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奈良 和歌山 三重の世界遺産半島をめぐる【後編】
よみがえりの聖地・熊野三山、祈りの道・熊野古道を歩く(和歌山・三重)

2023.3.24 PR
<small>奈良 和歌山 三重の世界遺産半島をめぐる【後編】</small><br>よみがえりの聖地・熊野三山、祈りの道・熊野古道を歩く(和歌山・三重)

奈良、和歌山、三重の3県にまたがる紀伊山地。この地に息づく修験道、真言密教、熊野信仰という日本特有の精神文化の礎となる信仰は、吉野・大峯、高野山、熊野三山の3つの霊場を生み、2004年にはユネスコ世界遺産に登録。その理由は、異なる宗教が同じエリアで共存・共栄し、参詣道という〝祈りの道〟で結ばれている世界でもまれに見る特異性だ。そこには現代社会にも通じる気づきがあるのではないだろうか。
その価値を享受する旅は、神社仏閣のほか自然や文化、食などにも触れることで、より豊かに楽しめる。

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熊野三山では、自然の力に圧倒される。

熊野三山とは熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)、熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)、熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)、那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)、補陀洛山寺(ふだらくさんじ)の総称で、全国に約5000社ある熊野神社の総本宮。滝や奇岩怪石などが原始のままに残り、神秘の森が広がるこの地では古来、異界の自然が崇拝されてきた。平安時代には神仏習合の考えと浄土信仰の浸透から熊野権現信仰が生まれ、熊野本宮大社に阿弥陀如来(来世仏)、熊野速玉大社に薬師如来(前世仏)、熊野那智大社に千手観音(現世仏)が祀られた。そして各社がほか2社の主祭神の分霊を迎え入れたことで、過去、現在、未来の救済を願う巡礼者を生み、皇族や貴族、武士や庶民にまで普及。熊野を目指すこの巡礼の旅は「日本人の旅のはじまり」といわれる。

中辺路(なかへち)や大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)を経て熊野詣の最初の目的地である熊野本宮大社では悠久の時を刻む杉木立、熊野速玉大社の御神木・ナギの大樹の圧倒的な存在感、そして熊野那智大社のご神体・那智大滝が放つ生命の息吹——。往時の数限りない巡礼者と同じようにめぐると、人知を超えた自然のエネルギーが胸に迫ってくる。

「当時は獣道を通るような命懸けの旅でしたから、参拝者は白装束をまとって熊野を目指していました。その苦難を乗り越えた先で、神さまが再び生きる力をくださる〝甦りの地〟だったのです」と熊野速玉大社の神職・濵中孝成さん。

熊野の力強く、多様な生態系の魅力は、ほかでも体感できる。熊野檜や熊野杉などの生きた森の香りを100%天然成分のアロマで表現する「maffably(エムアファブリー)」や、漁師町・那智勝浦町でいただく稀少なクロマグロの濃醇な旨みといった五感に響く地域固有の魅力は、旅の記憶をより鮮烈に刻んでくれる。

熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)
158段の石段参道を上ると威厳あふれる檜皮葺の社殿が姿を現す。かつては熊野川の中洲にあり、壮麗な境内があった大斎原には高さ約34mの大鳥居がそびえ立つ。

住所|和歌山県田辺市本宮町本宮1110
Tel|0735-42-0009
受付時間|7:00〜17:00 料金:宝物殿/大人300円、子ども100円(現在は拝観停止)
www.hongutaisha.jp

熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)
約1900年前、熊野の神々が降臨した最初の地・神倉山から神々を迎えて創始された。鮮やかな朱塗りの拝殿は、熊野曼荼羅の世界を表現。境内には、樹齢1000年を超えるナギの大樹がそびえる。

住所|和歌山県新宮市新宮1
Tel|0735-22-2533
受付時間|日の出〜日没(授与所8:00〜17:00)
料金|神宝館/500円(高校生以下無料)
https://kumanohayatama.jp

熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)
那智大滝を御神体とする原始信仰が起源。熊野十三所権現を祀る。拝殿横の大樟(くす)では無病息災を願う「胎内くぐり」ができる。境内の御縣彦社(みあがたひこしゃ)には八咫烏が祀られている。

住所|和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山1
Tel|0735-55-0321
受付時間|8:00〜16:00
料金|那智御滝拝所・宝物殿/大人300円、中小生200円 https://kumanonachitaisha.or.jp

那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)
天台宗の寺院で、境内からは三重塔及び那智大滝の絶景が望める。神仏習合の一大修験道場だった那智山青岸渡寺は、西国三十三所巡礼の一番礼所としても知られている。

住所|和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山8
Tel|0735-55-0001
受付時間|7:00〜16:30(三重塔8:30〜16:00)
料金|三重塔/大人300円、子ども200円
www.kumano-sanzan.jp/seigantoji

まぐろお食事 竹原
日本有数の生まぐろ水揚げ量を誇る那智勝浦漁港沿いにある創業50年の老舗。地元の漁師から仕入れる脂ののった生クロマグロ、マグロの珍味、名物まぐろ定食(1650円)があり、県外リピーターも多い。

住所|和歌山県東牟婁郡那智勝浦町築地4-3-23
Tel|0735-52-1134
営業時間|11:00〜14:00、17:00〜21:00
定休日|不定休

maffably(エムアファブリー)
熊野に自生するスギ、ヒノキ、クロモジから抽出し、多様な生態系の香りを余すことなく表現した100%天然アロマのエッセンシャルオイルやフローラルウォーターが人気。

