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プロダクトデザイナー 辰野しずか
「つくり手と使い手の心を満たすプロダクトを」

2019.8.8
プロダクトデザイナー 辰野しずか <br>「つくり手と使い手の心を満たすプロダクトを」

プロダクトデザイナー辰野しずかさんの思考の背景を探るシリーズ。最終回の今回は、辰野さんがものづくりをするうえで大切にしている二つの考え方を聞いた。

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辰野しずか(プロダクトデザイナー)
1983年生まれ。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具科に入学、首席で卒業。2011年に独立したのち、2017年にShizuka Tatsuno Studioを設立。日本の工芸とのコラボレーションをはじめ、背景や意味を感じさせるデザインに定評がある。2016年、ELLE DECOR日本版「Young Japanese Design Talents」賞ほか受賞多数

日本古来の美を表現するKORAIの新作センスウェア『漣/Ren』は、今年のミラノデザインウィーク期間中に、ブレラ地区で発表されると話題に。風や光というとらえ難いものに敏感に反応し、それに触れる人の心や感性に語りかける辰野さんのデザインと、伝統的な木工技術を継承する黒田工房の技は、世界の人の心を動かした。

辰野さんがデザインをする上で大切にしているのは、最終的に自分が欲しいかどうかを考えること。

「誰かのニーズに寄り添い、その人にプレゼントをするような気持ちでデザインをしていたときもありましたが、それでは世の中に出たときに不要な主観が入り弱くなってしまいます。だから最終的には自分が本当に欲しいかどうかを追求し、ジャッジポイントは自分の心に聞いています」。

KORAI 漣/Ren
建具づくりの技を取り入れた、水面をイメージした組木の木製モビールは、京都の老舗建具工房「黒田工房」の木工職人である臼井浩明氏とのコラボレーション。プロダクトとアートピースの境界をゆるやかに横断するものづくりは辰野さんの真骨頂

長年、日本の工芸に並走しながらものづくりをしてきた辰野さんだが、使い手目線と同時に、最も気にしているのがつくり手のこと。その思いが具現化しているのが有田焼の新ブランド「mg&gk」だ。

「工芸とのものづくりにおいて、デザインがクリアできても、つくり手の経営的理由でつくり続けることを断念してしまったりと、試行錯誤することは何度もありました。中川政七商店さんの依頼で携わったこの仕事は、長年気にしていたつくり手の経営面も一緒に考える仕事でもあったんです」。

中川政七商店と佐賀県の共同コンサルティング事業の一環として立ち上がったこの仕事で、辰野さんは有田焼の渓山窯のための新ブランドを手掛けた。

「KORAIと異なるのは窯元自らが販売することです。私の役割のひとつにつくり手のやりがいを引き出すことがあり、そのためにも渓山窯らしさを生かしてデザインすることが重要でした。つくったものが評価されることで窯元の自信につなげたいという思いで取り組んでいます」。

産地がもつ「らしさ」をデザインで具現化した上で、つくり手が愛着をもってつくり続けることができる仕組みづくりをするのが辰野さんの仕事。そこまで考え抜けるのは、つくり手の思いと未来を想像できる辰野さんだからこそ。

「それは当然のことだと思うんです。なぜなら彼らの生活がかかっているからです。だから売り手や買い手がすでにある場合を除き、工芸に関しては自分からつくりたいと仕事をもちかけることはありません。工芸メーカーの現状はそれくらい繊細なものなんです」。

mg&gk
スイーツと紅茶を楽しむための「フィナンシェと紅茶のセット」。みずみずしく独特なゆるさをもった有田焼の窯元「渓山窯」の絵付けの技術を見極めた上で、通常よりさらに薄く描いた絵付けを施した

その上で大切にしているのは、つくり手の心が折れないようにすることだと辰野さんは語る。

「つくり手のことを真剣に考えて取り組んでいますが、何かを少し間違えただけですべてが崩れてしまう危うさを伴っています。つくり手もユーザーも心が満たされるようなものをやりたいと思っています。ですがハードルはめちゃくちゃ高いんですよね」。

それぞれの暮らしに寄り添い、デザインで応える辰野さんの仕事は、今後ますます世の中で必要とされるものだろう。

文=加藤孝司 写真=工藤裕之
2019年8月号 特集「120%夏旅。」

《和の思想に基づいた辰野しずかのものづくり》
1|海外に出て気づいた日本のものづくりの魅力
2|茶道の思想から着想を得て生まれたブランド「KORAI」
3|つくり手と使い手の心を満たすプロダクト

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