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特別な体験を届ける「日本橋髙島屋S.C.本館」
大熊健郎の東京名店探訪

2020.11.18
特別な体験を届ける「日本橋髙島屋S.C.本館」<br><small>大熊健郎の東京名店探訪</small>
重厚で気品ある佇まいの本館。西洋建築の荘厳さに、さりげなく和のテイストが加わる。アーチ部分にある飾りは日本の古い建築にもよく見られる「釘隠し」をイメージ

「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は、お客さまに特別な「体験」を届ける「日本橋髙島屋S.C.本館」を訪れました。

 

大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職
www.claska.com

吹き抜け2階部分から1階を見下ろす。柱は大理石を使用。天井は日本の格天井を意識したデザインに。ダクトも白くし、一体となった空間が美しい

目まぐるしく開発が進む都心にありながら、江戸から続く老舗が数多く残り、新旧の建物と風景が共存しながらも調和と落ち着きを感じさせる街、日本橋。その中心ともいえる場所にそびえる日本橋髙島屋S.C.本館を眺めると、あらためてその威風堂々たる建築の迫力に圧倒される。

2009年、百貨店建築としてはじめて重要文化財に指定された建物は、高橋貞太郎が設計し1933年に竣工。その後、村野藤吾による増築を重ねて現在の姿となった。西欧の建築様式に東洋趣味を盛り込んだ高橋の意匠を継承しつつ、近代建築の手法を用いて全体を調和させた村野の「離れ業」によって誕生した昭和の名建築である。もちろんこの百貨店の魅力は建物だけではない。その歴史と重厚感からつい保守的で高級なイメージを抱きがちだが、実は「進取の精神」こそ、髙島屋が今日の地位を築いた礎ともいえる。「10銭ストア」など、いまでいう100均の先駆けのような業態をはじめたり、いまでは百貨店の代名詞ともいえる物産展の中でも、特に人気の高い「北海道物産展」をいち早く開催したのも髙島屋だ。

1933年の竣工当時の天井、壁、床を生かした「旧貴賓室」。現在はセミナー開催時のみ公開

個人的にも印象的なのが「現代日本民藝展覧会」(1934)と「選択・伝統・創造展」(1941)の開催だ。前者は柳宗悦らの民藝運動を全国に広めるべく企画された催事だが、日本民藝館の設立(1936)に先立っているのも驚かされる。後者はフランス人デザイナー、シャルロット・ぺリアンを戦前に招聘して家具やしつらえの提案を行ったいわばインテリア企画展。ともに工芸やデザイン好きにとっては伝説的な催事だ。これも「進取の精神」に加え、髙島屋の「文化」への関心の高さを示す好例だといえるだろう。

本館2階「ギャラリールシック」には、革製品のオーダー、デザイン家電、盆栽から男性化粧品、生活雑貨など感度の高い幅広いアイテムが揃う

戦後の子どもたちを喜ばせるため象を屋上で飼ったり、国内最初の海外フェアを開催したり、近年では100店舗以上の専門店が入る新館のオープンなど創業から今日に至るまで、次々に時代を先取りする企画を打ち出してきた例には枚挙にいとまがない。どうしたらお客さまに喜んでもらえるかという命題に対する活動の証しであり、その継続が今日の姿をかたちづくっているのは確かだろう。

人々が喜ぶ商品、情報、サービスを提供し、磨きをかけ続けること。そしてお客さまに特別な「体験」として持ち帰ってもらうこと。ネットショッピングが普及し、実店舗の存在意義が問われる時代だが、やるべきことの根本は変わらないという思いを新たにした。

重要文化財に指定されている日本橋髙島屋は高橋貞太郎の設計。村野藤吾による4度の増築も行う

日本橋髙島屋S.C.本館
住所|東京都中央区日本橋2-4-1
Tel|03-3211-4111(代表)
営業時間|10:30〜19:30(本館)
定休日|元日
※レストランフロア、その他の館についてはウェブサイト参照
www.takashimaya.co.jp/nihombashi

photo: Atsushi Yamahira
2020年12月号 特集「全国の有名ギャラリー店主が今注目するうつわ作家50」


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