ラッセル・ライトの
「シックでカラフルなプレート」
高橋みどりの食卓の匂い
スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。
高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)など
一人暮らしをしたいと思うきっかけのひとつに、自分らしい空間で私らしい暮らしをしたいという思いがあった。そんな思いから早30年、これまでに4回の引っ越しをし、その都度の生活環境をつくってきた。手探りから手応えを感じ、物も増え、調整して心地よくしてゆくことも覚えた。
朝、洗濯を干しているときに、「あらっ、この洗濯バサミずっと使っているな」と驚くことがある。面倒臭いからそのまま、ではなく、それが好きなものだからずっと使っているわけで、しかも友人からもらった北欧土産だったという背景が見える。手元に残ったものには理由がある。時々見直す食器棚にしてもそう。引っ越し4回の折には、さらにその見直しに拍車がかかり、その都度に必要なものをふるいにかける。そんなふるいをくぐり抜けて、ずっと手元にあるものがいくつかある。
このラッセル・ライトのうつわもそれだ。一人暮らしをはじめた頃、自由が丘の外れに住んでいた。仕事は車で移動する。いつも通る目黒通りには、当時気になるインテリアの店がいくつかあった。仕事上撮影用のもの探しに立ち寄ることも多かったけれど、そのミッドセンチュリーモダンの店は隠れ家のようで、店主との立ち話も楽しい時間だった。数ある物の中でひと際気になるうつわがあり、それが ラッセル・ライトのものだった。その頃持っていたうつわは和のものを中心に、洋のものは白いプレーンを少し。そんな無難な品揃えに、このシックでカラフルなうつわが必要だと思った。という理由を見つけて、店に行くたびにひとつふたつと買い足していく。シンプルでありながら曲線ラインが美しく、皿ばかりでなくソース入れ、カップ&ソーサーなども。でも何よりも気に入っていたのは、その魅力的な微妙な色合いだ。当時聞いていた話はもはやうろ覚えなので、ここでもう一度このうつわについて振り返ってみたい。
ラッセル・ライトは、1929年の大恐慌後のアメリカ的モダニズムの確立に大きな影響をもたらした工業デザイナー。当時ヨーロッパの装飾的なデザインが主流だった時代に、「正式なディナーウェアとピクニックの紙皿の中間になるような」をコンセプトにカジュアルでデザイン性の高い食器“American Modern”シリーズを発表した。色は10色展開だが、製造期間中に起きた第二次世界大戦の影響もあり、つくられ続けた色には変遷がある。またそれまでのセット売りではなく単品販売というかたちや、収納のしやすさを考えた点においても一般の人々に反映し、テーブルで創造的なモダンなデザインを楽しむことを奨励したといわれている。まさにこのうつわの存在は、いまもって私の食卓での楽しさを醸し出してくれている。
手元に残るgranite grey, chartreuse, coralpink, bean brown, cedargreen, bone whiteの6色の皿、その独特のシックな色彩に引き寄せられるようにのせる食材は、いつもとはまた違う顔を見せる。渋めの色合いは、取り皿として染付の皿や陶器との相性もいい。ピリリと効いた楽しさを添えてくれる、なくてはならない存在なのだ。
アメリカンモダンシリーズのピッチャーなど、さまざまなアイテムを当時買い集めていたが、手元に残ったのはプレートのみ。こっくりした独特の色合いで食事やお茶の時間を楽しむ。
relish
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※ビンテージのため同類商品がない場合もあり
text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
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