大自然のアクティビティから文化体験まで
世界自然遺産「奄美・沖縄」攻略の秘訣は
エコツアーガイドにあり
世界自然遺産を訪れるには、生態系を守るための配慮も必要である。島に移住して案内人として活躍する4名に、島旅を満喫するヒントをうかがった。
島の暮らしを肌で感じる
ガイドとともにめぐる旅
昨夏に世界自然遺産に登録された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」。アマミノクロウサギやイリオモテヤマネコをはじめとする生物多様性が魅力の世界遺産だ。観光を生業とする方々が「登録はゴールではなく、あくまでもスタート」と口を揃えるように、世界自然遺産の本質は〝稀少な命を、どう残していくか〞。注目度が高まれば来訪者が増えるのは常だが、トレッキングツアーが盛んな森では数年前より靴底などに付着した種子から外来種がもたらされるなど、すでに生態系は脅かされつつある。そのため私たち観光客に求められるのは、一歩踏み込んだ旅の在り方。風土や暮らしを正しく理解することで、旅はより豊かなものになるはずだ。
そこで活躍するのが、各島に暮らすエコツアーガイドである。ガイドの方々が一様に大切にするのは、連綿と紡がれてきた島の何げない暮らし。ツアーの魅力は単なる島の案内にあるのではなく、ガイドブックには載ることのないであろう地域との交流や、自然とともに育む暮らしぶりの体験にあるからだ。暮らす人の目線を通した島の姿は、個人で訪れるだけでは体感できない。後世に残すべき遺産を多角的に知るために、まずは島に暮らすガイドに会いに行こう。
奄美・沖縄エリアのルールやエコツアーの取り組みもチェック!
バラエティに富んだツアーが充実!
どの案内人と旅を楽しむ?
島の自然を体感するからには、旅の心得は必須。安全なアクティビティ体験や一歩踏み込んだ島の姿を知るためにも、プロの案内人を頼ってみよう。
奄美大島
遭遇率99%!絶景ウミガメシュノーケリング
ウミガメと泳ぐシュノーケリングやスキンダイビングを中心に、海のアクティビティを提供している遠藤優人さん。素潜り漁師になりたいと考えていた際、島の人々が温かく受け入れてくれたことがきっかけで8年前に移住を決断した。漁師とガイドのふたつの顔をもつからこそ、アクティビティでは海の変化や食文化についても学ぶことができる。
「奄美大島は太古の自然が残っているといわれるものの、近年海藻は激減。そのため漁業と観光業ふたつの視点で、海の環境づくりにも参加しています。飽き性で転々としていましたが、いまは人の温かみが感じられる島の集落の皆さんとずっと暮らしていきたいなと。自然以外何もないことが心地いいんですよね」。
徳之島
暮らしの中に根づく島の文化体験
集落ガイドとともにエコツアーを企画している、徳之島出身の福本慶太さん。学生時代に一度島を離れたが、世界自然遺産登録への動きが強まったことがきっかけでUターンを決意。
「徳之島には人々が自然に負荷を与え過ぎない生活を送ってきた歴史が何百年とあります。だからこそ暮らしを守っていけるような観光を実現したいんです」と、ツアーは“日常を見てもらう”スタイル。
集落ガイドと島をめぐれば地元の人々が自然と集まり、知られざる地域の歴史や文化を教えてくれる。中でも島を代表する文化は闘牛だが、実際に闘うのは年1~2回。残り364日の生活にこそ日常文化が根づくため、牛の世話を通して島の暮らしを感じてみたい。
沖縄島北部
完全プライベートツアーで
やんばるの大自然を満喫
沖縄県宜野湾市(ぎのわんし)出身の妹尾(せのお)望さんは、サラリーマンを経て、同県東村に惚れ込んだ名古屋出身の妻とともに9年前に移住。ガイドの案内なしでは立ち入りが困難なやんばる国立公園内の沢や、森でのトレッキングなどを1組限定で案内している。
「どこが稀少なのかわかりにくい環境だからこそ、ガイドの役割はその魅力を伝えること。ヤンバルクイナのようなメジャーな生き物に注目が集まりがちですが、実は足元の何気ない草むらにも貴重な動植物が隠れているんです」と、ガイドがいなければ森の偉大さの半分も味わえない。山も海も川もあり、夜の生き物観察も楽しめるため、ガイドを頼っての長くゆるくの滞在がおすすめだ。
西表島
生き物を観察しながら
秘境のジャングルへ
幼少期から自然を愛し、20代の頃には海外の山岳地帯を旅した経験をもつ今村弘明さん。文明社会とは対極ながらも豊かな暮らしを求めた結果、縁あって10年前に西表島へ。現在はカヤックやトレッキングなどのアクティビティを提供している。
「地域活動に参加するなど、ガイド自身が地元に根づいた暮らしをしなければ、島の魅力を言葉で説明することはできません。小学校で海洋教育の特別講師を務めるなど、次世代の育成にも積極的に参加しています」と今村さん。
西表島といえば大小さまざまな滝を有する亜熱帯ジャングルが特徴的だが、星空ツアーや染め物などの文化体験も魅力。島全体を味わい尽くすためにも、日帰り旅行ではもったいない。
奄美・沖縄エリアのルールやエコツアーの
取り組みもチェック!
text: Natsu Arai photo: K.P.V.B, OCVB
Discover Japan 2022年3月号「第2の地元のつくり方」