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兵庫県《市立伊丹ミュージアム》
5つの施設がひとつに!重要文化財の町屋を増築した文化発信拠点

2022.9.13
兵庫県《市立伊丹ミュージアム》<br>5つの施設がひとつに!重要文化財の町屋を増築した文化発信拠点

旅の機運が高まりつつあるいま、おすすめしたいのがアート×自然で非日常を体験できる旅。自然豊かな場所に建つ美術館は、アート作品だけではなく建築、ロケーションからも感性を刺激してくれる。

兵庫県伊丹市にある「市立伊丹ミュージアム」は、市内5つの文化施設を統合し、歴史・文化・芸術の総合的な発信拠点として2022年4月にオープン。江戸時代の町屋である旧岡田家住宅と旧石橋家住宅、作庭家・重森完途による日本庭園なども愉しめる、人とまちをつなぐ文化発信拠点とは?

歴史、アート、工芸…
多彩な文化を一度に体験できる

兵庫県の南東部に位置する伊丹市。神戸市から約20km、大阪市から約10kmの圏域にあり、江戸時代には酒の町として繁栄し、文人墨客が訪れる文化の香り高い場所として喧伝されてきた。1984年、中心市街地である宮ノ前地区に柿衞文庫が開館し、3年後に建物を増築するかたちで伊丹市立美術館が開館。1989年に伊丹市立工芸センターが開館し、さらに2001年には江戸時代に建てられた旧岡田家住宅と旧石橋家住宅からなる伊丹市立伊丹郷町館が加わり、これら4施設が集う文化ゾーンは「みやのまえ文化の郷」として親しまれてきた。
そして2022年、ここに伊丹市立博物館を統合し、歴史・文化・芸術の総合的な発信拠点「市立伊丹ミュージアム」が開館した。

同ミュージアムは、江戸時代に建てられた町家である旧岡田家住宅(国指定重要文化財)と旧石橋家住宅(県指定有形文化財)のほか、地下1階から2階に配された6つの展示室、作庭家・重森完途による日本庭園、アトリエ、俳諧・俳句ひろば、伊丹郷町クラフトショップなどで構成。美術だけでなく工芸や俳諧、歴史など、多彩な文化を紹介。そして、土地や訪れる人々が“自分のミュージアムだ”と親しまれることを目指して付けられた「I/M(アイム)」という略称のもと、芸術文化を通して「人」と「まち」をつなげる活動を展開している。

伊丹の歴史をいまに伝える、
ふたつの貴重な建築物

旧石橋家住宅

前述のとおり同ミュージアムは、江戸時代に建てられた旧岡田家住宅と旧石橋家住宅というふたつの歴史的建築を有する。

旧石橋家住宅は江戸時代後期に建てられた町家。正面は摺り上げ大戸やばったり床几(揚見世)、出格子がはめ込まれている。厨子二階(つしにかい)は4か所に虫籠窓を設け、軒まで白壁で塗り込めているなど、建設当初の店構えを残していることから2001年に県指定文化財となった。
石橋家は、17世紀後期に初代弥兵衛が昆陽口村で八百屋(よろずや)を開業したのがはじまりであるとされている。そして4代目から北少路村に移り住み、5代目から「古手屋茂兵衛」を名乗る。明治以降は紙・金物などの小売業と酒造業を兼業し、その後日用品の雑貨商を営んだ。

旧岡田家住宅

旧岡田家住宅には、正面に店舗、奥に酒蔵、その間に釜屋・洗い場が並んでいる。建立時期は、店舗が江戸前期の1674(延宝2)年、酒蔵は少し遅れて1715(正徳5)年頃と考えられている。釜屋・洗い場は江戸後期に建てられ、その後大きく改造されて今日に至っている。建立者は、江戸前期の酒造家松屋与兵衛であったことが、古文書と在銘礎石などから推測されている。蔵の所有は1729(享保14)年に鹿島屋清右衛門に移り、明治に入り安藤由松を経て岡田正造へと渡り、1984(昭和59)年まで大手抦酒造の北蔵として酒造りが行われていた。ここで醸造されていた酒は、江戸時代には松緑、岡田家の所有となって以後は富貴長・大手抦が主要銘酒だった。
旧岡田家住宅は、伊丹の町家としては最も古く、全国的にも数少ない17世紀の町家のひとつ。また江戸時代に栄えた伊丹の酒造りをいまに伝える遺構として貴重な建物だ。

