ARTS & CRAFTS

建築家・隈研吾が語る、世界が驚く“負ける美術館”

2018.10.31
建築家・隈研吾が語る、世界が驚く“負ける美術館”

美術館建築の話題作を次々に生み出す建築家・隈研吾さん。9月に竣工したばかりの自作と、未来の美術館の展望について話をうかがった。

隈 研吾(くま・けんご)
1954年生まれ。建築家。東京大学教授。東京大学大学院建築学専攻修了後、1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」で日本建築学会賞、2010年「根津美術館」で毎日芸術賞など、国内外で受賞多数。著書に『自然な建築』(岩波新書)、『建築家、走る』(新潮社)などがある。

美術館は地域のためのリビングルーム

日本を代表する世界的な建築家の隈研吾さんは、国内外に数多くの美術館を設計してきた。今年9月にもイギリスのスコットランドに「ヴィクトリア&アルバート ミュージアム ダンディ(V&A ミュージアム ダンディ)」が竣工したばかり。まさに美術館建築のスペシャリストといえるだろう。

同館はスコットランドで最長の河川、テイ川に面して建ち、川に浮かぶ船を思わせる建築美が注目を集めている。「美術館は、美術愛好家だけのものではありません。まず、地域のためにあるべきだと思います。『V&A ミュージアム ダンディ』の設計を通じ、人々は気軽に集える場所を求めていると実感しました。居心地のよい空間を目指した結果、期せずして僕が以前から美術館を造る際のコンセプトにしていた〝Living room for the city(都市の居間)〞が、地域の人々に受け入れられたのです」

スペインの都市・ビルバオに建つ「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」は、フランク・ゲーリーが設計した奇想天外なデザインで有名になった。川に面して建つ点も「V&A ミュージアムダンディ」と共通し、建設中にも話題に上がったという。一方で、隈さんはこのようにも考えている。

「ゲーリーの建築は素晴らしいですが、ちょっと建築家の個性がですぎですよね(笑)。美術館といえば自己主張が強いデザインが多かったのですが、僕が目指すのは〝建築を通じて街の魅力を再発見できる〞美術館です」

“負ける建築”は,自然と共生できる

ヴィクトリア&アルバート ミュージアム ダンディ

テイ川に親しめる空間を創り出した美術館。プレキャストコンクリートパネルを重ね合わせ、カーブが美しい壁面に仕上げている。

竣工年:2018年9月
所在地:1Riverside Esplanade Dundee DD1 4EZ
www.vam.ac.uk/dundee

隈さんは、建設が進む「新国立競技場」を筆頭に、国内外で大小100件近いプロジェクトに携わる。近年完成した作品の中でも、「V&A ミュージアム ダンディ」は、印象深い仕事になったと話す。

「今回の美術館は、コンペの募集要項で敷地の条件を見たときに、ぜひ設計したいと思ったほどです。以前から、自然と共生する美術館を考えていましたが、川に面した恵まれた環境が、創造意欲を掻き立ててくれたのです」

隈さんが20年ほど前から一貫して提唱してきたのが、〝負ける建築〞という概念だ。自己主張が強い建築を〝勝つ建築〞とするならば、周りの環境と穏やかに調和する建築が〝負ける建築〞である。コンペは指名された6人の建築家によって競われたが、隈さんとほかの建築家の案を比べると、違いは一目瞭然だ。ガラスのタワーや、はたまた建築家の個性が発揮された〝勝つ建築〞が多くを占め、環境を第一に考えた提案はほかになかったのである。

「今回の案が海外に評価されたことに、現代建築の流れが変わったなと感じました。『V&A ミュージアム ダンディ』は、僕がこれまで手掛けてきた美術館建築の集大成といってもいいかもしれません」

(text:Takanori Yamauchi photo:BENJAMIN LEE coordination:Noriko Sakayori(L.STUDIO))

※この記事は2018年10月6日に発売したDiscover Japan11月号の記事を一部抜粋して掲載しています