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5つのキーワードで学ぶ
アドベンチャーツーリズムの基礎知識|前編

2024.9.12
5つのキーワードで学ぶ<br>アドベンチャーツーリズムの基礎知識|前編

新時代の旅のスタイルとして注目を集めているアドベンチャーツーリズム。単なる冒険旅行とは異なる魅力やポテンシャルを、日本アドベンチャーツーリズム協議会 事務局長・大澤幸博さんの解説のもと、5つのキーワードを挙げて紹介していきます。
 
今回は、アドベンチャーツーリズムならではの重要な3つの要素と、地域産業の救世主となる高い経済効果について解説します。

大澤幸博(おおさわ ゆきひろ)
日本アドベンチャーツーリズム協議会 事務局長。観光関連団体や教育研究機関、観光業界企業とともに日本におけるアドベンチャーツーリズムの認知向上と普及、人材育成などに努める

<キーワード①>
重要な3つの要素

上記のうちふたつ以上の要素で構成されている旅行がアドベンチャーツーリズム!

昨今、海外を中心に話題となっているアドベンチャーツーリズム(AT)。その言葉でイメージするのは、険しい大自然を舞台にした冒険旅行だが、「それはあくまでひとつの要素です」と教えてくれたのは、日本アドベンチャーツーリズム協議会の事務局長・大澤幸博さん。
 
「一般的にATは、身体的活動であるアクティビティ、自然との触れ合い、文化体験の3要素のうち、ふたつ以上で構成される旅、と定義されています」
 
その種類は、登山やロッククライミングといったハードなアクティビティから、トレッキングやサイクリング、野生生物観光、そして各地域に根づいた伝統文化や食文化の体験などのソフトなアクティビティまで、多岐にわたる。
 
「そういった体験は目的ではなく手段。訪れて楽しんで終わり、ではなく、最も大切なのは地域に根づいている固有の自然・文化や歴史などの背景を知ることです。たとえば富士山の登山だったら、まず富士山を御神体とする神社をめぐり、いにしえの山岳信仰のストーリーを理解した上で登る。そうすることで単なる旅行以上の豊かな時間が生まれ、自己変革や成長につながることもあります。地域の人たちとの交流も重要で、数日間の滞在が理想。ATは高付加価値な自然文化体験型観光なのです」
 
ATは、1950年代頃から、アメリカを中心に、好奇心旺盛な個人旅行客や、専門的なアクティビティを好むグループが牽引役となり、アメリカ大陸、ヨーロッパ、オセアニアを中心に普及。とりわけ近年は、アフターコロナのポピュラーな旅行スタイルのひとつとして注目を集め、世界市場規模は2023年の約52兆円から2032年には約143兆円にまで成長すると予測されている。

<キーワード②>
地域産業の救世主となる高い経済効果

経済効果はクルーズ旅行の25倍にもなる

ATを推進する世界的組織によると、ATの経済効果はクルーズ旅行客の約25倍(上図)。1万米ドルの経済効果を生み出すためには、クルーズ旅行などでは100人が必要だが、ATでは4人で達成できると試算されている。その理由は、AT旅行者は一般的に教育水準の高い富裕層の割合が多く、平均して14日間と長期の滞在を好み、アウトドアギアなどにもこだわる層が多いことが挙げられる。

「それだけでなく、大きな要因のひとつに、“点”で楽しむ一般的な観光旅行とは異なり、ATは“面”でつながった旅ということがあります」

たとえば、ユネスコ世界遺産にも認定された和歌山・高野山で、かつての参詣道を歩きながら山に登り、僧侶や巡礼者が宿泊した宿坊に滞在し、神社仏閣をめぐる旅などがそうだろう。

「その地域の本質を知り、体系的に異文化体験をすることで、旅行者は深く新しい発見が得られ、地域経済がしっかり潤います」

それは一過性ではなく、各地域に留まる経済効果は、ツアー旅行などのマスツーリズムに比べて約4.6倍という調査結果も出ている(上図)。

「旅行者が体験で支払ったお金はその地域の事業者の利益になるだけでなく、自然資源や文化資源の保全・保護と利活用の好循環につながり、地域の価値が落ちずに保たれる。これはリピーターや移住につながり、新たな雇用機会も創出されます。ATの取り組みは、地域資源の活用と持続可能な地域づくりの実現に貢献できるのです」

※米ドル/円の為替価格は2024年6月27日時点のものです。
※図は編集部調べで作成。

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text: Ryosuke Fujitani
Discover Japan 2024年8月号「知的冒険のススメ」

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