TRADITIONS

能×異ジャンル 対談集中連載[第二回]
現代アーティストと語る能

2017.12.6
能×異ジャンル 対談集中連載[第二回]<br/>現代アーティストと語る能

日本の伝統的な絵画を、現代の視点で再構成する「ニッポン画」を描くアーティスト・山本太郎さん。能楽をモチーフにした作品も手掛ける山本さんとの対談から、能の「観方」を探った。

右)宝生流能楽師シテ方・佐野 登さん
宝生流18 代宗家宝生英雄に師事。演能活動や謡曲・仕舞の指導を中心に、日本の伝統・文化理解教育を行うなど現代に生きる能楽を目指し積極的に活動

左)ニッポン画家・山本太郎さん
1974年、熊本県生まれ。京都造形芸術大学美術学科日本画コース卒業。現職は秋田公立美術大学准教授。島田美術館で2018年2月19日まで展覧会開催中

想像が自由に広がる能のおもしろさ

――山本さんの能楽を題材とした作品をご覧になって、佐野さんはどう感じられましたか?
佐野 いやあ、よく考えているなあと思いましたね。思わず笑っちゃうんですけど、きちんとそれぞれの演目を表現されています。
山本 ああーっ、安心しました!目の前で佐野先生が私の作品をご覧になっているのを、ドキドキしながら見ていました。「ふざけ過ぎだと思われているのでは」と、心臓が飛び出しそうでした(笑)。
佐野 はじめは面をつけた人が掃除機を持っている、(※P165写真「隅田川 桜川」参照)その違和感に注意が集まりますが、能を知っていれば、川の流れがあって、花やそういうものから、「これは桜川の世界だ」というのがわかる。

――観る側の知識で、わかるおもしろさの深度が変わります。
佐野 それは能も同じですね。能の題材は、たとえば「葵上」という曲なら、昔の人はみんなその元になっている源氏物語を知っていました。物語やその登場人物の気持ちを理解した上で、「葵上」を観られた。しかしいまは、能の前にその元の物語を知らない方が多いので、難しく感じられてしまうことが多いのですが。
山本 でも能に登場する人たちの気持ちは、「そういうことってあるなあ」といまの人も共感できる部分がありますよね。だからこそ私はお能を、作品の題材にしているところがあります。
佐野 そういう元があるとき、山本さんは自分の解釈を入れる線引きを、どこでされていますか?
山本 観た方全員に「いいな」と言っていただけるということはないと思うのですが、お能にかかわる方が不快に感じられないようにはしたいと思っています。私、大学で学生にフィールドワークを通して取材をして、それを題材に作品をつくるという授業をしているのですが、いつも学生に先行するものへのリスペクトを忘れてはいけないと伝えています。取材された人が「こんな風に表現されるために、協力したんじゃない」と思うようなものは、作品として何か違うのではないかと思います。
佐野 なるほど。伝統が伝わるさまは生き物のつながりと同じ伝統芸能というと、昔から何も変わらないと誤解している方もいらっしゃいますが、未来に伝わっていくものは、昔のかたちをそのまま残しているということはまずない。能も、何百年もの間にどんどん変わっているんですよ。私たちは先達から教わります。教えてくれる人から自分へと伝えられてきますが、いずれその人はいなくなってしまう。今まで先導してきた人たちがいなくなると、今度は自分たちが一番前になっているというように、ずっと続いてきた伝統には必ず最先端がいます。
山本 伝統に最先端……。
佐野 伝統が続いていくというのは、そうした生命のつながり方と同じだと、私は感じています。崩すつもりはなくても、時代とともに変わっていくものもあるし、こうしたほうがより伝わりやすいと思えば、工夫もして変えるという部分もあります。
山本 その工夫がまた次世代に伝わっていくのですね。
佐野 いま私たちが舞っているのも、どこでどう変わっていまのかたちになったのかはわかりません。
山本 日本美術には「うつし」という文化があります。「うつし」は幅広い概念で、手本となる過去の作品をまったく同じに写すこともあれば、多少改変して移すこともあります。過去の作品を写して移していく中で、その時代時代のものが生まれるんです。そういう意味では、自分の作品もうつしの過程にあるもの、日本画の変化の一部なのだと思っています。

「隅田川 桜川」
向かって右側が「隅田川」、左側が「桜川」。非常によく似た物語のハッピーエンドとバッドエンドを対に描いている。掃除機は母の象徴

【 隅田川のストーリー 】
子をさらわれた母が、狂女となって隅田川のほとりをさまよううち、1年前に川岸でその子が死んだことを知る。悲しむ母の前に子の亡霊が現れ再会するが、亡霊はやがて消え、母は打ちひしがれる

もし山本太郎さんが道成寺を描くなら……?

