《THE SHINMONZEN》
京都の古とモダンが融合する
ラグジュアリーなブティックホテル|前編
祇園の北側、古美術商やギャラリーが点在する新門前通に開業した、わずか9室のインターナショナルホテル「THE SHINMONZEN(シンモンゼン)」。暖簾の奥に広がるシンプルで上質な空間に感嘆の声が上がる。
文=せきねきょうこ
ホテルジャーナリスト。1994年から現職。仏アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。環境・もてなし・癒しの3テーマを軸に現場取材主義を貫く。著書多数
www.kyokosekine.com
安藤忠雄氏の建築と
オーナーの美意識が心地よく融合
京都駅のホームで出迎えてくれるスタッフとともに送迎車に乗り込み、ホテルへと向かう。ヨーロッパの駅で見掛けるシーンのように旅の情緒満載だ。
墨色の邸は通りの家並みに溶け込み、時折、風に揺れる黒い暖簾に浮き上がる白い「S」のロゴが、かろうじてここがホテル「THE SHINMONZEN」であることを知らせてくれる。
暖簾をくぐり、一歩建物に足を踏み入れると様子は一変する。ミニマルなデザインの長い通路の壁は、一方が木彫の格子づくり、もう一方はコンクリートの打ちっ放しだ。シンプルなアプローチだが美しく、ここから名建築家・安藤忠雄氏の世界へとグッと惹き込まれ、滞在への期待感がさらに大きくなる。
アプローチの先にあったのは白川に面した明るいロビーエリアだ。半分がゲストエクスペリエンスキュレーター常駐のレセプションエリア、書棚で仕切られたもう半分は、お茶や軽食のできるラウンジとして使われる。
THE SHINMONZENのオーナーはアイルランド人、パディ・マッキレン氏。彼はアートに造詣が深く、アートがゲストを癒す力にもなると確信する。館内には、そのマッキレン氏のコレクションが随所に飾られ華を添えている。実は、マッキレン氏は過去15年間、フランス・プロヴァンス地方にバイオダイナミック農法のワイナリー「シャトー・ラ・コスト」を所有する一方、2017年には約2.4㎢の土地に最高級クラスのホテル「ヴィラ・ラ・コスト」を開業し、世界的な賞を次々と受賞するなど、グローバルなビジネスを展開中だ。そのマッキレン氏が、プライベートコレクションのひとつとして誕生させたのが、日本初進出となる極上のブティックホテルである。
建築デザインはマッキレン氏の友人でもある安藤忠雄氏が担当。THE SHINMONZENの空間はシンプルでエレガント、上質なマテリアル遣いや調度品は南仏のプチホテルを思わせる。
かつて世界のセレブリティやそうそうたる美術愛好家が、日本のアートや古美術に魅せられ通ったという新門前通。貴重な歴史を宿すこの古美術品の聖地を、マッキレン氏は自身のホテルの地と決め、東西文化融合のホテルが誕生した。
text: Kyoko Sekine photo: Mariko Taya
Discover Japan 2022年5月号「ニュー・スタイル・ホテルガイド2022」