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美術家・清川あさみさん
《永代漆工》で金継ぎ体験
大切なうつわだからこそ長く使い続けたい

2023.1.2
<small>美術家・清川あさみさん</small><br>《永代漆工》で金継ぎ体験<br>大切なうつわだからこそ長く使い続けたい

金継ぎ人気が高まる昨今、特色ある教室が各地に続々と登場している。今回は意外にも金継ぎ初体験という美術家・清川あさみさんとともに、職人街・門前仲町の裏路地に昨年オープンした漆工房を訪れた。

体験した人
清川あさみさん

2000年代よりファッションと自己表現の可能性をテーマに創作活動を開始。代表作『美女採集』ほか、2021年には「YOASOBI」のMV監督・絵コンテ・原画を担当。幅広く活躍している

教えてくれた人
土屋良子さん

寺社保存修復の現場で金箔押、漆工、彩色業務に携わった後、香川県漆芸研究所にて漆工品制作を修得。一生ものはひと目惚れしたというアフガニスタンの遊牧民によるじゅうたん「ギャッベ」

左から)土屋良子さん、清川あさみさん
「骨董品のうつわに惹かれる」など共通点が多い二人。歴史あるものといまをリミックスさせる清川さんの活動は、金継ぎにも通ずる

うつわと向き合う金継ぎで
あえて無心の時間をつくる

一生ものを手に入れる醍醐味は、メインテナンスにより一点ものへと育てていくことでもある。中でも金継ぎは、ものへの価値観や暮らし方に変化が起きたコロナ禍を機に、茶人の嗜みから、おうち時間を充足させる趣味のひとつとして市民権を得た。
 
そんな中、金継ぎはじめの場所として清川あさみさんが選んだのは、門前仲町にて漆工芸とクラフトビールの二足のわらじを履く「永代漆工(えいたいしっこう)」。職人が集うこのエリアに憧れていたという漆芸家の土屋良子さんは「大好きなクラフトビールも工芸も、少量生産のところが近い気がしています」と、つくり手の業が透けて見えるものや骨董品に惹かれるよう。対する清川さんも、蚤の市を訪れては際限なくうつわを買ってしまうほどの骨董好きとあり、どこか趣味が似通う二人での金継ぎ教室は和やかにスタートした。
 
「一つひとつの道具がきれいですよね」と、刺繍を施すなど手業を駆使した作品を紡ぐ清川さんだからこそ、土屋さん自らがこしらえた一生ものの道具にも関心を寄せる。「金継ぎはメインテナンスの文化ですが、使用する道具自体のメインテナンスも大切なんです」と、美しく仕上げるためには筆の掃除や竹べらのしなりの調整も欠かせないという。

「消し粉」と呼ばれる細かい金粉を、漆にたっぷり吸わせるようまとわせていく。「つやを出すために無心でなでる瞬間が好きですね」

各工程をそつなくこなし、初心者とは思えないほど正確な筆さばきで皿に漆をのせていく清川さんだが「情報にあふれた世の中においてゼロからものづくりをしてきているので、情報が満タンになってくると知らず知らずのうちに無になる瞬間を自分でつくろうとしているんですよね」と、なんと情報デトックスのため夜中に行っているという写経が功を奏しているよう。新たな精神統一として、夜な夜な金継ぎを施す日がくるかもしれないと笑う。
 
「昔からはやりをとらえるのが早過ぎて、もう少し普通に伝わるものを提案してほしいって言われたことはいっぱいあるんです。いまでこそSDGsといわれていますが、淡路島にいた頃から廃材を使ったものづくりを普通にやってきたので、逆に不思議な感じがしていて」と、常に時代を先取りし過ぎていた節がある清川さんだが「懐かしさや切なさといった感情は、いまも昔も変わらないんですよ」と冷静に分析。現在の90年代リバイバルに見られるよう常に流行はめぐっているからこそ、時代を二歩三歩先ゆく清川さんは、人形浄瑠璃や仏具などの歴史ある古いものに興味がわいているという。
 
時代の最先端は、大きく一周回って最古の手業。そう思うと、昨今の金継ぎブームも自然な流れに見えてきた。

下町に佇む金継ぎ教室は、夜になるとクラフトビールのタップルームに。土屋さんが好むIPAを中心に、ヘイジーなどトレンド感のあるクラフトビールが最大8タップ揃う。漆芸とのコラボレーションを思案中で、現在おつまみは漆器で提供されている

