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岡山《PORT ART&DESIGN TSUYAMA》
街の金融から文化を支える
|体験できる近現代名建築

2026.5.11
岡山《PORT ART&DESIGN TSUYAMA》<br>街の金融から文化を支える<br><small>|体験できる近現代名建築</small>

既存の建築を生かしつつ、用途を変化させて活用する「コンバージョン」。育まれてきた歴史と現在の営みが重なる空間に滞在することで、その地域の風土に出合う。そんな建築の再生・活用事例を建築史家の倉方俊輔さん監修のもとご紹介。今回は、岡山県にある「PORT ART&DESIGN TSUYAMA」を紐解いていく。

文=倉方俊輔
大阪公立大学大学院工学研究科教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築イベント「東京建築祭」の実行委員長を務めるなど、建築の価値を社会に伝える活動を行う。『建築を楽しむ教科書』(ナツメ社)など著書多数。

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地域の金融を支えた銀行から
アートギャラリーへ

岡山県北部、美作地方の中心都市として発展してきた津山。城下町の骨格をいまにとどめる市街地の一画に、「PORT ART&DESIGN TSUYAMA」は建つ。1920(大正9)年に「妹尾せのお銀行林田支店」として建てられたこの建築は、地域の金融を支えるとともに、都市が近代へと移行していく過程を担ってきた存在である。現在はアートとデザインの拠点として新たな役割を担っている。

〈改修前〉寺院建築風の贅沢なつくり
妹尾銀行林田支店として建設後、第一合同銀行、中国銀行津山東支店(写真)として活用。その後、津山市管理の下津山洋学資料館として整備・活用されていたが、同資料館の移転に伴い、未利用の期間が続いていた
写真=津山市

設計を手掛けたのは棟梁・池田豊太郎。日本建築と西洋建築の双方の意匠と技術に通じた、大工棟梁出身の人物である。その来歴は、この建物全体の構成や細部の在り方にまで及んでいる。

正面に立つと、赤煉瓦造の門や壁と、木造で仏教寺院を思わせる本館とが、左右対称の構成で前後に並ぶ。異なる様式の建築が、軸線上に整理され、街路に対して落ち着いた正面性をかたちづくっている。屋根は瓦ではなく、洋館に用いられる天然スレート葺き。軒下には、二本一組の「吹寄垂木ふきよせだるき」が配され、外観の輪郭に細やかなリズムが与えられている。

〈改修後〉贅を尽くした装飾を生かす
街道沿いに建つ、寺院建築のような外観をもつ木造の本館は、ラウンジとして生まれ変わった。格子状に装飾が施された天井や、銀行時代に営業カウンターとして使用されていたケヤキの一枚板などは現役で活用されている

本館内部は2層吹き抜けの構成で、営業カウンターには長さ約8mに及ぶケヤキの一枚板が据えられている。天井には吉野杉、上部の壁面には屋久杉と尾州檜が使われ、格天井や筬欄間おさらんまといった書院造の形式を踏まえている。装飾は抑えられ、素材の質が空間の印象を決めている。

この建築は、銀行建築の格式と仏教寺院の重厚さを並べたものではない。両者に共通する、地域の中で建築が果たすべき品格を見極め、それを大正期の感覚でまとめ上げている点に特徴がある。

いまでは数が少ない煉瓦建築

本館の奥に進むと、赤煉瓦敷きの中庭や金庫棟、倉庫として使われていた赤煉瓦棟が

本館の背後には、赤煉瓦敷きの中庭、石積み外壁の金庫棟、倉庫として使われてきた赤煉瓦造の建物が残る。高い天井まで煉瓦を積み、入り口や窓にはアーチ構造を用いている。こうした煉瓦造建築は、1923年の関東大震災以降、日本では姿を消していく。その直前に位置するこれらの建築には、意匠と構造の両面で大正期の建築の在り方が刻まれている。

アーチ構造が特徴的なこれらの施設はギャラリーとして活用され、作家の企画展やワークショップが定期的に開催されている

銀行としての役目を終えた後、市はこの建物を保存のために譲り受け、1975年に「津山洋学資料館」として整備・活用した。2009年、近隣に新たな津山洋学資料館が建てられた後、現在は展示やワークショップ、トークイベントなどが行われている。

金融のために整えられた空間は、用途を変えながらも、その構成を保ち続けてきた。人が集い、立ち止まり、関係を結ぶ場として使われることで、この建築は津山の街に重なってきた時間を受け止めている。PORT ART&DESIGN TSUYAMAは、過去の役割に閉じることなく、現在の営みの中へと受け渡されている。

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赤煉瓦造の門と塀が道路に面して立ち、その奥に木造の本館が続く。本館の背後には赤煉瓦敷きの中庭が広がり、金庫棟や、倉庫として使われてきた赤煉瓦造の建物が残されている。本館ではライブやイベントが開催され、煉瓦の空間を生かした展示も行われる

〈概要〉
1920年に「妹尾銀行林田支店」として建設された建物。銀行として、その後は津山洋学資料館として活用。2024年には岡山県指定重要文化財に指定された。

〈建築データ〉
竣工年|1920年
改修年|2018年
設計|池田豊太郎
改修|竹中建設
構造形式|木造、煉瓦造

〈施設データ〉
住所|岡山県津山市川崎823
Tel|0868-20-1682
開館時間|10:00~18:00(最終入館17:30)
休館日|火曜、祝日の翌平日、年末年始
料金|入場無料(企画展により異なる)
https://port-tsuyama.com

 

北海道《札幌市資料館》
 
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text: katakura shunsuke
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」

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