ブックディレクター幅 允孝さん推薦
これからの時代を生きるための糧(ほん)
これからの時代、いままで以上に多様な生物、無生物と「共存」していくことが必要だ。私たちは「自分」以外のことをどれだけ知っているだろう。さまざまな生き方を学び、あらゆる角度から物事を考えられるような選書をブックディレクター・幅允孝さんに聞いた。
バッハ代表。ブックディレクター。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、オフィスなどさまざまな場所でライブラリーを制作。直近では、安藤忠雄による「こども本の森 中之島」でのクリエイティブ・ディレクションを担当
ウイルスって敵なの? 味方なの?
『ウイルスの意味論』
ウイルス研究に50年以上従事してきた山内一也氏が「ウイルスとは?」を体系的に解説。「ウイルスは宿主である人間を守ることもあります。“敵”としてではなく、その生存戦略に想像をめぐらせることができる一冊です」。
価格:3080円
発行:みすず書房(2018)
感染症とともにどう生きる?
『感染症と文明 —共生への道』
熱帯での感染症対策に従事してきた医師の一冊。「ペスト終焉とともにヨーロッパの近代世界システムが幕を開けたように、感染症が人間の文明をどう変えてきたか、よく考察されています」。
価格:792円
発行:岩波書店(2011)
日本社会は私たちを救ってくれる?
『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』
雇用、教育、保障など、日本社会の仕組みがなぜ変わらないかをわかりやすく解説。「労働史と経営史の複眼で、暗文化された日本的な慣習の根源に迫ります。今後の働き方の参考にもなる内容です」。
価格:1430円
発行:講談社(2019)
生き物にとって“死”とはいったいなんなのか?
『生き物の死にざま』
「ニュースで語られる“死者数”という数字に実感がわかないんです。人としての生きざま、死にざまはどうだったのか。成体のベニクラゲは死んで動かなくなると再び幼生になり、生き直すそう。死とは何か、考えさせられます」。
価格:1540円
発行:草思社(2019)
スペイン風邪にかかった志賀直哉? の心模様。
『小僧の神様 他十篇』
短編集に収められた「流行感冒」は1918年に全世界で流行したスペイン風邪に罹患した一家の話。「頼りなかった女中がその一家を献身的に介護することで見直されていきます。病気を媒介にした人の心の機微に注目です」。
価格:704円
発行:岩波書店(2002)
人類滅亡?生き残ったのは……。
『復活の日』【新版】
日本を代表するSF作家・小松左京の長編二作目。「新型化学兵器として開発された菌が、全世界に広まってしまった。パニック状態の人間の精神の描写が壮絶で、コロナ後の世界がどうなるかの示唆に富んでいます」。
価格:2530円
発行:早川書房(2018)
非常時に生きる女性の胆力
『戦争は女の顔をしていない 1』
2015年ノーベル文学賞受賞作品のコミカライズ。第二次世界大戦、ソ連では100万人以上の女性が従軍。非常時の物語を小梅けいとが描く。「名もなき女性たちの美しくも切ない戦中の生きざまが描かれます」。
監修:速水 螺旋人
原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
価格:1100円
発行:KADOKAWA(2020)
免疫力ってそもそも何?
『免疫力を強くする』
免疫学の第一人者による新書。「最新科学でワクチンと免疫を俯瞰。病原体に最も有効なのはワクチンという専門家の言葉に納得ですが、ストレスを減らし、血液やリンパの循環をよくすることが基本です」。
価格:1210円
発行:講談社(2019)
文=編集部 写真=山平敦史