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《Bamboo Glass/バンブーグラス》
三浦侑子さんのガラスが食卓を穏やかに洗練させる。

2023.11.28
《Bamboo Glass/バンブーグラス》<br>三浦侑子さんのガラスが食卓を穏やかに洗練させる。

クリアな爽やかさとぽってりとした温もりを併せもつガラス作家・三浦侑子さんのガラス。岡山県山間部の静かな街に佇む自宅兼工房を訪ねて拝見した、うつわが生まれる背景とは?

三浦侑子(みうら ゆうこ)
1982年、大阪府生まれ。京都造形芸術大学在学中に吹きガラスに出合う。富山ガラス造形研究所造形科にてガラスの基礎知識を学び、静岡でガラス工房に勤務。2014年に吹きガラス工房「Bamboo Glass」を始動。

ガラスの艶やかさが
料理を引き立てる

岡山県北部、鳥取県との県境に近い鏡野町に、三浦侑子さんの自宅兼工房がある。自然豊かな土地で暮らすことになるとは、大阪出身の三浦さんにとって想像だにしなかったという。
大学時代に空間デザインを学んでいた三浦さんは、パソコンを使う仕事ではなく手仕事に興味をもつ。木工、陶芸、吹きガラスといった工芸をひと通り経験した中で、「自分に合っている」と選んだのが吹きガラスだった。大学卒業後、富山ガラス造形研究所造形科で吹きガラスの技術を学び、静岡のガラス工房に勤務。数年後、一緒に働いていた夫の和さんが、鏡野町内にある妖精の森ガラス美術館に就職したことを機に、二人でこの地に移り住んだ。そこでかつて町の喫茶店だった物件を見つけてリノベーションし、自宅の一角で吹きガラス工房「Bamboo Glass」を現在運営している。

「たまたま移り住んだ場所ですが、周囲に家がほとんどない静かな環境が、ガラス工房として適していると思います」と三浦さん。鳥のさえずりと山から吹き下ろす風の音に混じって聞こえる鉄竿の金属音、窯の火が燃える音、ガラス同士がぶつかる音。それらも、Bamboo Glassのある穏やかな山里の風景をつくり出している。

田んぼとその背後に山がそびえる、工房から見える景色。ガラス制作では作品を仕上げるまでに集中力を要するが、一点つくり終えるたびにこの風景を見て癒されているという

“制作はスポーツ”
環境、学問、体調のすべてが作品に反映される

熱が冷めないうちに丁寧に成形していく工程は、道具を持つ右手に注目しがちだが、実は左手を使い一定の速さでガラスを回転させる技術が仕上がりを左右する

三浦さんの工房は、南東から光が差し込む明るい場所にあり、無造作に置かれた試作品が、やさしい光を放っている。書棚には、ガラスの作品集や歴史書のほかに、陶芸など工芸全般の書籍が並び、美術・工芸への探究心がうかがえる。一人で使うには十分な広さがあるように思えた工房の中を、ところ狭しと動き回りながら作品を仕上げていく三浦さんに、吹きガラス作家を志した理由を聞いた。

「ほかの工芸を体験した中で、一番自分にしっくりきたのが吹きガラスでした。工程や向き合い方がスポーツに近いと思うんです。選ぶものには性格が表れるのでしょうか。周囲の吹きガラス作家さんを見ても、アスリート気質の方が多い気がします」

溶けたガラスを成形し、息を吹き込み、また成形して仕上げるといった一連の動きを通して、ひとつの作品を一気につくり上げていくところが、自分を追い込みながら最高の状態に仕上げていくアスリートに似ているのかもしれない。それだけに、作品には三浦さん自身の体調もダイレクトに反映されるという。たとえばグラスをつくる場合、体調がよいときで1日につくることができるのはおよそ20個ほど。明るい窓からやさしい風が吹き込む広々とした工房は、三浦さんが最高の状態でクオリティの高い作品を生み出すために、必要な環境ともいえるのだ。

読了ライン

制作過程で割れたガラスや仕上げ工程で切り落とした破片は、素材としてリサイクル。全体の2割ほど、ガラス片が活用される
使い込まれた道具の数々から、アンティーク好きの三浦さんらしさも伝わってくる。同じはさみでも大きさにより用途が違う
その日の作業が終わった夕方、工房の一角で自作のグラスに大好きなビールを注いでゆっくり味わいながら過ごすのが、三浦さんの癒しの時間

 


三浦侑子さんの食卓を拝見!
 
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text: Akiko Yamashita photo: Sadaho Naito
2023年12月号「うつわと料理」

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