佇まいが美しい
「一柳京子さんのカプチーノ釉」
ただいま、ニッポンのうつわ
自分の料理や暮らしに合ううつわを求め続けて、高橋みどりが最近気になっているのが、ニッポンのうつわ。背景を知ると、使うのがもっと楽しくなることを伝えたい。今回は佇まいが美しい「一柳京子さんのカプチーノ釉」を紹介します。
高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『ありがとう! 料理上手のともだちレシピ』(マガジンハウス)など
一柳京子さん
1959年、東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科陶磁専攻卒業。1988年より夫の転勤に伴いストックホルム、ロンドン、東京、フランクフルト、サンディエゴで作陶。現在は東京に工房をもつ。
厚ければ重く見えがちな釉薬も、薄手の素地に薄くかかればなんともしゃれた佇まいに。泡立つような表情にカプチーノ釉と名づける、その柔らかい発想も好きだという高橋さん。「色の識別のために呼んだだけ」と一柳さんは恥ずかしそうだ。サンディエゴ滞在中の一時期、近くの大学のクラフトセンターに所属。きれいな色を使うメンバーがいて、「カフェオレみたい」と言う釉薬を教わったが、自分の窯で施釉法を変えてつくったらカプチーノと呼びたい仕上がりに。それが由来だ。
ろくろに触れた瞬間から「これが好き」と感じたという一柳さん。夫の赴任先でも続けたいと、小さな電気窯を自宅に。ストックホルムやロンドンでは、陶芸家やガラス作家の仕事に触れたことも糧になった。’90年代に日本で作品発表の機会を得、直後に渡ったドイツで制作に専念する。焼物は土地や食文化と結び付いたもの。その土地で手に入る材料で、自宅にもてる窯で続けたことが、条件の組み合わせで多様に変化する色の引出しを自然に増やしたに違いない。いまは国内の数種の土、ドイツやアメリカの土も使ってつくる。
自分の作品は、家の中や食卓で使う道具だから、強く主張しないものが多いという一柳さん。カプチーノ釉は自分にしては強いけれど、その分、強い色の野菜料理も受け止めてくれ、自身でも愛用する。「盛るのは一瞬。でもそのとき美味しそうに見えたらいい」。料理が好きという一柳さんの言葉に、高橋さんが一柳さんのうつわに惹かれる理由が見える気がする。
一柳京子さんの土と釉薬
釉薬とは
長石などガラス質を含んだ粘土に木灰などの媒熔剤、色の元となる酸化金属などの呈色剤を加えたもので、調合、土や灰の種類、素材の純度、窯の種類や温度などの焼成法の組み合わせで多彩に変化する。
霧吹きによる施釉
同じ釉薬でも、表情は器形や施釉法でも変わる。カプチーノ釉の浅鉢は、缶に釉薬を入れて息を吹き込む方式の陶芸用霧吹きで施釉。釉薬が厚くならず、部分により強弱をつけられるため、むらのある釉調に仕上がる。
滞在した海外の土と焼物
スウェーデンは粘土に恵まれないため炻器が多く、イギリスは陶土も磁土も産出。ドイツは可塑性がある緻密な粘土がライン川沿いで採れる。米国は流通する土の種類が多く土地や山の名がついたものもあるという。
text : Akiko Nariai photo : Yuichi Noguchi
2018年11月号 特集「ミュージアムに行こう!」