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民藝に沼る蒐集家・郷古隆洋さんに教わる
民藝が愛される理由と
愛し続けるための秘訣

2023.8.2
<small>民藝に沼る蒐集家・郷古隆洋さんに教わる</small><br>民藝が愛される理由と<br>愛し続けるための秘訣

1926年に柳宗悦らが「民藝」を提唱してからまもなく100年。全国各地に根づいた民藝品は、生活に根ざしているからこそ、時代による生活様式の変化に寄り添ってきた。
 
古いものの魅力は、いまは出せない色やかたち、経年の重み。現代のつくり手はそこに挑み、自分なりの解釈で新しいかたちを生み出していく。それが生活の中にあることがいとおしい。
 
長きにわたって民藝が愛される理由と愛し続けるための秘訣を蒐集家の郷古隆洋さんにうかがった。

Swimsuit Department 代表
郷古隆洋(ごうこ・たかひろ)さん

蒐集家。アパレル業界を経て、2010年に「Swimsuit Department」を設立。国内外から集めた雑貨を販売する「BATHHOUSE(バスハウス)」を東京、名古屋、福岡で運営。店舗のインテリアコーディネートなども手掛ける

東京・神宮前の「BATHHOUSE」にて。民藝品をはじめ、ジャンルや地域を限定せず、郷古さんの感性で集められたものがそれぞれの魅力を放つ

「実は、時代やニーズに合わせて少しずつ進化しています」

古美術店や古書店、「古」がつくありとあらゆる場所に足を延ばすほど、古いもの好きの郷古隆洋さん。東京の拠点や家族と暮らす福岡・太宰府の家、3店舗ある店は集めたものであふれ、いずれも仕舞い込むことはせずに、日々手に取って慈しむという。
 
「民藝の本や民藝館などでいいものをたくさん見てきましたが、手元にあって、触って、感じるのが一番。たとえば小鹿田焼にしても、昭和時代のものは無骨でどっしりしています。高台の厚さや独特の色合いは写真ではわからない。力強さも美の要素だとされる民藝のうつわは、食卓で使ってこそ、心から美しいと感じます」
 
一方で、現代のつくり手のものは、編集されたおもしろさがあるという。かつて酒や醤油を入れた蓋付きの大きな甕は消えてゆく運命にあるが、現代の食卓に合うようリサイズされ、伝統の技法が新しいデザインに生かされている。
 
「民藝も伝統工芸も、生活様式に合わせて変化していかなければ、手に取る人はいなくなります。それは弥生時代の土器から連綿と続いていて、民藝の第一世代の人たちがよしとしたかたちにたどり着くまでも、長い時間をかけて変化してきたということ。そしてその変化はいまも続いているのです」
 
世界中のさまざまな情報を得られるようになった現代。広い世界から得た知識や新しい考え、経験、それらを咀嚼して吐き出すつくり手のセンスで生み出されるものに、時にハッとさせられる。
 
東西南北に約45度の角度で連なり、豊かな四季がある日本列島には、衣食住にわたって独自の文化が育まれてきた。それぞれの地域に根ざしてきた民藝はその最たるものだ。ゆえに、今後は温暖化など地球環境の変化と戦っていくことになるのではという危惧もある。節間が長い竹や、丈の長い稲藁が消えれば、それらを原料とした製品は生産が難しくなるからだ。
 
それでも、民藝の未来は明るいと郷古さん。
 
「僕が一番リスペクトしているのは、民藝運動を興した人たちに共鳴し、そこに挑もうとする現代のつくり手です。それは、生きることに直結する農業がやりたくて、意思をもって農家の道に入る若い人たちに通じるかもしれません。自分の表現の先を民藝に見出し、挑戦していく。そんな人たちを尊敬しますし、そこから新しい民藝がはじまるのではないでしょうか」

読了ライン

島根・牛ノ戸焼のカップ&ソーサー。民藝家の影響を受け、用の美を追求した牛ノ戸らしい造形。蓋物は島根・森山窯のもの
民藝運動家・吉田璋也がデザインした運び盆で、つる付きの貴重なもの。木彫りの馬はスウェーデンの伝統工芸品・ダーラナホース
日本各地の郷土玩具は数千点を数えるのでは、というほど地方色が豊か。香川・高松、福島・三春など、張子の表現も実にユニーク

BATHHOUSE
住所|東京都渋谷区神宮前3-36-26 ヴィラ内川201
Tel|03-6804-6288
営業時間|月〜水曜 アポイントメントによる営業、木〜日曜 13:00〜18:00
定休日|不定休
www.swimsuit-department.com

text: Yukie Masumoto photo: Kazuya Hayashi
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

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