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《立札茶室 然美》“茶菓懐石”の誘惑
新しい茶と菓子、もてなしの関係

2022.12.3
《立札茶室 然美》“茶菓懐石”の誘惑<br><small>新しい茶と菓子、もてなしの関係</small>

茶の湯におけるおもてなしの完成形・茶懐石。その精神を落とし込み、新たな愉しみを創造する「茶菓懐石」の魅力に迫った。

菓子司の職人とパティシエがタッグを組んだ唯一無二の菓子

花街の典雅な趣漂う祇園町。その一角に、デザイナーで現代美術作家の髙橋大雅さんが手掛ける総合芸術空間「T.T」はある。ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校でアートとファッションを学び、ニューヨークで自身のブランド「タイガ・タカハシ」をローンチした髙橋さんは、現代のものづくりについて自問。次々と消費される“新しさ”より尊いのは日本古来の美意識。時の移ろいとともに堆積した文化を、現代によみがえらせたい。真摯な思いから、日本文化の原点ともいえる京都に拠点を構えた。その2階に設けられた立礼茶室「然美」を訪ねた。

築100年超の町家にリノベーションを施した空間を構成するのは、京都・西陣の唐紙工房「かみ添」に特注した和紙があしらわれた壁、偉大なデザイナーであるジョージ・ナカシマの家具を長年手掛けてきた「桜製作所」との共作によるオリジナルの椅子。職人の高い技術と志を感じさせる要素が、髙橋さんの美学を雄弁に物語る。

墨を塗り重ねたような手刷り和紙の壁が、日の光に映える。福村龍太氏の銀彩など、気鋭作家にオーダーしたうつわも見どころ。茶菓懐石5500円は完全予約制

提案するのは、茶懐石ならぬ「茶菓懐石」。オリジナルの菓子と日本茶のペアリングが楽しめる月替わりのコースだ。いっせいスタートで客を迎えるスタイルは、まさに茶席そのもの。カウンターの中央には炉が切られ、湯気が立ち昇る。いよいよコースの幕開け。老舗和菓子司の職人とパティシエがタッグを組んだ唯一無二の菓子が供される。四季折々の自然や情景を映した菓名やビジュアル、旬のフルーツなども取り入れた緩急のある風味に心が躍る。和と洋、伝統と革新というボーダーを軽々と越え、巧みに融合させた5品。その脇を固める日本茶のコーディネイトもまた、伝統と革新を感じさせる。多彩なペアリングティーは「一保堂茶舗」「利招園茶舗」などとコラボレート。菓子と茶、相互の味わいを膨らませる美味しい関係に陶然とさせられる。ハーブやスパイスなどを合わせ、華やかなカクテルやモクテルに仕立てたものもあり、気持ちが高まる。

現代美術としての世界観も感じることができる。静謐な空間、お茶を淹れる丁寧な所作、そのすべてがパフォーマンスアートのよう。もてなしを受ける私たちもまた、「然美」という作品の一部なのかもしれない。

日本随一の総合芸術として発展してきた茶の湯。人生の半分以上を海外から日本文化を見つめた髙橋さんによる再構築は、無限の可能性を感じさせてくれる。今年4月、27歳という若さで惜しまれつつも逝去された髙橋さん。彼の追求した美意識や哲学は、スタッフにしっかりと継承されている。

爽籟×玉露 あさひ
きなこを加えたコク深いバタークリームにナツメ、松の実をあしらったスタイリッシュな最中。まろやかな味わいの一品に合わせたのは、若芽の豊かな旨みと甘みが際立つ「利招舗茶舗」の玉露。玉露が最も美味しい温度帯を追求し、オールシーズン冷茶を供する
曼珠沙華×煎茶 てんみょう
曼珠沙華(彼岸花)の鮮やかな赤を、ミックスベリーで表現。金ゴマ入りのゴマ豆腐、ミョウガで香味を重ねた。収穫後の茶葉を日光で萎凋させ、烏龍茶のような香りを立たせた煎茶とともに
笑栗×千里香
最高級の丹波栗を使用したきんとんに、白あんとクルミを忍ばせて。和紅茶に国産グレーンウイスキー知多を合わせ、キンモクセイとクローブを香らせたオリジナルカクテルが絶妙なペアリング
菊の露×柳散る
菊花に降りた夜露に見立てた巨峰、青シソ入りの求肥とリコッタチーズが、すがすがしく気品ある風味を醸し出す。自家製の煎茶ウォッカに「一保堂茶舗」の煎茶、白桃とディルを加え、秋の訪れを表現
薄月×蓬莱茶(玄米茶)
新ショウガの香りを利かせた黒蜜の雲から、道明寺の月の優しい光が漏れる。茶懐石で供される湯桶の香ばしさをヒントに、ペアリングティーは玄米茶。丸みのある味わいの玄米茶は「蓬莱堂茶舗」から
祗園に溶け込む数寄屋の佇まい。タイガ・タカハシのコレクションや高橋氏の彫刻作品が並ぶギャラリーも

立礼茶室 然美
住所|京都市東山区祇園町南側570-120 総合芸術空間T.T2F
Tel|075-525-4020
営業時間|【1部】13:00〜14:30
【2部】16:00〜17:30
※いっせいスタート
定休日|なし
www.rustsabi.com

text: Aya Honjo photo: Maiko Taya
Discover Japan 2022年11月号「京都を味わう旅へ」

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