両建物は公開されており、内部も見学可能。ばったり床几や出格子など、町屋ならではの設えを実際に見て楽しめる。

作庭家・重森完途による日本庭園、
息子・重森千靑氏が想いをつなぐ

施設内には日本を代表する作庭家・重森完途が設計し、跡を継ぐ息子・重森千靑氏によって一部改修された日本庭園がある。
完途はこの地に古来から流れる“水”に着目し、庭園中央部を流れる白砂は、水の象徴ともいえる意匠である井泉や湧水、清流を表している。さらに蓬莱意匠の三尊石組が右端の松樹の付近に設えられている。

完途「この地は元禄頃より「伊丹風」と云われる俳諧の一風・一派が創案された。伊丹の人であった池田宗旦が中心となり、口語を自由に用いた新しい着想の俳諧である。宗旦の後輩にあたる上島鬼貫が、その配下の中堅で著名である。これは新しい着想の俳諧であるから、庭園も新しさを求め、在来の植栽の多い庭園から離れて、それを尠くし、明るさと理解し易い庭になるように努めた。緑も現代風に多彩にするため、地被類も、高麗芝、龍の鬚、杉苔の三種とし、「市の花」たるサツキを野筋(築山より低い山や丘)紋様の刈込みとし、四種類の緑が展開するようにした。しかし、単に新しさだけを求めたのではなく、“くの字”形の石橋配置と低い架け方、飛び石の打ち方を、俳諧の侘びの形態の打ち方にして、古典の美しさの基本を求めて、廻遊と観賞の庭園意匠の初心を忠實に表現した。御来館の諸彦の愛好を願う者である」

さまざまな想いが込められた庭園は、息子である千靑氏によって改修された。
千靑「私共が改修する事で心がけたことは、元の姿の良さを残すために、全く手を付けない部分と新規部分との繋がりを大切に設計にあたったことである。完途の書き残した「美味なる水、水の象徴たる井泉や湧水、清流表現」を、枯滝を付け加えることによって、美しく豊かな水景表現維持と成ることや、完途の晩年の作における石組が、近世初期頃の手法を好んで作庭していたので、改修部分も、作者や近世手法に思いを馳せながら作ることによって、当初作り上げた部分と、全く違和感のないようにする事に努めた次第である。完途の作品も、時間が経つにつれて徐々に評価が上がってきており、この庭園が文化ゾーンの一つとして、末永くこの地で愛されることを願う次第である」

1~2階と地下1階にある展示室では、多彩な分野の展覧会を展示内容や規模に合わせて展示室を変えながら開催。伊丹市の歴史についての常設展示も
織機や銅版画用プレス機、電動ロクロ、染色スペースなどの道具や設備を備えたアトリエ。染織、陶芸、版画、デッサンなど工芸に関する実技講座のほか、子ども向けワークショップや体験講座などを行う
「俳諧・俳句に親しむ」「柿衞文庫を伝える」をコンセプトに、俳諧・俳句の面白さをビジュアル的にわかりやすく伝えるコーナー。デジタル端末を使って気軽に俳諧・俳句が楽しめる
旧石橋家住宅1階にある伊丹郷町クラフトショップでは、全国で活躍中の工芸作家約100名のクラフト作品を展示販売。陶芸・染織・木工・漆・ガラス・ジュエリーなどのほか、展覧会図録や冊子、柿衞文庫のグッズも

多彩な芸術文化から、土地が重ねてきた歴史と地続きにある現在をつなぐ市立伊丹ミュージアム。ここに暮らす人や訪れた人たち、幅広い年齢層に向けて広く芸術文化を発信することで、まちへの未来をつくっていく。

市立伊丹ミュージアム(I/M)
住所|兵庫県伊丹市宮ノ前 2-5-20
Tel|072-772-5959
開館時間|10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
休館日|月曜(祝日の場合は開館、翌平日休館)、年末年始(12月29日〜1月3日)
料金|イベントごとに異なる ※展示室4(歴史常設展示)は観覧無料。旧岡田家住宅・酒蔵、旧石橋家住宅は入場無料(ただし貸室利用時を除く)
https://itami-im.jp

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