ジャパニーズウイスキー市場の
現状と未来
|世界的成長、原酒不足、クラフト蒸留所の挑戦とは?
日本で本格的なウイスキーが造られてから100年余り。世界で評価されるまでに急成長をしている市場、しかしそれに伴い供給が追いつかない現状。これからのジャパニーズウイスキーはどうなっているのか。ウイスキージャーナリストの住吉 祐一郎さんにお話を伺った。
文=住吉 祐一郎
ウイスキージャーナリスト。福岡県福岡市の「バー ライカード」オーナーバーテンダー。翻訳書に『ウイスキー・テロワール』(スタジオタッククリエイティブ)など多数。
需要の急増により、供給が追いつかない
ジャパニーズウイスキーの現状
1923年に山崎蒸溜所が建設に着手して100年、「ジャパニーズウイスキー」の人気は世界的に広がりつつある。特にここ10年間の躍進には目を見張るものがある。国税庁の統計では、2022年のウイスキー輸出額は過去最高の560億円を突破。だがこの額は、2023年には500億円、2024年には436億円と下降している。

2025年現在、稼働中の日本のウイスキー蒸留所は100カ所を数えるまでになり、準備中も含めれば120カ所を超えている。これらの大半は、これからウイスキーのリリースをはじめる。ここでは、ジャパニーズウイスキーが抱えている課題や問題点を挙げながら、今後の動向を推察したい。
ジャパニーズウイスキーは、過去に需要が低迷し、原酒を十分に貯蔵できていない時期があったため、近年の需要の急増によって在庫不足を招いている。増産体制を整えつつあるが、依然として生産量は限られており、ブレンド用の構成原酒も不足している。また、熟成には最低でも3年必要で、短期的には生産量を増大させることが難しいことから、需要の急増には供給が追いつかないという構造的なハードルが存在している。結果として、プレミアム銘柄は価格が高騰、一部の定番商品も品薄で入手困難となり、一般消費者には手が届きにくい状況が続く。近年では、蒸留直後の熟成させていないニューメイクウイスキーや、3年未満熟成品なども販売されるようになってはきたが、「味わい」においてマーケットの主流を形成する要素は極めて少ない。
変化しつつある
ジャパニーズウイスキーの信頼性
日本の酒税法に目を向けると、スコッチウイスキーなどに比べて定義が厳格に定められておらず、何をもって真のジャパニーズウイスキーであるかという信頼性に揺らぎが生じている。具体的には「原産国・熟成・混和(ブレンド)」の規定。すなわち、海外で蒸留・熟成した原酒を日本で瓶詰めして「日本産」として販売できること、ラベルや表示からは「いつ、どこで、どの程度の期間」熟成されたものかが消費者にはわからないことなどである。

だがもちろん、否定的な要素ばかりではない。日本洋酒酒造組合が2024年4月から施行した「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」では、上記の問題に対して基準を明確化している。とはいえこれは同組合内の内規。組合に加入していない生産者には適用されず、法的罰則を伴う法律でもないため、今後の法制化が喫緊の課題である。しかしながら、同組合が定義を明確化したことで、将来的にはジャパニーズウイスキーの品質が担保され、ブランドの価値と消費者の信頼度を上げることにつながるのは間違いないだろう。
さらに世界市場で高まる
ジャパニーズウイスキーの評価

そのような状況の中、海外での市場も広がりを見せている。特にプレミアムウイスキー市場は成長しており、スコットランドやアメリカのみならず、台湾、オーストラリアなどにおいても質の高いウイスキーが続々と発売されるようになった。ジャパニーズウイスキーに対するとらえ方も、洗練された風味や丁寧なものづくりという評価が定着しつつあり、「日本産」という付加価値が、ジャパニーズウイスキー=プレミアム・限定品というイメージを強くしている。世界的な市場調査・コンサルティング会社であるアイマークグループが2025年1月に発表した、「日本のウイスキー市場は2033年には約73億アメリカドルに達する」(!)という予測は非常に興味深い。
多様化する日本のクラフト蒸留所
そして、ここ最近の日本のクラフト蒸留所は、仕込みに限らず熟成方法や樽使いなどにおいても、よりはっきりとした個性を打ち出す動きが顕著になってきている。熟成原酒の不足という課題はあるが、その裏返しとしてノンエイジ(年数表記なし)、新しい樽・仕上げ、少量生産などで柔軟に展開する動きもある。さらに、日本では従来は行われていなかった蒸留所間における原酒の交換もはじまっている。注目すべきは、蒸留所から原酒を購入し、独自に熟成・ブレンド・瓶詰めを行う国内の「インディペンデントボトラー(独立瓶詰め業者)」の出現である。ジャパニーズウイスキーの個性と多様性には今後さらに拍車がかかるだろう。

冒頭で述べた「需給バランスのゆがみと原酒の在庫不足、品薄状態」を解消し、品質やブランド価値を維持しながら供給を増やしていくことは、非常に難しいバランスである。長期熟成品が評価される中、どれだけ安定して良質な在庫を確保できるか。また、在庫を確保すればするほど貯蔵庫も増設しなければならない。熟成年数とストック戦略だけでなく、熟成させる樽の確保も必要不可欠となる。
また、各地で増え続けるクラフト蒸留所間での競争も、より顕著になるだろう。それは、国内はもとより国際的な、とりわけ台頭してくる新興国勢との競争も意味する。単にジャパニーズウイスキーというだけでは差別化が難しくなる中で、「日本ならでは」の質と価値をどのように強化、表現、維持、成長させるか。そのためのPRや海外販路の開拓が必要になる。その意味において、ジャパニーズウイスキーの表示や定義の法制化と信頼性の構築は、消費者や輸出先からの信頼を得るためにも、ますます重要になるだろう。
ジャパニーズウイスキーが築く次の未来とは?
総じて、ジャパニーズウイスキーが世界に広がっているのは事実だが、それは業界の先駆者が長年かけて試行錯誤しながら培ってきた努力の結果である。ハイボールなどの飲用スタイルに見られるように、ウイスキーを気軽に楽しむ文化が拡大しているのは、間違いなく日本が切り開いた分野。知名度のある大企業にとって、今後はさらに品質を高め成長していく路線が有力だろう。また、環境配慮や地域資源の活用といった、サステイナブルな観点がブランド力を左右する要素になりつつある昨今、既存のブランド価値も強めながら、世界のプレミアム酒市場で確固たるポジションを築くことも重要だ。

その一方で、日本の大多数のウイスキー蒸留所は海外の消費者にはほとんど認知されていない。国内においてもまだまだ認知度が低いため、ウイスキーをよく知らない人に対して、自社蒸留所やウイスキーの特徴を簡潔に伝えること、ファンになってもらうことが重要だ。そのために、マーケティングやPR、販売戦略は必須。また、小規模生産のメリットを生かして地元産の原料を使用することで、テロワール性と独自性を強め、明確な個性を打ち出してブランド価値を向上させることも重要である。そして地方行政との連携や、観光(ウイスキーツーリズム)、蒸留所訪問(見学、ウイスキースクール)などでアピールの幅を広げれば、味わいだけでなく「体験も共有できる酒」という価値創造も可能になるだろう。
課題は多いが、日本人のものづくりにおける熱量と繊細さは、ウイスキーにも必ず生かされるに違いない。その時々の問題を解決しながら、世代を超えて100年後に、すべての蒸留所のウイスキーが楽しめることを願いたい。
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text: Yumiko Numa
2026年1月号「世界を魅了するローカルな酒」



































