片づけで感じる時空を超えた母の愛「くるみの木」石村由起子さん
本誌でもおなじみの各業界で活躍する著名人に、おうち時間の過ごし方やアイデアを聞く《DJ的・おうち時間の充実計画》。奈良県で「くるみの木」を主宰している石村由起子さんは、おうち時間に自宅の片付けをしながら、自分が育ってきた環境をゆっくりと振り返りました。
石村由起子(いしむら・ゆきこ)
香川県高松市生まれ。奈良でカフェ・雑貨店「くるみの木」や、観光案内所・食堂・レストランからなる複合施設「鹿の舟」を運営。町づくりの手伝いや商業施設のプロデュースも手掛ける
普段から、家での時間が少しでもあると、冷蔵庫や食器棚、小さな引き出し、クローゼットに靴箱の中などなど、目につくあらゆるものを一心不乱に整理整頓しては、ものすごい疲労感の中に心の安まりを感じて止められない。布団に入って身体を休めたほうがいいのはわかっているのに、思い立ってしまったら夜中であろうと片づけをはじめてしまって、トイレに起きた夫から、「ケガするなよ」と寝ぼけた声を掛けられたりして、気がつけば空が明るくなっている……というのは、よくある話です。
そんな私にも毎日家で過ごす時間が急にやってきたのだから、やることは決まっています(笑)。その中で見つけた「古い雑誌の切り抜き」。私の長年の片づけの歴史に何度も登場しては、そのときそのときにいろんな気持ちを与えてくれるもの、それは……。
「子どもの頃、祖母にいろんなことを教わった」というのは、いままで取材をしていただくたびに何度となくお話してきたことです。本当に、その通りで、教師をしていた母は忙しくて、母娘がゆっくり会話する時間が少ないのではないかと心配した祖母が、交換日記を勧めてくれたほどでした。(余談ですが、この交換日記に書いた将来の夢というのが、いまの「くるみの木」のはじまりなのです。詳しくは『私は夢中で夢を見た』(文藝春秋)などに書いています。)母は実は編み物が好きな人で、少しでも時間があるとせっせと手を動かしていた光景、好きだったなといまでもたまに思い出します。
見つけた切り抜きというのは、その母が切り抜いていた、小さな子どものための毛糸の服や、小物の編み方を指南するページ。もちろん写真などなく、すべて手描きのイラストで表現された、昭和の懐かしい香り漂うものです。その色合いがモダンで、子ども用でも上品なかわいさがあって、何十年と時を経たいま見ても、「すてきだな」、と思って、毎回手を止めてはジーっと見入ってしまいます。
母が毎月購読していた『婦人之友』なのか、はたまた『暮しの手帖』か……。切り抜きなので詳しくはわかりませんが、とにかくザラザラした紙に印刷されたそれを、何年かに一度見つけては、片づけの手が止まって、まるで幼い頃にタイムスリップしたような感覚になることもあります。そんなこんなで、ハッと気がつけば何十分も経っていて、片付け途中のすごい量のモノに囲まれている、という現実に引き戻されて慌てているのです。
「よいものを使いなさい。買うなら少し高くても、よいものをね」とよく言っていた母。忙しくて時間がないのに、幼い私のためにすてきなものをつくろうとしてくれていたんだな、と母の気持ちを想像して、しみじみします。
片づけは時空を超える……。大げさだけど、いま、立ち止まって、いろんなことを考えたり大切なことを思い出したりする、貴重な時間をいただいています。
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執筆=4月14日
文=石村由起子、イラスト=植岡恵美
2020年6月号 特集「おうち時間。」