ドミニク・チェンさん編
《私たち、発酵で健康になりました》
“発酵食によって「食べる」の概念が変わる”
古来より、日本の食文化の中心にある発酵食品。全国各地でさまざまな特色を放ち、そのバリエーションや文化としての根付きかたを見ても、日本は発酵の国と言っても過言ではありません。そんな発酵食品の魅力をご紹介します。
ドミニク・チェン
博士(学際情報学)、早稲田大学文化構想学部・准教授。情報学研究者・起業家。テクノロジーと人間と人間以外の生命システムの関係性を研究している。主な著書に『未来をつくる言葉—わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)などがある
微生物と共生することで
「食べる」概念が変わった
情報学研究者として活躍するドミニク・チェンさんが発酵の魅力に開眼したのは10年以上前。友人から分けてもらったぬか床がきっかけだ。
「それまで触ったこともなかったのですが、自分で漬けたぬか漬けの美味しさに驚いて、夢中になりました」
食材を入れておくだけで美味しく変化する。その微生物の神秘的な働きを調べていくうちに、当時ITのスタートアップを起業し、研究していたインターネットとの構造的な相似性に気付いたという。
「不特定多数の人間が、言葉や写真、映像といったコミュニティに集まり、新しい情報を生み出すインターネットの文化的ダイナミズムは、変化しながら人の身体に影響を及ぼす微生物の働きに似ていると考え〝インターネットはぬか床だ〟と言いはじめたり(笑)」
そこからさらにのめりこみ、発酵の進み具合や混ぜるタイミングなどを教えてくれるAIぬか床「NukaBot」を開発。加えて、奥さまがつくった効率的かつ楽しい「miso box」など、日々の食生活に発酵食は欠かせないそう。
「日々胃腸がととのっているのを実感します。海外出張でぬか漬けを食べない日々が続くと、自分が、というより、腸内フローラがその変化に戸惑っていたり。生き物と対等に共生している感覚がありますね」
その微生物との共生、そして発酵食によって「食べる」ということの概念が変わったと続ける。
「人間は食べることによって健康になる。そこをより深く、腸内の微生物たちにとって何が喜びか、を考えるようになりました。それは外側の世界とも同じで、微生物のように自分という存在が、環境と対峙するのではなく取り込まれ、変化していく。発酵微生物との接点が増えることで世界の見方が変わるので、興味は尽きませんね」。
text: Yukie Masumoto photo: Kiyono Hattori
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」
≫農学博士 中島春紫氏に学ぶ、日本人の健康を支える”麹のひみつ”