営業時間|火〜金曜15:00〜20:00、
土・日曜、祝日13:00〜20:00
定休日|月曜

金継ぎを施した一点ものは
造形美としても素晴らしい

「AIで簡単に何でもつくってしまえる現代において、こんなに時代と逆走しているものはないなと。ひとつの命を吹き込むのに複数の職人が必要という感じが好きなんですよね」と、伝統工芸における“無駄から生まれる芸術”に惹かれるという清川さん。「歴史あるいいものでも、つい忘れられがちなことって多いじゃないですか。そのおもしろさをうまく伝えるためには、どう現代的にアレンジすればいいだろうといつも考えています。昔からはやりを追いかけず、洋服も10年前のものをいまっぽく着るリミックスが得意です」。
 
最後に、金線が美しい完成品の皿を見つめる清川さんに“自身の一生もの”についてたずねると「長くつき合っているものがあり過ぎて考えたことがなかったです。手にしたものは大事に使うので、選ぶときの基準がずっと使える一生ものですね。ただ私の場合、ものよりも思い出に残る体験を買うことが多いかも。その日にしか経験できないことやパフォーマンスを皆さんに届けたいという気持ちで作品をつくっているところもあります」と答えてくれた。手持ちのうつわが、新しいかたちにアップデートされる。そんな金継ぎは、清川さんが提唱するリミックスであり、一生ものの体験でもある。

金継ぎは、
うつわを愛でる時間を楽しむのがコツ!

使う道具はこちら
さまざまな素材を添加することで、漆は接着剤にもパテにも姿を変える。定盤や竹べらは、土屋さんの一生ものでもある自作の愛用品。「自分で直せるようになる」を目標とする永代漆工では、自身の手にしっくりと馴染む道具のつくり方も教えてくれる

①割れてしまった破片を漆で接着していく

接着剤の役割を果たす「麦漆」を、割れた皿の断面に細い竹べらで塗布。「漆がはみ出しても大丈夫ですか?」と確認しつつ、手際よく進めていく清川さん
塗り終えたら破片同士をギュッと接着させ、マスキングテープで固定。1週間ほど乾燥させる

②深い穴ができてしまったら充填で応急処置

定盤と呼ばれる金継ぎ用のパレットに、麦漆を少量取り分ける。木粉と珪藻土を混ぜ合わせ、パテの役割を果たす「刻苧(こくそ)」をつくる
出来上がった刻苧を、元のかたちをイメージしながら溝に埋めていく。1週間ほど乾燥させ、同作業を2回繰り返す

③凹凸がなくなるよう下地をととのえていく

生漆と砥の粉を混ぜ合わせたペースト状の「さび漆」を竹べらに取り、細かな凸凹を埋めていく。「無心になって作業してしまうんですよね」と、質問に答えつつも手は割れの部分を丁寧になぞっていく清川さん。丸一日乾燥させ、同作業をもう一度繰り返す

④割れ目に沿って黒漆を塗っていく

なめらかな表面かつ補強のため、「黒漆」で下塗りを行う。なるべく細く線を引くことが美しい仕上がりのポイントだが、日々の写経の成果が生かされているのか「初心者としては相当うまい」と土屋さん。1〜2日乾燥させ、同作業を3回ほど繰り返す

⑤最後に金粉をまんべんなくまく

まずは工程④と同じく、継ぎ目に赤褐色の「弁柄漆」を引く地塗りを行う。弁柄漆は金をまいた際の糊の役目を果たすと同時に、金の発色をよくさせる効果も。15分ほど乾燥させたら真綿に金粉をまとわせ、継ぎ目をくるくるとなぞって金を定着させる
金継ぎ前は5つの破片であった焼物が、見事一枚の皿としてよみがえった。うつわの価格に限らず、愛着のあるものや思い出の品などは自身の手で修復したい

金継ぎ教室
自分で直せることを目標に、金継ぎの流れや基本がひと通り学べる全7回のプログラムを開催中。茨城県・牛久のギャラリースペースでも、出張金継ぎ教室を開催している

開催日|毎週木・土曜
時間|10:00〜12:00
料金|3500円/回 道具・材料費込み
※粉代のみ別
申し込み、問い合わせはメールにて受付
Mail|info@eitai-s.com

永代漆工
住所|東京都江東区永代2-20-5
https://eitai-s.com

text: Natsu Arai photo: Kenji Okazaki hair & make-up: Risa Mukai(Aqure)
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」

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