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柏井壽さんが行く
京都“茶の謎解き”名所案内【後編】

2022.11.20
柏井壽さんが行く<br>京都“茶の謎解き”名所案内【後編】

京都の街を歩けば出合える神社や庭園、美術館……。茶にまつわる京都の名所に隠された秘密に、京都の街を知り尽くした作家・柏井壽さんが迫ります。

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実業家たちはなぜ、
茶に魅せられたのか?

京都には、茶道具をはじめとして、茶の湯ゆかりの銘品を集めた美術館が、いくつかあります。
 
それらのほとんどは、実業家と呼ばれる人たちが蒐集したものを展観しています。
 
実業家と茶の湯。一見つながりがないように見えて、実は深く結び付いているのです。なぜでしょうか。なぜ実業家たちは茶に魅せられ、茶の湯にまつわる品々を集めようとしたのでしょう。
 
その答えを解くカギは、一番最初にご紹介した「待庵」にあります。
 
待庵という茶室は、天下分け目ともいわれた、天王山の戦いのさなか、戦を振り返りながら、荒ぶる心を鎮め、次の戦略を練る時間のためにつくられたのだろうと思います。
 
その戦国時代を現代に置き換えれば、実業家と呼ばれる人たちは、戦国武将さながら、日々戦を続け、その勝ち負けを競っていると言っても、決して過言ではないでしょう。
 
茶の湯にひとときの安らぎを得て、今後の展開に思いをいたすうち、戦国武将たちと同じように、茶道具に魅かれていったのは、当然のことだろうと思います。
 
また、ビジネスの世界においても、美意識を磨くことは、成功への足掛かりになるといわれていますから、その面からも茶に惹かれていったのでしょう。
 
そんな実業家たちの収集品を主にした美術館は、京都にはいくつもありますが、代表的な美術館を3つご紹介しましょう。
 
「古香庵」と名づけられた茶室も備える「細見美術館」は、琳派のコレクションでも知られ、日本美術を中心に多彩な展覧会を積極的に開催しています。
 
「千利休生誕500年 利休茶の湯の継承」展を開催している「野村美術館」は立礼茶席も設けてあるので、ぜひ一服を。
 
「四君子苑」という茶室と庭園を併設する「北村美術館」では、「時雨降る」と題した特別展を開催中です。ぜひ、それぞれの美術館に足を運んでみてください。

数寄屋建築の母屋、茶室、庭園からなる「四君子苑」。写真は、鎌倉時代の名品とされ、国の重要文化財にも登録されている八角形の石燈籠。公開期間は毎年、春と秋の6日程度のみ
©北村美術館

細見美術館
住所|京都市左京区岡崎最勝寺町6-3 
開館時間|10:00〜17:00 
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休) 
料金|展覧会によって異なる 
Tel|075-752-5555

千利休の没後に活躍した古田織部や小堀遠州などの茶人にフォーカスする特別展を、野村美術館で開催中。貴重な茶道具の数々から、それぞれの茶人が好んだスタイルを紹介していく
野々村仁清 『菊花文水指』 野村美術館蔵 後期展示(〜12月11日)
細見美術館の最上階にある「古香庵」。数寄屋建築の伝統美と美術館本体の現代建築が調和しており、抹茶とともに季節の生菓子や干菓子が楽しめる(要予約)。貸し席利用も可能
©細見美術館

野村美術館
特別展「千利休生誕500年 利休茶の湯の継承」

会期|〜12月11日(日) ※会期中展示替えあり 
住所|京都市左京区南禅寺下河原町61 
開館時間|10:00〜16:30 
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休) 
料金|一般800円、大高生300円 
Tel|075-751-0374

北村美術館で開催中の秋季取合展では、北大路魯山人や漆芸家・木工家の黒田辰秋の作品など、実業家・北村謹次郎が収集した名品が揃う
黒田辰秋作 『耀貝螺鈿腰張棗』 北村美術館蔵
椅子席で気軽に抹茶と季節の生菓子を味わえる、野村美術館内の立礼茶席(1名700円)。所蔵品の中から席をしつらえているため、間近で貴重な茶道具を鑑賞できる点もうれしい
©野村美術館

北村美術館
秋季取合展「時雨振る」

会期|〜12月4日(日) 
住所|京都市上京区河原町今出川南一筋目東入梶井町448 
開館時間|10:00〜16:00 
休館日|月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日 
料金|一般600円、大高中生400円 
Tel|075-256-0637

 

  

 


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