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まめまめしく、いとおしい「手塩皿」
高橋みどりの食卓の匂い

2021.4.2
まめまめしく、いとおしい「手塩皿」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)など

本文中の1〜16の丸囲み数字は、写真上段右から左へ順に対応

手のひらに収まるほどのほんの2寸程度の小さなお皿。手塩皿、豆皿と呼ばれる存在をうつわ展で目にすると、そのつくり手の遊び心に触れるようでうれしい。

我が家の選り抜きの中、真っ白で薄いエッジの利いた正方形の皿は、中里隆作(⑪)。以前大きな平鉢と一緒に求めたもので、料理上手とお見受けする中里さんなら、こんな小さな皿に何をどんな風に盛るのだろう。同じく白くてマットな質感、左下に貝殻跡のあるモダンな四角皿は岩田圭介作(⑬)。揃いでグレー、黒も持つ。そこにあるだけでもいい存在。白い磁器の長方形皿は、江戸時代の伊万里(⑥)。うるかや酒盗などを地味に盛るとぴったり。白い皿でも風情はさまざまだ。

扇形の御深井焼(長辺W105、短辺W40×H23㎜)

うちの豆皿は大きいうつわ同様に、古いもの新しいもの和洋混合。今回惜しくも漏れたけれど、小さな洋皿はドールハウス用につくられたものが多く、小さいのにリアル。ウェッジウッドはウェッジウッドの顔つきであり、上質な遊び道具でもある。

骨董市へ出向けば、なんとか掘り出し物をと眼を凝らすが、そんな中でついひとつは持ち帰りたいと思う豆皿。ことに好みでもある、着物でいえば小紋柄のように、一面に細かい模様のあるもの。その出来上がり具合がよければよいほど高値である。江戸初期あたりのものとなればなおのこと。ただしその印判具合が多少ずれていたり、少しの欠けがあると手に入れやすい。そしてそんなちょっと不憫なぐらいがかわいさを増すと感じる。

だからうちに集まるものは少し向こう脛に傷のあるものばかりとなるがいとおしい。なぜかこの伊万里の小紋柄の類は、ひし形状やかつての糸巻き、山のかたちなど変形皿が多い(①④)。単調な柄だからこその遊び心なんだろうか。技法として「こんにゃく印判」といわれるが、うつわに柔らかな素材の版や型紙を用いて絵付けをしたもの。同様にこんにゃく印判の、こちらは雲なのか花なのか、ぽわんと押されたその淡い佇まいがなんともいえずいい(②)。

こんにゃく印判の伊万里焼(W50×D50×H15㎜)

薄墨で描かれたような筆の運びのある染付の皿(⑭)は、春霞か海に浮かぶ小島なのか、その小さな世界にとても大きな風景が浮かぶ。お汁粉に添えて実山椒など盛り、旅を思い描く。

染付でいえば竹文様の隅入角皿(⑦)もきちんとした存在感を示す。コーヒーのお供にビターなチョコレートを少し、カップの横に添える。青織部の角皿(⑤)は小さいからこそ魅力的、さらに小さくカットしたサイコロ状の羊羹を転がす。浅井純介作。

小さな片口の焼締(③)、茶色い釉薬(⑨)のものは、ともに石田誠作。おろしショウガや塩などに重宝する。

浅井純介作青織部の角皿(W75×D75×H20㎜)

粉引の白丸皿は花岡隆作(⑧)。こちらはうちの朝定食の定番、梅干し箸置きに。飴色の扇型にすすき柄、風情ある風景画にはやはり日本酒がよく似合う。あさつきに酢味噌を添えて楽しむ。

江戸後期の御深井焼(⑫)。黒と朱色の漆皿は赤木明登作(⑮⑯)。呉須と鉄絵の格子柄、この中でも一番のちび皿の絵付けはデザイナーの渡邉かをる作(⑩)。

あればあるだけ延々と続く、楽しい楽しい世界。

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
Discover Japan 2021年4月号「テーマでめぐるニッポン」


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