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京都《菓子屋 のな》の世界
気鋭の菓子職人がつくる物語のある上生菓子

2022.12.1
京都《菓子屋 のな》の世界<br><small>気鋭の菓子職人がつくる物語のある上生菓子</small>

雅やかな上生菓子を、自由で豊かな感性で再解釈した品々。いま京都で注目を集める菓子職人が創作に込めた想いとは?

季節感を軸に、創造力をかき立てる上生菓子たち

たおやかで愛らしい姿の上生菓子たち。口に運ぶと、上品な甘みに続いてみずみずしい風味が広がった。
 
「上生菓子は本来、お茶のお供であることが前提。お茶の味わいをじゃましないよう、色とかたちだけでモチーフを表現するのが原則です」と店主の名主川千恵さん。老舗和菓子舗で菓子職人としての経験を積んだ後、コーヒーや紅茶とも相性のいい自由なお菓子の在り方を思い描き、フルーツやリキュールなどの香りを生かした創作に取り組むようになる。「季節感を軸に、文学や音楽、自分が感銘を受けた出来事も重ね合わせて、イメージを膨らませます」。たとえば「茜雲」は、旬のスモモの色合いから茜色に染まる空を発想。「千代古の花」は、「本当にチョコの香り!」と感動したチョコレートコスモスを素直な造形に落とし込み、カカオニブで香りを添えた。詩的な菓銘もまた作品の一部として、「のな」の世界観をより鮮やかなものにする。

茜雲
秋のはじまり、茜色に染まった空をイメージ。素材となるスモモの状態で少しずつ変わる色合いは、日々移ろう空の表情に通じるものがある。優しい甘酸っぱさ、葛焼きのぷるんとした食感に心が穏やかになる
千代古の花
その香りに感激したチョコレートコスモスの花を表現。練り切りはチョコレート色ながらあえて風味を加えず、仕上げにカカオニブを少量散らすことでさりげなく香りを利かせた。中はほっくりとしたカボチャあん

代表作「アントニオとララ」は、愛読する古典文学の登場人物二人を二種類のあんこ玉に投影した。目に美しく、味わいに心満たされるだけでなく、想像力を楽しくかき立てる品々。和菓子に親しむひとときが、より豊かなものになりそうだ。

アントニオとララ
森鴎外が翻訳を手掛けた、アンデルセン作『即興詩人』のオマージュ。焦がしキャラメルあんとマンゴートロピカルあんで、主役であるアントニオとララの運命を表した。「目で追うだけで心地いい」文語体の美しさを、添えたハーブの爽やかな香りで表現
夕珊瑚
宮古島産のマンゴーにフレーバードワイン「チンザノ」の香りとほろ苦さを重ねた錦玉羹。ほんのりと透けるマンゴーのオレンジ色を、流れ着いたサンゴや砂浜に映る美しい夕焼けと重ね、南国の浜辺を思わせる一品に
亜麻栗
和栗あん、ラム酒入りのこしあん、カシスを練り込んだあんを合わせて茶巾絞りに。栗本来の上品な淡さの亜麻色は乙女のイメージ。カシスの酸味と風味が、穏やかな甘みの栗をドラマチックに引き立てる
野分
野の草を分けて吹く強い風「野分」。野の色に染めた外郎に粒あん、くるみ、きなこを合わせ、風の通り道をキラキラとした氷餅で表現。夏から秋への変わり目に吹く風は、宮沢賢治『風の又三郎』をほうふつさせる
草迷宮
夏という季節から怪談を連想し、泉鏡花の名作『草迷宮』に寄せて創作。物語に登場するモチーフで印象的だった手毬を練り切りで表した。中には抹茶あんとブルーベリーあんを包んで、奥行きある風味に
店は小学校や住宅が建ち並ぶ通りの一角。元イタリア料理のシェフである夫の高行さんも店に立ち、あんこを炊くなど共同作業に勤しむ。上生菓子各470円のほか、こしあんや季節のフルーツを挟んだチャバタにもファンが多い

菓子屋 のな
住所|京都市下京区篠屋町75 
Tel|なし
営業時間|12:00〜18:00(売切次第閉店)
定休日|日・月曜
問い合わせ(www.instagram.com/kashiya.nona
予約(www.instagram.com/kashiyanona_wagashi
※紹介している菓子は季節で替わる

text: Aya Honjo photo: Sadaho Naito
Discover Japan 2022年11月号「京都を味わう旅へ」

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