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《美味しい魚図鑑》 Vol.4 サケ
サケとサーモンの違いとは?

2022.2.26
<small>《美味しい魚図鑑》 Vol.4 サケ</small><br>サケとサーモンの違いとは?
カラフトマス
photo by divedog

スーパーに並ぶあの魚、この魚。どんな海に生息し、どこで捕れるものが美味しいのか。本当の旬はいつで、どんな料理が合うのか。魚を知り尽くす小川貢一さん監修のもと、日本人なら知っておきたい魚の基本を詰め込みました。

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小川貢一(おがわ・こういち)さん
956年、東京・築地生まれ。仲卸3代目として築地で育つ。魚を知り尽くし、かつて築地で魚料理店の店主を務めた料理人でもある。著書に『本当に美味しい魚の見極め方』など多数

縄文時代から日本人とともにある魚

サケは日本人が食べている魚の首位を誇る人気者。スーパーの棚には「秋鮭」、「銀鮭」、「キングサーモン」などの文字が並び、刺身用のサク、生サケの切り身、甘塩サケなど用途別のバリエーションも豊富だ。しかしサケは、魚種の違いや収穫時期による呼び名の違い、サケとサーモンはどう違う? など、実はどんな魚なのかを知らずに食べている人も多い。

純粋に日本産と呼べるのは、マスを除けばほぼシロザケのみ。スーパーでよく見掛けるギンザケの多くはチリ産の養殖もので、ベニザケはアラスカやカナダ、ロシア産。サーモンはノルウェーやチリの養殖ものだ。

シロザケは、漁獲時期や成熟度によって呼び名が変わる。秋、サケは産卵のために生まれた川に戻ってくるが、故郷の沿岸に近づいてきたシロザケを「秋味」や「秋鮭」と呼ぶ。また、例外的に初夏に漁獲されるものは「時鮭」や「時不知」。秋のサケは身体に蓄えた脂肪分や栄養素を産卵準備のために使ってしまうが、時鮭はまだ身にとどめているため、脂がのり、その美味しさは格別だ。また、成熟前なのに産卵回遊群に紛れ込んだ若いサケを「鮭児」と呼び、稀少な高級魚とされる。

北海道や東北、新潟などのサケの産地において、縄文以前から日本人の暮らしはサケとともにあった。秋になると季節を違わずにたくさん遡上するサケは、食べ物が少なくなる冬を乗り切り、命をつなぐ重要な食べ物だったのだ。その暮らしを受け継いだアイヌ民族は、サケを「カムイチェプ(神の魚)」と呼び、新潟の村上では「イヨボヤ(魚の中の魚)」という。村上は、サケには母川回帰の習性があることを突き止め、世界ではじめて分流をつくって川に戻ったサケを保護し、サケ資源回復に成功した町でもある。

<鮭の基礎知識>

●科
サケ科

●旬
9〜11月

●名前の由来
漢字のつくりは、三角にとがってかたちがよいという意味である「圭」。また、アイヌ語の「サクイペ」、「シャケンペ」から、身が裂けやすいので「サケ」となったという説も

●魚種
シロザケ、ベニザケ、ギンザケ

●地域名、幼名
東京では「シャケ」、新潟県村上では「イヨ(魚)」、アイヌの言葉では「カムイチェプ(神の魚)」

●選び方のポイント
切り身の場合は、皮以外の部分で赤身の色の強いもの

●主な生息地(シロサケの場合)
千葉県以北と日本海、山口県以北の河川に遡上

●県別漁獲量ランキング
北海道:5万1700t
青森:1500t
岩手:1300t
宮城:400t
秋田:300t
山形:300t
新潟:300t

Q:川に戻ったサケを捕るの?
A:流通しているサケは海で捕ったものですが、一部で川のサケ漁も行われています

サケは川へ遡上をはじめると、成熟が進んでウロコも卵の膜も硬くなり、何も食べずにひたすら産卵場所に向かう。ウロコは変色し、オスは鼻曲りといって顔のかたちも変わり、身も痩せてくる。そのため現在のサケ漁の舞台は海。海岸に近づいてきたものは定置網漁、沖合では刺し網漁などで捕っている。なお、新潟県の村上では昔ながらの漁法でいまもサケを捕り、「塩引き鮭」という伝統食が受け継がれている。

