『総本家 宝玉堂』の鈴煎餅
民芸の手業と遊び心を宿した食べる玩具
福田里香の民芸お菓子巡礼
民芸とお菓子の甘い関係をひも解いていく、お菓子研究家・福田里香さんの《民芸お菓子巡礼》。今回は京都・伏見稲荷大社の門前菓子として知られる、総本家 宝玉堂の「鈴煎餅」を紹介する。
福田里香(ふくだ・りか)
お菓子研究家。書籍や雑誌を中心に活躍。民芸一家に生まれ、布芸展名義で、青森の民芸刺繍を新しく展開した『こぎん刺しの本』(文化出版局)がある
民藝運動が再発見した手仕事の中には、素朴なかわいらしさの郷土玩具も含まれます。木、竹、紙、土、布などを素材にした庶民の玩具は、基本的に安価。ですからその工程には、職人たちの創意工夫が凝らされた手間や手際が満載で心から感嘆させられます。
しかし現代では玩具の素材が、プラスチックなどの人工素材にさま変わりしたのはご存じの通り。
民藝運動が指向した“手業の善さ”が残っているとしたら、案外それはお菓子ではないかと思っています。お菓子にはもともと遊び心が大事ですし、ある種のお菓子は玩具としても機能しているからです。たとえば、京都の伏見稲荷の門前菓子として有名な「総本家 宝玉堂」のいなり煎餅は“辻占”です。
焼きたてでまだ生地が軟らかいうちにふたつ折りにし、両端を合わせ、合わせ目に紙を挟んだ造形は、鈴を模しているそう。割って紙を取り出すと占いのとぼけた文言が書かれていて思わず笑みがこぼれます。上質な白味噌を練り込んだ香ばしい煎餅は間違いのない美味しさ。これは食べる玩具です。
総本家 宝玉堂
住所|京都府京都市伏見区深草一ノ坪町27
Tel|075-641-1141
営業時間|7:30〜18:00
定休日|なし
text : Ricca Fukuda photo : Wakana Baba
2018年1月号 特集「ニッポンの酒、最前線!」