旬の時期は毎日食卓に上るほど定番のおかずである。
同じたたきでも、季節により鰹より美味しい魚がある。「冬から春にかけては、モンツキスマやハガツオですね」とは四万十市の居酒屋「食酔亭 元屋」さん。紋がついているスマ(スマガツオ)は地元以外ではほとんど流通していない。太平洋に面した我が地元の愛すべきおかずの数々をさらりと出してくれ、自宅よりちょっとだけプロの手が入ったような、食べ疲れのしない地元のごはんやさんのようなところが好きだ。
県外ではほとんど知られていない郷土の食はまだある。サツマイモを使った伝統食もそのひとつ。高知では保存食として使う食文化もある。
厚切りのサツマイモにほんのり甘いバッター液をからめてサクサクに揚げる「芋天」は、おかずというよりもおやつ的な存在だ。天ぷら屋さん(さつま揚げのことを高知では天ぷらと呼ぶ)でひとつ買ってそのままかじる。お肉屋さんの揚げたてコロッケの感覚である。こんなお店も少なくなってきたのが残念。芋天は私が子どもの頃から存在するから、もう伝統食文化の域に入っているようなもの。芋天粉なるものが出てきて家庭でも上手に芋天ができる。
地元で「東山」と呼ばれるのは、照りと歯応えがある、なんとも美味しい干し芋だ。ドラム缶を半分に切ってつくった簡易竈の上に直径1m以上の鉄鍋をかけ、薪で火をおこし、その中に皮をむいた小ぶりの芋を丸のまま入れて水から煮る。水に溶け出たでんぷんがまた自身の中に入るまで数時間煮たものを寒風の中で干す。素朴な見た目に反して非常に手間のかかる一品である。
高知県西部の渭南地方には「芋餅」がある。サツマイモを蒸して太めの千切りにし、カチンカチンになるまで干し、翌年まで保存。それを水で戻してもち米と一緒に蒸し、砂糖を加えてついたものだ。秋に収穫した芋を保存する昔ながらの知恵を生かし、芋の旨さを最大限に引き出した逸品。中がニンジン色をしているにんじん芋など、使う芋によって芋餅の色も変わる。祖母が存命の頃は、自分でつくった干し芋を使って家でついていた。いまは地元の餅店や農協の女性部が立ち上げた工場が活躍する。年末は芋餅の注文で大忙しである。芋を家庭で干して、もち米と一緒に工場に持ち込み、ついてもらう場合もある。餅がつき上がった際の餅とり粉はきな粉であることも。餅は10×20㎝くらいの大きさに揃えられる。それを2㎝ほどの厚さに切って、火鉢の上で焼いて食べる。冬のおやつの思い出である。
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食酔亭 元屋
住所|高知県四万十市中村栄町22-1-6
Tel|0880-35-0358
営業時間|18:00〜23:00
定休日|日曜
太陽と海風
https://taiyotoumikaze.com
道の駅 大月
住所|高知県幡多郡大月町弘見2610
Tel|0880-73-1610
営業時間|8:30〜17:00
定休日|なし
text: Kiwa Kojima
Discover Japan 2024年3月号「口福なニッポン」