身体に合う泉質を知れば湯治効果も倍増!
完全保存版!プロ厳選のいい風呂とサウナ
【Column 3】
温泉をより深く楽しむために知っておきたい知識を、温泉教授こと、松田忠徳さんにうかがう。今回のテーマは、「湯治効果を倍増させる身体に合う泉質」。温泉の泉質別効能を知り、自然治癒力を引き出そう!
肌への負担が少なく日本で最も多く湧出
単純温泉
日本の温泉の約40%を占める。神経痛、関節痛、腰痛など、効能は主に温熱効果によるもの。一般的に含有成分が薄く、刺激が少ないため、回復期の保養やリハビリにも適している。アルカリ性単純温泉は美肌効果が期待できる
おすすめの入り方
湯触りは柔らかく、万人向き。無色透明、無臭に近いものが多い。ぬめりがあり、しっとり感の強いアルカリ性の単純温泉は、入浴後に冷えやすいため、しっかりと保温すること。特に幼児や高齢者は、湯上がり直後に冷えた飲み物を飲むことは控えたほうがよい
代表的な温泉地
鬼怒川温泉(栃木)/修善寺温泉(静岡)/下呂温泉(岐阜)/俵山温泉(山口)/道後温泉(愛媛)など
汚れや角質を取り除く美肌の湯
炭酸水素塩泉
「重炭酸土類泉」と「重曹泉」のふたつに分けられる。重炭酸土類泉は鎮静効果があるため、アレルギー性疾患や慢性皮膚病などに効能がある。重曹泉は皮膚表面の脂肪分や分泌物を乳化するので、美肌効果が知られている
おすすめの入り方
清涼感があって気持ちがよいが、冷感も覚えるため、入浴直後の冷たい飲み物は控えたほうが吉。温泉成分と入浴者の皮脂が石鹸の役割を果たすので、必要以上に石鹸を使用すると、湯上がりに皮脂が失われる可能性も。早めに保湿クリームなどを塗ったほうがよい
代表的な温泉地
東鳴子温泉(宮城)/肘折温泉(山形)/十津川温泉(奈良)/嬉野温泉(佐賀)/妙見温泉(鹿児島)など
保温効果抜群な別名「熱の湯」
塩化物泉
日本は海に囲まれた島国であるがゆえ、泉質の数は単純温泉の次に多い。含有成分に含まれる塩分が毛穴を塞ぎ、汗の蒸発を防ぐため、保温効果が高い。「熱の湯」とも呼ばれ、特に冷え性や末梢循環障害に効果的とされる
おすすめの入り方
温まり方が早く、発汗作用に優れているため、入浴前後の水分補給は必須。常温か温かい飲み物が好ましい。無理な長湯は避け、分割入浴がおすすめ。毛穴に付着した塩分は入浴後の保温力持続につながるので、上がり湯はせず、手拭いで軽く拭く程度にしたい
代表的な温泉地
熱海温泉(静岡)/あわら温泉(福井)/城崎温泉(兵庫)/白浜温泉(和歌山)/黒川温泉(熊本)など
切り傷ややけどの治療をするなら
硫酸塩泉
塩化物泉同様、優れた保温効果をもつ。含有成分により、高血圧症や動脈硬化症に効く「芒硝(ぼうしょう)泉」、外傷ややけどなどに有効な「石膏泉」、降血圧作用があり稀少価値の高い「正苦味(せいくみ)泉」の3つに分けられる
おすすめの入り方
芒硝泉はナトリウム、石膏泉はカルシウム、正苦味泉はマグネシウムを、より多く含んでいる。どれも含有成分が濃厚な場合が多いため、入浴前後の水分補給をお忘れなく。特に循環器系疾患の方は、3分ほどの入浴と小休憩を繰り返す分割入浴を推奨する
代表的な温泉地
銀山温泉(山形)/四万温泉(群馬)/箱根仙石原温泉(神奈川)/山中温泉(石川)/玉造温泉(島根)/など
ぬる湯が多く炭酸ガスが血行促進
二酸化炭素泉
「単純炭酸泉」とも表記される。「泡の湯」といわれるように、全身に気泡が付着し、じんわり身体を温める。炭酸ガスを皮膚から吸収し、毛細血管を拡張。血圧を下げたり、血流を促進するため、高血圧症や心臓病に効果的だ
おすすめの入り方
源泉の温度は35℃を割るものが大半なので、心臓に負担をかけず、比較的長湯ができる。ただし血管の拡張作用により、体感温度は2〜3℃高く感じるだろう。二酸化炭素泉は温泉成分のガス分が重要なため、源泉かけ流しでなければ効能は期待できない
代表的な温泉地
大塩温泉(福島)/湯屋温泉(岐阜)/入之波温泉(奈良)/小屋原温泉(島根)/長湯温泉(大分)など
火山パワーで細胞を活性化できる
硫黄泉