観る人の想像力で豊かな景色が浮かび上がる

――山本さんは作品をつくる際、何を描き何を描かないというのを、どのように決めていますか?
山本 明文化するのは難しいですね。でも全部は描かないし、何で象徴させるか、すごく考えますね。
佐野 この「隅田川」で、掃除機を描いたのはなぜですか?
山本 母の象徴としてですね。この絵は「隅田川」と「桜川」が対になっていて、桜川が常陸国の桜川の物語なので、HITACHIの掃除機を持っているという……。
佐野 ははあ、なるほど!
山本 「隅田川」と「桜川」はほとんど同じ物語で、でも最後に子どもと生きて会える(「桜川」)ハッピーエンドと、子どもはすでに亡くなっている(「隅田川」)バッドエンドになっています。このふたつは左右を入れ替えても絵がつながるようになっているんです。
佐野 ふたつの物語の、紙一重の結末が想起されます。「弱法師」はもっと象徴的に描いてますね。
山本 これは実際に物語の舞台である四天王寺にうかがったのですが、石の鳥居のすぐ脇に電信柱があったんです。それで目が見えなかったら鳥居と間違えそうだなあと思ってこのように表現しました。
佐野 おもしろいなあ。私は来年の「道成寺」を演じますが、そういう発想で、山本さんが「道成寺」を描くとどうなるのでしょう?
山本 こんなことを言ったら笑われてしまうかもしれませんが、物語としては、現代でいう〝ストーカー〞ですよね。
佐野 清姫は「だまされた」、「裏切られた」という気持ちなのでしょうけれど、安珍はそこまで好意を匂わせていなかったのに、清姫に勝手に思い込まれたという見方はできるかもしれませんね。
山本 そういう思い違いというか、温度差が両者にあるかもしれませんね! 橋がかりから本舞台にかかるところの柱にからみつきつつ、こっそりのぞくような女性の姿を思い描いていたのですが、安珍の気持ちから描くというのもおもしろいですね。
佐野 白拍子が清姫なのか、それとも乗り移られているのか……。
山本 観る人の想像力で、実はいろんな「道成寺」が、それぞれの頭の中に生まれるのですね。
佐野 能はイメージが組み合わさっていくんです。たとえば月を愛でるシーンで、ただ「月」としか言わない。でも言葉を重ねていくことで、それが三日月なんだなとわかってくる。観る人が自分の頭の中でシーンをつくり上げて楽しむ、それが能のおもしろさのひとつでもあります。
山本 現代では何でもCGなどで描いてしまうので、想像する余地がなくなっています。でもCGの映像より、自分の想像のほうがはるかにリアルですし、おもしろい。
佐野 手がかりとして、知識があると、より想像が膨らみます。
山本 私が絵を描くときも、あまり描き込まないことで、観るときの遊びがある、というのに気づいてから、いまのような絵を描きはじめたような気がします。
佐野 知識があるからこそ、そこに含まれている一段深い魅力を味わえるというのは、確かにさまざまなものに対して当てはまります。でも能についてはまず何より、難しく考えずに触れる機会をもっていただきたいと思っています。
山本 あまり知識のない小さなお子さんにも教えておられるのはそのためなんですね。でもそのくらいの頃から親しんでいたら、構えることなく能が観られますね。
佐野 そうやって能のファンを増やすことも、伝統を未来に渡すために必要なことですから。
山本 佐野さんの「道成寺」楽しみです。
佐野 山本さんもぜひ「道成寺」描いてください。

©Taro YAMAMOTO, courtesy of imura art gallery

「白梅点字ブロック図屏風」
弱法師を導くのは、現代の視覚障害者誘導用ブロック。人物はほとんど描かれないが、杖や梅で「弱法師」だとひと目でわかる

【 弱法師のストーリー 】
他人の讒言(ざんげん)を信じて我が子を追い出してしまったことを悔い、天王寺で七日間の修行を営む父。最終日に現れた若い盲目の乞食が我が子だと気づき、親子の名乗りを上げて、落ちぶれた身を恥じる息子を連れ帰る

シテ方・佐野 登さん主催、小誌後援の能公演を開催
「 未来につながる伝統」―道成寺―
今年は公演前のトークショーゲストに、ダンスグループTRFのSAMさんをお迎え。
能にご縁のなかった方も、ぜひこの機会にその魅力に触れてください。

開催日:2018年2月3日(土)
時間:13:00開場/ 14:00開演
会場:宝生能楽堂
住所:東京都文京区本郷1-5-9
主催:佐野 登
後援:『Discover Japan』(枻出版社)
料金:SS席1万5000円/ S席1万円/ A席8000円/
B席7000円/ C席5000円/学割3000円
※SS席には公演後の
アフターパーティ参加費が含まれます

チケットに関するお問い合わせ
Confetti(カンフェティ) Tel:0120-240-540
公演に関するお問い合わせ
Eメール:shihoukai202@gmail.com Tel:03-3811-4843(宝生能楽堂)

チケットのお申し込み
confetti-web.com/nobo 

(text : Ihciko Minatoya photo : Kazuya Hayashi)

※この記事は2017年12月6日発売Discover Japan1月号P164~168から一部抜粋して掲載しています