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木工作家・吉川和人さんの
木の可能性を生かすものづくり【中編】

2023.10.27
木工作家・吉川和人さんの<br>木の可能性を生かすものづくり【中編】

木の個性に向き合い、暮らしに寄り添うアイテムや存在感を放つオブジェを手掛けている木工作家・吉川和人さん。木の可能性を生かすものづくりで、人と森をつなぎ、自然と共生する豊かさを伝えている。
 
意外にも木工作家になったのは30代半ばを過ぎてからという吉川さん。そのきっかけ、そして今後のものづくりに懸ける思いとは?

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スポルテッドのトチ材で手掛けた丸いオブジェ。淡い灰青色のバクテリアがトチ本来の白肌に広がり、唯一無二の意匠を生み出す。買い手が料理皿として使うために、ガラス塗装で加工予定。4万9500円

吉川さんが木工作家になったのは、30代も半ばを過ぎてからだ。ものづくりへの憧れは抱いていたが仕事にはなるまいと、好きだったプロダクトデザインに携われる「カッシーナ」へと入社。
 
しかし商品企画として工場の職人やデザイナーと仕事をする中で、自らのものづくりへの思いが再燃。背中を強く押したのは、2011年の東日本大震災だった。
 
「実家は福島だったので、地震でいろいろなことが大きく変わって。人生は一度きり、いまやりたいことをやろう、と。退職して木工の道へ」
 
選んだのは林業が盛んな岐阜の専門学校。木工コースで2年間学んで独立する。在学中から作品を抱えて、都内のショップへと営業活動に励んだ。
 
「家庭もあったので、早く仕事につなげねばと、常に必死でした」
 
初個展では、スプーンやうつわなどを展開。機能美を追求したミニマムさと有機的な柔らかさがある作品には多くの人が注目。すぐに話題となり、注文が相次いだ。いまやファンが展示会を待ちわび、即完売も珍しくはない、人気の木工作家の一人だ。
 
日用品からオブジェまで幅広く制作しているが、その大半をさまざまな種類の国産材で手掛けているという。
 
「トチ、サクラ、ナラ、カエデ、クリ、ナシ、シデ、ヒノキ、スギ……、使う種類は多いです。世界的に見ても日本は種類が豊富。だから使わないと」

色ムラのあるトチノキ、タンニンで中央が染まった黒柿、傷ついた木が自己治癒したため色変化した杉、その色ムラや傷に想像力を刺激される。トチノキはスプーンやオブジェに、黒柿は小物入れにするそう

国産材へのこだわりは、三重県の大台町で森の活用と保全に取り組みはじめたことも影響している。2018年から、トヨタ自動車のバックアップの下で、同社が所有する大台町の山林の木々を使っているのだ。
 
「町の木を使って地元企業と商品開発した『宮川ミラー』は、注文が途切れない人気の商品に。また木を教育に活用したいと、木工の授業や、工房で親子ワークショップの開催をしています」
 
森に育った少年は、木工作家として、森の伝道師として、木の新たな可能性を開いていく。今後はどのような活動を考えているだろうか。
 
「作家活動とともに木工の楽しさや自然と共生する歓びをシェアしていきたいです。木で道具をつくることは、おもしろいもの。木や森が身近になり、人は自然の一部だと、感じられるような取り組みを続けていきたいです」

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三重の山奥の工房「森へ行く日」のそばを流れる宮川。川を源流へとさかのぼるとユネスコ認定「生物圏保存地域」へ。深い森に浄化された清らかな水が湧く桃源郷のような絶景が広がる
吉川さんの工房近くにある小さな社。簡素な佇まいながらも、そのかたわらには巨木が2本並び、神聖な雰囲気が漂う。その雰囲気が好きで吉川さんも時々立ち寄るそう
木工所跡地を再利用した工房。50人は楽に入る広さがありワークショップに最適。また天井が高く、資材の保管や大型作品の制作がしやすいそう。裏はヒノキの林が広がる

 

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text: Yukiko Mori photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」

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