《SABOE OKAYAMA》岡山から
はじまる最先端のお茶の愉しみ方
後編|瀬戸内の旅の起点をSABOEに
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歴史ある岡山後楽園の門前町に新たなランドマークが誕生した。日本茶を現代の様式に再定義し、世界へ発信する「SABOE」が岡山で手掛けたプロジェクトとは?後編は、岡山という土地だからできた文化融合について、プロジェクトメンバーに教えてもらった。
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SABOEからはじまる、瀬戸内の愉しみ方。
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「SABOE OKAYAMA」のストーリーは、岡山の地域振興に取り組む石川康晴さんがこの場所と出合ったことにはじまる。
地元のNPOから「石川さんの財団で保護してほしい」と打診があり、2018年に建物を購入。段階的に改修を進め、文化施設「福岡醤油ギャラリー」を立ち上げた。食文化を発信するにあたって石川さんがコラボレーションを熱望したのが、現代らしい日本の文化創造を提唱する「SIMPLICITY」緒方慎一郎さんだ。
「緒方さんは、施設の第1期でギャラリーを開いた頃から足を運んでくれていました。新しい日本の食文化を具現化できる人にぜひ託したかった」と石川さん。折しも、緒方さんも「SABOE」の店舗展開を構想していた。お茶のスペシャリストである「櫻井焙茶研究所」櫻井真也さん、「万 yorozu」德淵卓さんも迎えたチームでSABOE OKAYAMAのプロジェクトが始動する。
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(左から)櫻井真也さん、石川康晴さん、德淵卓さん、緒方慎一郎さん
変えていいものと変えてはいけないものを融合させることが我々の仕事」と緒方さん。「現代の生活にどうやって日本茶をもっと取り入れてもらうかというSABOEのコンセプトやコンテンツは全店共通で、土地ごとに表現方法が異なる。岡山という土地でしかできないことが必ずあるから、押しつけるのではなく文化融合しなければならない。SABOEをきっかけにいい化学反応が起これば、岡山を新しくするということに貢献できる。我々は裏でそのサポートをするようなイメージです」
禅を想起させる静謐な茶房と、買い物を楽しむお客で活気に満ちる売店では大きくトーンが異なるため、あえて別々の入り口を設けた。ふたつの顔の鮮やかな対比もまた、SABOE OKAYAMAの特色といえるだろう。
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開業準備が進む中、石川さんがオーナーを務める「茶下山」を視察した際、緒方さんたちはとある茶葉と出合っていた。焙煎をかける前の青番茶だ。通常、このままでは商品にならないが、緒方さんはこう考えた。「未完成の美というものがあって、青番茶もまさにそう。一歩前で止めてみると新しいものを生み出すきっかけになるものです」。
それを櫻井さんの手によって昇華させたのが「T., Collection」の地域限定品「青 Sei」だ。「岡山のテロワールから生まれたものを使うことで、我々も進化できる。共存共栄し文化融合するのが目標です」
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石川さんの発案で、生産者である下山さんが自ら茶房に立つことが決まった。「ここに立ってエンドユーザーと接することで、意見をフィードバックした農業ができる。全国の茶農家の考え方が変わっていくきっかけのひとつになるかもしれません」と石川さん。淹れ方や所作を下山さんに指南した德淵さんは語る。「下山さんはサービスこそ初心者ですが、“お茶を伝える”という一番大切で根本的なことを誰よりも理解されている強みがある。ほかスタッフにもいい刺激になるはずです」
店が位置するのは、日本三名園のひとつ・岡山後楽園のお膝元。「かつて門前町として栄えていたこの地域を、もう一度活性化していきたい。そして岡山は、倉敷や直島などを擁する瀬戸内の入り口であり、ハブでもあります。SABOE OKAYAMAが、グローバルなゲストを最初に迎え、おもてなしする場所になれば」と石川さんは見据える。ここを起点に瀬戸内をめぐる旅が、新しいスタンダードになりそうだ。
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SABOE OKAYAMA
住所|岡山県岡山市北区弓之町17-35
Tel|086-207-2779
営業時間|売店11:00〜17:00、茶房13:00〜23:00(日曜、祝日13:00〜17:00、祝前日13:00〜23:00)
定休日|月・火・水曜(祝日の場合は営業)
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特別名勝 岡山後楽園
住所|岡山県岡山市北区後楽園1-5
開園時間|7:30~18:00(3月20日~9月30日)、8:00~17:00(10月1日~3月19日) ※入園は閉園の15分前まで
https://okayama-korakuen.jp
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福岡醤油ギャラリー
住所|岡山県岡山市北区弓之町 17-35
https://fukuokashoyu.org
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photo: © Ola Rindal
岡山芸術交流 OKAYAMA ART SUMMIT
期間|2025年9月26日~11月24日(予定)
www.okayamaartsummit.jp
《SABOE OKAYAMA プロジェクトメンバー》
櫻井真也
「八雲茶寮」、「HIGASHIYA」のマネージャーを経て2014年に独立。東京・南青山に日本茶専門店「櫻井焙茶研究所」を開く。「茶方薈」では国内外における呈茶やセミナー、メニューの企画・提案、淹れ手の育成なども手掛ける。
石川康晴
ストライプインターナショナル創業者。イシカワホールディングスCEO・石川文化振興財団理事長として岡山の地域活性化と経済振興のための貢献活動を行う。「茶下山」オーナー。瀬戸内デザイン会議、岡山アワード発起人。
德淵卓
福岡「BASSIN」、「BACCHUS」のマネージャーを務め、2012年に独立し茶酒房「万 yorozu」を開店。個性豊かな日本茶、酒や甘味などを愉しめる。「茶方薈」では現代における茶の様式を創造し、継承するための活動を担う。
緒方慎一郎
「SIMPLICITY」代表/デザイナー。現代における文化創造をコンセプトに、食、茶、菓子、工芸、デザインにおいて多岐にわたる活動を行う。「OGATA」を創業し、2020年、フランスに「OGATA Paris」を開店。世界への展開をはじめる。
text: Aya Honjo photo: Maiko Fukui
2025年2月号「温泉のチカラ」