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伝統の南部鉄瓶「釜定の組鍋」
ただいま、ニッポンのうつわ

2020.11.1
伝統の南部鉄瓶「釜定の組鍋」<br><small>ただいま、ニッポンのうつわ</small>
小鍋でマッシュルームのアヒージョ、中鍋で行きつけのスペインバルの定番、アサリごはんを。米もアサリもふっくら仕上がる。冬は小鍋仕立ての鶏鍋も楽しめそう、と和洋の料理がひらめくかたち

自分の料理や暮らしに合ううつわを求め続けて、高橋みどりが最近気になっているのが、ニッポンのうつわ。背景を知ると、使うのがもっと楽しくなることを伝えたい。今回は伝統の南部鉄瓶「釜定の組鍋」を紹介します。


高橋みどり

スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『ありがとう! 料理上手のともだちレシピ』(マガジンハウス)など

釜定の組鍋
釜定は明治時代に宮鉄瓶店として創業、屋号の釜定で親しまれる。伝統の南部鉄瓶をはじめ鍋、飯釜など調理道具、燭台、ドアベルなど生活道具、特注による室内外の装飾まで、店主自ら意匠を手掛け、工房で製作。

釜定の組鍋(大) φ190×40㎜(大) 価格:8640円(大)、4860円(中)、3024円(小)

朝は紅茶を淹れるために、起きるとまず湯を沸かす。高橋さんが長年愛用するのが盛岡で手に入れた南部鉄瓶だ。その工房、釜定がつくる3つ組鍋。すっきりモダンな入れ子の姿に目が留まったのは、料理家・長尾智子さんの仕事場を訪れたときのこと。調理道具を日々実践的に使う人の選択眼には説得力がある。大鍋ですきやきはもちろんいいけれど、たとえば野菜を焼いて食卓にそのまま出しても美しい。そう聞くと俄然、フライパンのように使える鉄鍋が身近に思え、大中小、それぞれの使い方も見えてきた。

鉄は人間の生活を原初から支えた素材のひとつ。南部鉄瓶の歴史は、藩主の庇護で茶の湯釜がつくられた江戸時代にさかのぼる。明治創業の釜定は、伝統の鉄瓶のみならず、斬新な意匠の道具や工芸品で知られる。主人自らデザインを担うのは、「鉄の性質を知り抜き、小規模な工房でつくれる限界を掌握していなくてはできない仕事だから」と当代の宮伸穂さんは言う。商品化までは時間をかけて修正を重ね、世界で通用し、それまでなかったものになり得るか突き詰めるという。発表から40年になる組鍋も、場所を選ばず、古びない意匠であり続ける自負がある。

鍋料理や煮炊きに用途が限られていた日本の鍋から、汎用性の高い調理道具へ。日々使うことこそ錆びさせない秘訣で、手入れのコツを守れば長く使えるとあれば、3つ組でも手頃な値段は魅力的だ。シンプルなかたち、鉄の質感と実用性があいまって、季節を問わず多彩に使ってみたくなる。

釜定の鉄鍋の豆知識

盛岡の伝統、南部鉄器
17世紀中頃、南部藩主が京都から釜師を招いたことにはじまるといい、その後、茶釜を小振りにした鉄瓶が創案された。明治以降、生活様式の変化に伴い、調理道具や日用品も製作。1975年、伝統的工芸品に指定。

鉄鍋の特徴と手入れ
熱伝導がよく全体にむらなく熱が回り、保温性に優れる。使いはじめに油をなじませて空焼きして油の膜をつくり、焦げつきや錆を防ぐ。錆の原因になるので酸味や塩分の強い料理は鍋に入れたままにしないこと。

釜定3代、宮伸穂さんのデザイン
釜定では当主が意匠を手掛ける。金沢美術工芸大学を経て東京藝術大学大学院で金工を学んだ宮伸穂さんは、南部鉄器の特性を生かしつつ、世界で通用するシンプルでモダンなものづくりに取り組んできた。

text : Akiko Nariai photo : Yuichi Noguchi
2018年12月号 特集「一生モノに出合いたい!みんなの愛用品。」


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