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冒険の旅に絶景あり
写真家・上田優紀が見つけたニッポンの自然6選

2024.9.8
<small>冒険の旅に絶景あり</small><br>写真家・上田優紀が見つけたニッポンの自然6選

エベレストをはじめヒマラヤの8000m峰から海中、そして南極から砂漠まで、世界中を旅しながら地球を“記録”する写真家・上田優紀さん。その心を動かした、日本の自然が見せる絶景とは——。

上田優紀(うえだ ゆうき)
写真家。1988年、和歌山県出身。京都外国語大学を卒業後、1年半をかけて45カ国を回る。帰国後、アマナに入社。2016年に独立。世界中の極地、へき地を旅しながら撮影を行っている。’21年にはエベレスト(8848m)に登頂した
https://yukiueda.jp

一年の大半を旅に費やし、世界中の自然を撮影している上田優紀さんにとって絶景とは?
 
「自分の心が動いた景色——それが絶景。だから人それぞれ違う景色だと思います。僕自身、旅をしていて出合った、グッときた瞬間を撮っています。僕の写真はいわゆる風景写真ではなく、“自然がこうあった”、“ここに行けばこう見える”という記録写真なんです」。そのため、写真にはタイトルをつけない。「余計な情報を加えたくないですし、僕というフィルターを通してはいても、絶景を前にしたときの感情はその人だけのものだと思うので。その場の空気感を大切に、丁寧に切り取るようにしています」
 
上田さんは、コロナ禍をきっかけに国内の自然も撮りはじめた。
 
「自然と共存してきた日本では、自然そのものはもちろん、祭礼や伝承、そこで暮らす人たちの自然観など、人の想いが込もった自然に惹かれます」
 
旅先では、宿泊先や飲食店で地元の人とのコミュニケーションを大切にしている。「こういう場所があるよと教えてもらったり、言い伝えを聞かせてもらったり。人間も自然の一部。これからは、自然とともにある人の営みも撮影していきたいと思っています」

01|富士山

撮影場所|山梨県 富士山麓
撮影日|2019年11月

「富士山には30回くらい登っている」という上田さん。秋の朝に撮影した富士山は威風堂々たる雰囲気。「季節によって姿が変わるのはもちろん、外(地上)からと、中からとでもまったく違います」。また、富士山信仰に代表されるように「信じているからこその象徴としての富士山という姿もあると思います。富士山を通して、日本人の自然観、宗教観といったものにも惹かれますね」

02|知床

撮影場所|北海道 知床半島
撮影日|2023年2月
撮影場所|北海道 知床半島
撮影日|2023年2月
撮影場所|北海道 野付半島
撮影日|2021年2月

「暑いより寒いほうが好きなので冬に行くことが多い」という知床は、上田さんにとって「人と自然との距離がすごく近い場所。冬はそれをより強く感じる」という。道路のすぐ横で流氷の上を歩くアクティビティを楽しむ人がいたり(写真上)、雪原をキツネが歩いていたり(写真下)。「流氷の下ってどんな世界が広がっているんでしょうね。いつか潜って撮影したいと思っています」

03|熊野古道

撮影場所|和歌山県 大門坂
撮影日|2020年4月

那智の滝から熊野古道、高野山へ。「和歌山県生まれで、先祖の墓も高野山にあるので身近な場所だけれど、熊野古道をきちんとたどったことはなかった」という上田さんが国内の自然を撮りはじめたのはこの旅から。「それまで僕が撮影してきた、人が立ち入れない自然に対して、熊野古道は人の想いが込もった自然。神さまを信じているわけじゃないけど、何か特別な存在を感じました」

04|屋久島

撮影場所|鹿児島県 太鼓岩
撮影日|2020年4月
撮影場所|鹿児島県 白谷雲水峡
撮影日|2023年4月

10回近く訪れているという屋久島。「森に3〜4泊して、季節で変わる森の様子はもちろん、朝、昼、夜と一日の中での変化を楽しみます」。下の写真はヤクシカ。上田さんの写真には、野生動物の姿をとらえたものも多いが、長時間待って撮影しているわけではない。「偶然見つけたり、“いいな”と思ってカメラを構えた先にたまたまいたり。なぜか動物に好かれるんです(笑)」

05|奄美大島

撮影場所|鹿児島県 金作原原生林
撮影日|2021年1月
撮影場所|鹿児島県 マングローブ原生林
撮影日|2023年4月

下の写真は、カヤック上で撮影。「特別な場所、有名な場所というわけではなくて、自分が“いいな”と思ったから撮るので、この場所がどこかは説明できません(笑)」と上田さん。島内をトレッキングしていたときには、道路脇の獣道を下りていった先で美しい滝にも出合った。「水の音が聞こえた気がして。自然に“呼ばれる”という感覚に近いかもしれません」

06|宮古島

撮影場所|沖縄県 八重干瀬
撮影日|2022年10月

上田さんが海を撮るようになったのはエベレスト登頂後。「山頂はかつて海底で、頂上部からは海の生物の化石が見つかっています。そこから海の中に広がる世界に惹かれるようになりました」。そこで見たのは海ならではの豊かな美しさ。「生物にとって厳しい環境の山を父、生命の源である海を母にたとえるように、海は多様な生物の宝庫。宮古島のサンゴ礁を見たときに実感しました」

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text: Miyu Narita
Discover Japan 2024年8月号「知的冒険のススメ」

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