「火山国・日本」を象徴する硫黄泉。身体の芯から温まり、抗酸化作用にも優れている。「万病に効く」といわれ、幅広い効能をもつ。特に末梢毛細血管拡張作用により、高血圧症や動脈硬化症、心臓病などに効果がある
おすすめの入り方
血流を促進し、体温の上昇を促すため、入浴前後の水分補給に留意し、長湯を控えること。硫化水素中毒の危険性がある場所では、換気に注意を。幼児や高齢者は、湯あたり予防や皮膚粘膜を守るため、シャワーなどで上がり湯を利用するのをおすすめする
代表的な温泉地
登別温泉(北海道)/乳頭温泉郷(秋田)/奥日光湯元温泉(栃木)/野沢温泉(長野)/雲仙温泉(長崎)など
コレステロール値を下げ、発汗作用大
含よう素泉
2014年の「鉱泉分析法指針」の改訂で追加された泉質。うがい薬のような殺菌効果をもつ。また甲状腺ホルモンの機能を活発にし、新陳代謝を促進。皮膚や髪のターンオーバーを正常に促し、美容効果も期待できる
おすすめの入り方
非火山性で、海水が温泉源。温まり方が早いため、発汗作用に優れている。毛穴に付着した塩分が保温力持続に効果を発揮するため、上がり湯ではなく手拭いで軽く拭く程度に。飲用では高コレステロール血症に効果があるが、甲状腺機能亢進症の方は飲用禁止
代表的な温泉地
稚内温泉(北海道)/豊富温泉(北海道)/新富町温泉(宮城)/白子温泉(千葉)/新津温泉(新潟)など
鉄分が豊富で貧血や婦人病に効果あり
含鉄泉
温泉成分の含有量により「鉄泉」、「炭酸鉄泉」、「緑礬(りょくばん)泉」などに分けられる。日本では「赤湯」とも呼ばれ、豊臣秀吉は含鉄泉の代表格、有馬温泉の湯を愛した。関節痛、皮膚病、慢性湿疹、更年期障害などに有効
おすすめの入り方
茶褐色のイメージが強いが、湧出時は無色透明。空気中の酸素に触れ、鉄分が酸化鉄になるため、濃く変色していく。ゆえに可能な限り、源泉かけ流し、湧きたての、無色透明に近い湯を選びたい。それは飲用の際も同様。飲用では鉄欠乏性貧血に効果的である
代表的な温泉地
恵山温泉(北海道)/恐山温泉(青森)/鳴子温泉(宮城)/伊香保温泉(群馬)/有馬温泉(兵庫)など
ピリピリの刺激で強い殺菌効果をもつ
酸性泉
火山の多い日本ならではの泉質で、世界的にも珍しい。強い殺菌作用があり、水虫、湿疹、疥癬(かいせん)などの慢性皮膚病に卓効がある。江戸時代から続く草津温泉の湯治療法「時間湯」のように、慢性病治癒にも活用される
おすすめの入り方
皮膚の湯ただれを防ぐため、シャワーなどで上がり湯を。肌への刺激が強いため、敏感肌の方は入浴を控えたほうがよい。細胞への刺激で免疫系、自律神経系、ホルモン系によく効き、自然治癒力を引き出す湯力をもつが、長時間の入浴は避けること
代表的な温泉地
酸ヶ湯温泉(青森)/玉川温泉(秋田)/那須湯本温泉(栃木)/草津温泉(群馬)/万座温泉(群馬)など
源泉数が少なく稀少な痛風の湯
放射能泉
ラジウムやラドンなどの放射能物質を含み、中国地方を中心に湧出地域は限られている。「痛風の湯」として知られ、利尿効果が高い。放射能泉といえど放射線量は微量で、入浴後にすぐ排出されるレベルのため、心配は無用だ
おすすめの入り方
ラジウムやラドンは空中に拡散するため、必ず源泉かけ流しの湯に入ること。吸入法が最も効果的なので、湯口付近に浸かり、湯気も吸入してほしい。飲用の際も新鮮な湯がよく、胃の粘膜への刺激を防ぐため、食後が最適。長湯による湯あたりにも気をつけたい
代表的な温泉地
栃尾又温泉(新潟)/村杉温泉(新潟)/増富温泉(山梨)/三朝温泉(鳥取)/関金温泉(鳥取)など
読了ライン
1 2 3 4
1|歴史からひも解く日本人と温泉の関係性
2|温泉好きなら知っておきたい!旅で役立つ温泉基礎知識
3|身体に合う泉質を知れば湯治効果も倍増!
4|伝統的な入浴法
supervision: Tadanori Matsuda text: Nao Ohmori photo:Atsushi Yamahira,Mizuaki Wakahara,Ko Miyaji
Discover Japan 2023年2月号「癒しの旅と温泉。」