世界初!水素コンロ導入の
箱根の名旅館《円かの杜》
環境配慮型旅館へ
アメニティやリネンなどで環境に配慮した宿泊施設は増えてきているが、料理の調理方法において、気候変動対策を意識した旅館が登場した。次世代エネルギー・水素といえば、自動車のエネルギーとして知られているが、それだけにとどまらない活用の可能性が、料理の世界にも広がってきている。そんな水素を活用したコンロを使った料理を提供する、世界初の試みを旅館で行っているのが箱根温泉・強羅にある「円かの杜」だ。
箱根温泉にある「円かの杜」。2本の自家源泉をもち、すべての客室に露天風呂を備える。客室とは別に広々とした大浴場と露天風呂もあり、プライベートにも開放的にも温泉が楽しめるのも魅力だ。館内には木を贅沢につかい、全館畳敷きというのもうれしい。箱根連山を一望できる絶景があり、静かに過ごすことができる宿としても知られる。
こちらで導入した水素コンロとは、いったいどのようなものなのだろう?
水素コンロは、水素ガスを直接燃焼させて調理するため、CO2の排出はゼロ。かつ、食材を美味しく焼き上げることができるという。水素が酸素と結合して熱を出すため、コンロ付近の湿度が高くなる。そのため、食材が水分をまとった状態で焼き上げることになる。いわば蒸して焼いている状態だ。通常のガスコンロで焼くと、食材の水分が抜けていくが、水素コンロは火力が強いため、短時間で調理することができ、外はカリっと中はしっとりジューシー、食材の旨みを逃さず、食材本来の風味を生かして焼き上げることができるという。
「円かの杜」では、2台の水素コンロを導入したことにより、年間の二酸化炭素排出量約20tのうち、1.2tを削減することができるという。ただ、デメリットもある。プロパンガスよりも約2.4倍ぐらいコストはかかるというのだが、それでも導入に踏み切ったのには女将・松坂美智子さんの強い想いがあった。
「地球温暖化の影響で、自然災害の激しさやそれによる被害も年々各地で増しています。箱根町も2019年の『令和元年台風第19号』による豪雨で甚大な被害を受けました。箱根登山ケーブルカー早雲山駅すぐそばにあった、私どもの系列旅館「早雲閣」にも土砂が流れ込みまして……。1925(大正14)年創業の旅館だったのですが、営業できる状態ではなくなってしまいました。建て直すことも考えたのですが、まずは小さな一歩でもいいので、既存の旅館で気候変動の問題に取り組みたいと考え、水素コンロの導入を決めました」
導入した水素コンロは、ベンチャー企業の「H2&DX社会研究所」が開発したもの。H2&DXは「世界の飲食シーンから二酸化炭素をなくす」というミッションを掲げている会社だ。水素コンロ導入に向けたコンサルティング、水素調理用レシピ開発、水素調理レストランの経営サポートも行っている。
2014年に開業した「円かの杜」。今回の水素コンロの導入を皮切りに、二酸化炭素を排出した電気の利用から、再生可能エネルギーや水素燃料電池へ転換も図るという。そして、二酸化炭素を排出して製造されたプラスチックを使ったアメニティや飲料容器の採用も見直し、脱炭素への取り組みを行う計画だ。10月には生ゴミ処理機の導入を予定。
環境と人、それぞれに配慮したラグジュアリーな体験を提供する旅館へ進化していく「円かの杜」。これからのラグジュアリーな旅館のあり方としても目が離せない。
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円かの杜
住所|神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-862
Tel|0460-82-4100
料金|1泊2食付き4万1000円~(2名1室の場合の1名料金)
IN|15:00
OUT|11:00
アクセス|車/小田原厚木道路箱根口ICから約25分 電車/箱根登山電車強羅駅から送迎あり(要予約)