発酵家・醸造家・蒸留家 山口歩夢さんが推すスピリッツ
BOSO Rhum Agricole blanc Soleil -太陽-
|私が夏に飲みたいお酒④
太陽が燦々と照らし、汗が滴る日本の夏。酒を飲みたくなるときもきっとあるはず。ビール、日本酒、スピリッツ、ワイン、焼酎……。酒のスペシャリスト6名がこの夏に飲みたい名酒を語ります。
今回は、発酵家・醸造家・蒸留家として幅広く活躍する山口歩夢さんが登場。幼少期の思い出の地である南房総の風土を感じさせるスピリッツを紹介します。
山口歩夢(やまぐち あゆむ)
1995年生まれ。エシカル・スピリッツ取締役。醸造責任者としてすべてのエシカル・ジン造りを主導する。そのほか「Whiskey & Co.」でも活動中
南房総の景色が広がる、夏夜を彩るラム
ラム酒はサトウキビから造られたお酒である。サトウキビは熱帯気候でよく育つ農作物であることから世界中の温暖な地域で育てられ、同じくラムも世界中の温暖な地域を中心に製造されている。日本でも沖縄などを中心にラムが製造されていたが、2022年、千葉県南房総市で自らサトウキビを育て、ラムを製造する蒸溜所が誕生した。
今回紹介する「房総大井倉蒸溜所」の「BOSO Rhum Agricole blanc Soleil -太陽-」は、千葉・南房総にて自社生産をしたサトウキビを搾り、その搾り汁を発酵させ、蒸溜して生まれたアグリコールと呼ばれるタイプで、南房総の風土が詰め込まれたラムである。
ラムとひと口に言っても、実はさまざまな造り方がある。砂糖をつくった際の残渣・廃糖蜜から造られるタイプ、サトウキビ汁を煮詰めてつくったシロップを用いて造るタイプ、そしてサトウキビ汁をそのまま発酵させて造るタイプである。
サトウキビの汁は砂糖の原料となる。要は糖がたくさん含まれているので、とても腐りやすく、サトウキビの産地でなければアグリコールラムは造れない。貴重なラムである。千葉県出身の私は、’19年に蒸溜所建設のプロジェクトを知り、驚き、喜んだ。
南房総市、それも蒸溜所がある千倉町は幼少期からよく海に遊びに行っていた地域だったのだ。早速連絡して、その半年後には南房総へ遊びに行った。千倉に着いて蒸溜所のオーナー・青木大成さんと合流。蒸溜所予定地とサトウキビ畑を見せてもらった。畑のあった場所は、子どもの頃によく遊びに行っていたところからすぐの場所だった。思い出の地に一面のサトウキビ畑が広がっていたのだ。
その夜は大成さんとお酒に関して、南房総に関して、さまざまなことを語り合った。
それから、蒸溜所が完成してからも何度かおじゃました。サトウキビの収穫体験をさせてもらったこともある。サトウキビを刈って、葉を機械で取って、搾り機で搾り、ラムの原料となるサトウキビ汁を取り出す。農業からの酒造りに敬意を表さざるを得ない。蒸溜所で発酵している醪は、プチプチと元気な音を出していた。
「酒を造るにはその場所にある風土や文化が大事である」という大成さんの言葉が心に刺さるときがたまにある。僕は自分の造るお酒に、東京の風土を、文化を、テロワールをのせられているだろうか。自問自答をしながらこのラムを飲む。南房総の海、山、照りつける日差しを感じ、思いを馳せる。家で飲んでいても、確かにそこに南房総が広がるのだ。お酒にまつわる場所だけでなく、よく行っていた道の駅、砂浜、寿司店、さまざまなことを思い出すのである。
このお酒には確かな「テロワール」がある。
好みの飲み方は、「キューバリブレ」。ラムにコーラ、そしてカットしたライムを搾って入れる。アグリコールラムの青々しさが、コーラの爽快感ととても合って、ついつい飲み過ぎてしまうのだ。アルコール度数は高いので、ほどほどに楽しみつつ。音楽を聴きながらいい夜を過ごせそうである。
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BOSO Rhum Agricole blanc Soleil -太陽-
価格|7700円/700㎖
原材料|南房総産(自社生産自然栽培)サトウキビほか
アルコール度数|59度
問|房総大井倉蒸溜所
Tel|0470-29-3953
https://rhumboso.com
illustration: Kako Kuwayama
Discover Japan 2024年6月号「おいしい夏酒」