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陶芸家《Aya Ogawa》
日本と北欧の美意識が溶け合う
柔和で幻想的なデザインのうつわ

2025.8.1
陶芸家《Aya Ogawa》<br>日本と北欧の美意識が溶け合う<br>柔和で幻想的なデザインのうつわ

日々を丁寧に過ごすためにも、休息を大切にする北欧のライフスタイル。小川綾さんのうつわにも、立ち止まって前を向くための小さな気づきが隠されている。東京・渋谷PARCOにて《Aya Ogawa 個展》が2025年8月2日(土)~8月11日(月)にかけて開催される。北欧デザインが生きる、和洋が溶け合ったうつわの魅力とは?

※個展初日の入店について、一部時間帯に整理券が必要です。詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)、または公式オンラインショップをご確認ください。

Discover Japan公式オンラインショップでは、本展の一部作品を8月5日(火) 20時より順次販売予定です。(店頭の販売状況により日程・内容が変更になる場合があります)

Aya Ogawa (あや おがわ)
陶芸教室で焼物に魅了され、「TORTUS COPENHAGEN」主宰のワークショップに参加。国内外で支持され「第51回欧美国際公募 フィンランド美術賞展2019」で優秀賞を受賞。

“自然の移ろい”に気づく
きっかけを届けるうつわ

国内外にファンをもつ人気作家でありながら「いつも個展のお誘いがあると、私でいいんですかって思いながらやっているんです」と語る小川さんは、ものづくりの仕事を遠い憧れの世界だと感じていた。「仕事に追われる中で自分の時間が欲しいと思い、陶芸教室に通いはじめたんです。専門的な学校も出ず、どこかで修業した経験もないまま、なんとなく世に出てきてしまって」と、当初は本業にするつもりはなかったという。

異なる花器を複数並べるのが小川流。日本の美意識と通じ合う北欧デザインに学んだとあり、和洋が溶け合った雰囲気をまとっている

 そんな小川さんが作品に掲げる普遍的なテーマは「余白」。昔から北欧のデザインや暮らしに憧れていたそうだが、本展のテーマである「自然を感じる生活」には、行き過ぎた近代化の道を突き進む日本に、余白をもたらしたいとの願いも込められている。

「幸せになる。豊かになる。そんな言葉が頻繁に使われていますが、以前から具体的にはどういうことなんだろうと考えていて。『自然と暮らす』というと大それたテーマに聞こえますが、暮らしの中にある野菜や花に目を留めるような些細なことが豊かさなのかなと。幸せや豊かさって、目指すものではなく気づいたらあることなんでしょうね」。花を愛でる“余白”が日常に流れている北欧の暮らしを、自身の作品を通して取り入れてもらいたいと望んでいる。

ろくろで成形した花器に、鉋(かんな)を使って手早くしのぎを削る。均一な削り幅に調整しつつも、手仕事のためふたつとない作品に

とはいえ「一昨年ふと気づいたんですが、ゆったりとした生活を求めて陶芸家にシフトしたものの、やっぱり時間に追われているんですよね」と、小川さん自身も余白との向き合い方に四苦八苦している模様。そんな本末転倒な生活を立て直すべく、広げ過ぎた土や釉薬の種類を目下集約しているところなのだとか

「本を読みたい、映画を観たいといった、ささやかな楽しみも味わうことが難しいからこそ、それらが非日常になっているんです」。余白を生み出すために行っている集約のプロセスが、かえって小川さんらしさを凝縮することにつながるのかもしれない。

1年半前に開設したアトリエは、心地よく仕事ができるよう日々調整を続けている。作業場から見える庭では植物が揺れ、時折野鳥もやってくる。「植物と暮らす楽しさをあらためて感じたことも、個展のテーマにつながっているところで。今年は紫陽花がたくさんの花をつけてくれたのですが、切り花とはひと味違うさまに感動しましたね」。そう話す小川さんは、陶芸の道や、ゆとりある暮らしといった憧れを手繰り寄せ、日常の中にそっと落とし込んでいる。

Aya Ogawaのうつわができるまで

ろくろで生み出す穏やかな曲線
電動ろくろは10年以上にわたる相棒とあり、定番作品であれば手が勝手に動くのだとか。土の塊は幾度となくかたちを変え、やがてうつわへと姿を変えていく

「買うときには結構な勇気が要りましたね」と笑う、アトリエで作品を生み続ける電動ろくろは、ワンルームマンションに住んでいた会社員時代に購入したもの。当時から「陶芸家になれたらいいな」と頭の片隅では思っていたものの「なろうと思ってなれるものではない」と、自身を客観的に見つめていたのが小川さんらしい。

釉薬でつくり出す奥深い色の世界
まったく同じ土と釉薬を用いても、高温で焼成すると明るい鮮やかな色合いに。反対に低温で焼成すると、茶系の暗い色合いになる

というのも「学校で陶芸を学んだ方は、原料の特性や計算方法を知った上で釉薬をつくるんですが、私の場合はとりあえずやってみようという感じ。ちょっとした実験ですよね」と話すように、小川さんの世界観は、幾度となく調整を重ねる地道な努力と、天性の勘によるもの。昔から理数系は苦手だったというが、化学実験のような釉薬調合には、自分の人生をも客観的に見つめられる論理的思考が生かされているのかもしれない。

「海外の方はあいさつで『I hope your fine.』って言うじゃないですか。あなたが心地よく元気で暮らしているのを私は願っているよって。いい言葉だと思うんです」と、作品に“hope=希望”のようなものも滲ませられれば……、と小川さんは話す。心が沈みそうになったとき、小川さんのカップで飲むコーヒーが些細な希望を見つけるきっかけになるかもしれない。そんな願いを込めたうつわは、歩みをゆるめることの大切さを教えてくれるツールともいえる。

緑を身近に感じられるアトリエ

小川さんの祖父が暮らしていた家屋をリノベーションしたアトリエ。庭に植えられたジューンベリーの実からジャムをつくるなど、緑が近いからこそ、生活をともにするものが完成していくまでの工程を楽しんでいるのだとか。作家としての原点が街の陶芸教室にあることから、ウェルビーイングなひとときを過ごすワークショップも随時開催している。

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うつわ作品ラインアップ

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Aya Ogawa 個展
会期|8月2日(土)~11日(月)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
※初日に整理券配布予定。
※詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)にてご確認ください。
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。

渋谷パルコ《Aya Ogawa 個展》
01|日本と北欧の美意識が溶け合う、柔和で幻想的なデザインのうつわ
02|うつわ作品ラインアップ

text: Natsu Arai photo: Shiho Akiyama
2025年9月号「木と生きる2025」

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