住所|和歌山県新宮市五新1-21
Tel|0735-22-0662
営業時間|10:00〜17:00
定休日|火曜
https://m-affably.com

祈りの道を歩くと
“すべては同じ”だと気づく。

旅の最後に訪れたのは熊野古道・伊勢路(いせじ)。ここは日本人の心のふるさとといわれる伊勢神宮と熊野三山までの約170㎞を結ぶ“祈りの道”だ。その中間地点に位置する馬越峠(まごせとうげ)に入る。歩みを進めていると敷き詰められた重厚な石畳と尾鷲檜(おわせひのき)の美林が幻想的な風景をつくり、車の音は消え、時折木漏れ日が柔らかく差す。俗事から解放され、自然と心が軽くなってくるのが実感できる。

「この石畳は、日本でもトップレベルの雨量を誇る尾鷲の雨から巡礼者を守り、台風被害にも耐えた、古の人の英知と技術が詰まった道なんです」と語り部・福田美紀さんが教えてくれた。

「ここは巡礼者のほか、この地に暮らす方々も歩いた道。身体の不自由な方やお年寄りも周りの人々に助けられながら歩き通すことができました。それは古くから熊野が誰しもに平等に開かれ、どんな人でも受け入れていた証しです」

そのまま南下して、七里御浜(しちりみはま)沿いに位置する花の窟(いわや)へ。こちらは『日本書紀』にも記された日本最古と伝わる神社。手水舎で清めた後、参籠殿(さんろうでん)を抜けると目に飛び込む45mの巨岩に思わず息をのむ。ここに祀られているのは「国産み」をしたといわれる伊弉冊尊(いざなみのみこと)と火神・軻遇突智尊(かぐつちのみこと)。圧巻の御神体を眺めていると神道(しんとう)へと発展した自然信仰の原点が感じられる。

最終日に宿泊した「世界遺産リゾート 熊野倶楽部」の温泉で旅の疲れを癒しながら、今回の旅を思い返す。神仏の時代から紀伊山地の霊場に息づいていたのは、現代に通じる多様性であり持続可能な社会の礎だ。そこに言葉はなく、宗教や民族、性別の区別もない。自然と人の営みが育んだ文化と風土が、〝すべては同じ〟と物語っているのだ。祈りの道はその大切さを気づかせてくれた。

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馬越峠(まごせとうげ)
紀北町と尾鷲市の境界にある峠。日本三大美林のひとつ、尾鷲檜が林立する観光地化されていない道は、副交感神経に響くヘルスツーリズムでも人気。峠から頂上の絶景が素晴らしい天狗倉山や便石山の山頂へ続く登山ハイキングコースも楽しめる。

住所|三重県北牟婁郡紀北町〜尾鷲市
Tel|0597-89-6172(東紀州地域振興公社)
ガイド料|語り部1名1峠5000円(八鬼山越えは1万円)

花の窟(いわや)
神々の母・伊弉冊尊が火神・軻遇突智尊を産み、亡くなった後に葬られた御陵。毎年2月と10月、日本一長いといわれる170mの大綱を岩窟から境内まで渡す「御綱掛け神事」が行われる。

住所|三重県熊野市有馬町130
Tel|0597-89-2881
受付時間|9:00〜16:00
料金|なし
https://hananoiwaya.com

ツヅラト峠
かつて「伊勢の国」と「紀伊の国」の境界であり、伊勢から熊野三山を目指す巡礼者がはじめて熊野の海を目にした約9.5㎞の峠。曲がりくねった野趣あふれる石畳の道をトレッキングできる。

住所|三重県度会郡大紀町〜紀北町
Tel|0597-89-6172(東紀州地域振興公社)
ガイド料|語り部1名1峠5000円(八鬼山越えは1万円)

熊野川体感塾
世界で唯一「川の参詣道」として世界遺産に登録されている熊野川で、伝統的に使用されてきた「三反帆」に揺られながら地域の人と触れ合い、流域の生活や文化を体感できる。

住所|三重県南牟婁郡紀宝町北檜杖203
Tel|0735-21-0314
運航日|3〜12月中旬(予約制)
時間|10:00〜、13:00〜(応相談)
料金|1名9000円、2名4500円/人、3名以上3500円/人
www.za.ztv.ne.jp/w58yd3jb

世界遺産リゾート 熊野倶楽部
熊野の山、海、里に抱かれたリゾートホテル。熊野杉を使用した全室スイートの客室や絶景露天風呂、伊勢海老や松阪牛を使用した懐石コースを満喫しながら「何もしない贅沢」をぜひ。

住所|三重県熊野市久生屋町1430
Tel|0597-88-2045
客室数|40室
料金|1 泊2 食付3万円〜(税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、Master、VISAなど
IN|15:00 OUT|11:00
夕食|創作料理 朝食|和食
アクセス|車/熊野尾鷲道路熊野大泊ICから約15分 電車/熊野市駅から約10分(無料送迎あり)
施設|食事処、大浴場、アロマサロン、ショップなど
https://kumanoclub.jp

熱血ナポリ大食堂「と Cous Cous」
フレンチ出身のシェフ・濱野豊彦さんが、熊野地鶏や美熊野牛など地元素材で仕立てる地中海スローフードが絶品。写真はランチ限定のスパイシーチキンと野菜のクスクス丼(1210円/前菜、プチデザート付)

住所|三重県熊野市有馬町5821-116
Tel|0597-85-4369(ディナーは要予約)
営業時間|11:30〜13:30(L.O.)、17:30〜20:00(L.O.)
定休日|ランチ火曜(月2回月・火曜連休あり)、ディナー月・火曜
https://couscous.dosf.info

《奈良 和歌山 三重の世界遺産半島をめぐる》

1|修験道の聖地・吉野エリア(奈良)

2|真言密教の聖地・高野山エリア(和歌山)

3|よみがえりの聖地・熊野エリア(和歌山・三重)

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki illustlation: Mai Beppu
2023年4月号「すごいローカル、見つけた!」

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