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5つのキーワードで学ぶ
アドベンチャーツーリズムの基礎知識|後編

2024.9.12
5つのキーワードで学ぶ<br>アドベンチャーツーリズムの基礎知識|後編

新時代の旅のスタイルとして注目を集めているアドベンチャーツーリズム。単なる冒険旅行とは異なる魅力やポテンシャルを、日本アドベンチャーツーリズム協議会 事務局長・大澤幸博さんの解説のもと、5つのキーワードを挙げて紹介していきます。
 
今回は、世界が注目する日本列島の魅力、人生を豊かにする5つの価値、そして2024年の4つのトレンドについて解説します。

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<キーワード③>
亜寒帯から亜熱帯まで備える日本列島の魅力

北海道・大雪山は、日本最大級の国立公園。山頂では高山植物、山麓では亜寒帯の針葉樹林が広がり、稀少な動物も多数生息する

日本がATの目的地として意識されはじめたのは2017年頃。その年、北海道の官民が連携してAT関係者を現地に招聘した。それ以来、地道にPRを続け、世界約60カ国から約800人のAT関係者が集う、年に一度の祭典「アドベンチャートラベルワールドサミット」が’23年に北海道で開催された。
 
「それまで欧米豪を中心に回っていたサミットがアジアではじめて開催、というだけでなく’21年のオンライン開催に続いて、異例の期間で同じエリアの北海道でリアル開催されたのは、日本がATのマーケットとして世界から注目されている証左です」

日本ではじめての世界自然遺産に登録された白神山地は、冷温帯性のブナの原生林が広範囲に残された世界でも貴重な地域
沖縄県・石垣島は亜熱帯海洋性気候に属し、1年を通して温暖。島内随一の景勝地、川平湾では多種多様なサンゴが鑑賞できる

その日本ならではのATの魅力は「自然や文化の多様性」だと大澤さんは続ける。
 
「日本には気候だけでも亜寒帯から亜熱帯まであり、極端な話、流氷を見た翌日にサンゴ礁を見ることができる。さらに、四季がはっきりしていて、海や山、川などの変化に富んだ大自然と、それらが育む食文化、地域固有の歴史や伝統、産業などが色濃く残っている。ここまで多様な国は世界を見ても稀少です」

あらためて日本の歴史をひも解けば、四国八十八カ所めぐりや熊野古道巡礼といった古くより根づいている旅は、ATの先駆けともいえる。
 
「まさにそうですね。日本は知られざるATの宝庫。特に地方はATに必要な3要素がすべて揃っているので、日本人も魅力に気づいていない場所でもATの視点で整備して打ち出すことで、訪問目的地となる可能性を秘めている地域はたくさんあります」
 
出典:環境省ホームページ
原図:大日本山林会『日本の森林と林業 森林学習のための教本』

<キーワード④>
人生を豊かにする5つの価値

従来の旅とは異なる観点で構築された上質な旅であるAT。そこには5つの価値が内包されていると大澤さんは話す。
 
「まず、それぞれの地方ならではの知られざる自然や文化が体感できること。また、それまで見学禁止だった貴重な自然資源や文化財を1日何名限定で有料公開するなど、整備することで有効活用できると同時に、オーバーツーリズムなどの負の影響を抑えた環境保全にもつながります」
 
そして、旅人にもたらされるさまざまな価値が最大の魅力だ。
 
「たとえばはじめてラフティングをするなど、未体験だった領域へチャレンジできることも大きい。それらが心身のウェルネスにつながり、体験することで新たな気づきを得たり、自己変革や成長にもつながる心の冒険旅行なのです。いつも訪れている旅先でも視点を変えるだけでATが楽しめるので、難しく考えずにはじめてみてください」

<キーワード⑤>
2024年の4つのトレンド

1.文化・食体験
テーマを設定し、関連する施設や名所をめぐる文化体験は世界中で人気が高い。「昔から人の営みの歴史があれば生活文化は存在するので、施設めぐりだけでなく地域の人と交流するだけでも文化体験です」。特に日本は、アジアの中で唯一、外国の侵略や革命による文化の断絶がなく、歴史や伝統が続いている国。心に響く地方の原風景は、いま急増している外国人観光客が日本に求めている大きな要素のひとつだ。また、ローカルの食が堪能できるガストロノミーは世界中で増えている

2.サイクリング
サイクリングをしながら雄大な自然をめぐることで、心身の心地よさだけでなく自然資源の価値やそれらを保全することの重要性を体感することができる。日本では、広島・尾道から愛媛・今治を結ぶ「しまなみ海道サイクリング」が世界的に名高い。近年日本では、自転車で農業の生産地をめぐり、生産者と交流しながら収穫し、自分たちで郷土料理をつくって食べる体験などと掛け合わせたATなど、文化的要素を取り入れた多様化が進んでいる

3.トレッキング・ウォーキング
「これまでは効率を重視し、多くのスポットをめぐる旅が主流でしたが、いまはトレッキングやウォーキングで五感を使いながら、地域をゆったり楽しむATが人気を博しています」。その中には、たとえば大分・国東(くにさき)半島で修験者が歩いた六郷満山峯入行(ろくごうまんざんみねいりぎょう)を歩き、先人の知恵や日本人の魂の源泉に触れる「国東半島峯道ロングトレイル」など、いままでにないユニークな体験ができるATも各地で増えている

4.野生生物観光
「Wildlife Tourism」とも呼ばれ、野生生物の狩猟や釣りといった消費型の体験ではなく、生息地での滞在や動植物観察を楽しむ旅のスタイルが世界的な成長市場として注目を集めている。自然資源同様、旅行者から得た利益を活用した野生生物保護や密漁の排除といった効果も。日本で確認されている生物の種の総数は、分類されていない種を含めると30万種以上存在するといわれ、日本アルプス山域でライチョウを観察するツアーなど、多彩な野生生物が間近で鑑賞できる

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text: Ryosuke Fujitani
Discover Japan 2024年8月号「知的冒険のススメ」

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