Q:サケとサーモンの違いは?
A:刺身で食べられる養殖ものをサーモンと呼んでいます

日本のシロザケは寄生虫の恐れがあるため、加熱する料理に用いる。一方、日本のサーモンはほとんどが養殖もので生食できる。ノルウェーで海洋養殖されるアトランティックサーモンは国が手厚く管理し、美味しさと安全性が世界で認められている。欧米では、生食とは限らず、淡水で生活するものがトラウト、海に下りるものがサーモン。トラウトを海で養殖したものを「トラウトサーモン」と呼んでいる。

Q:スーパーでよく見る「銀鮭」は国産?
A:多くはチリ産の養殖もの。日本の食卓に並ぶ大半は輸入ものです

日本が誇る天然のシロザケは、養殖ものに比べて脂が少なくあっさりしているのが特徴。脂がのった魚を好む日本人が、あまり意識をせずに養殖ものを選んできた。そのためスーパーでは輸入もののサケやサーモンが幅を利かせ、安心・安全の国産のサケは中国やヨーロッパなどに輸出されているのが現状だ。

シロザケ
日本の河川に遡上するサケ。沿岸にいる、体表が銀白色の「銀毛」が多く流通する
ギンザケ
北太平洋北部に生息。チリ産の養殖ものが多いが、三陸地方でも海面養殖が行われている
ベニザケ
北太平洋、ベーリング海、オホーツク海に分布。身の色がサケ科の中で最も赤い
アトランティックサーモン
西・北大西洋、北極地帯に生息。ノルウェーで海洋養殖が盛んで日本にも輸入されている
サクラマス
日本近海やシベリアなどに生息。同じ種だが、海に出ず川や湖にとどまるものはヤマメ

Q:筋子とイクラは何が違う?
A:卵の成熟度合いに合わせて加工したもの

サケの子は「サケコ」、マスの子は「マスコ」といい、どちらも筋子やイクラとして流通している。筋子は、卵巣に包まれた状態の腹子をそのまま塩漬けにしたもので、イクラは卵巣から卵をひと粒ずつばらし、塩や出汁醤油で味つけしたもの。ちなみにイクラとはロシア語で「魚卵」のこと。

Q:サケは美容にいいってホント?
A:赤い色素は美容面でも効果抜群

サケに多く含まれるアスタキサンチンは高い抗酸化作用(万病や老化のもとといわれる活性酸素を消去する働き)があることで知られ、健康や美容面でも注目されている。また生活習慣病の予防効果があるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)も豊富。栄養バランスの優れた魚なのだ。

<column>
約4年後に生まれ故郷へ。
北海道や東北、新潟の川に戻ってきます

日本の河川で生まれたサケは、春になり、体長4㎝ほどに成長すると北太平洋を回る旅に出る。北洋で4年ほどを過ごしたサケは産卵のために日本を目指すのだが、その際は太陽コンパス説、地磁気コンパス説、海流説など諸説ある。沿岸まで戻り、母川を見つけるとき、サケは生まれ故郷の匂いを識別し、視覚も使っていることが明らかになっている。

シロザケの回遊経路

春頃日本から海に出たサケは、秋までオホーツク海で過ごし、ベーリング海やアラスカ湾を回遊し、一般的には4年後の秋に産卵のために生まれた川へと戻る

サケを凍らせて食べる「ルイベ」は
アイヌ民族発祥の料理

アイヌの人たちはサケを雪に埋めて凍らせて保存し、凍ったまま薄く切り分けて食べていた。ルイベは、アイヌ語の「ル(溶ける)」と「イペ(食料)」を合わせた「ルイペ」が語源とも。凍らせることで寄生虫対策にもなった

北海道の新巻鮭と
新潟県村上の塩引き鮭

サケは東日本での「年取り魚」。秋に捕れるサケを塩漬けにして干した北海道の「新巻(あらまき)鮭」(現在は干さないものも多い)、新潟・村上の「塩引き鮭」は、年末年始に欠かすことのできないごちそうだ

<trivia>
身は赤いけど白身の魚です

魚は、その筋肉中の血色素のミオグロビンの含有量により「赤身」、「白身」に分けられている。その区分にのっとれば、サケは白身の魚。身の赤さは、捕食するエビやカニなどの甲殻類によるアスタキサンチンが含まれていることによる。
 

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text: Yukie Masumoto 写真提供=国立研究開発法人水産研究・教育機構、
フーズリンク、農林水産省「うちの郷土料理」、小枝圭太(東京大学総合研究博物館)、
標津サーモン科学館、PIXTA
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」

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