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京都《さらさ西陣》
銭湯から地域の憩いの場に進化
|体験できる近現代名建築

2026.5.12
京都《さらさ西陣》<br>銭湯から地域の憩いの場に進化<br><small>|体験できる近現代名建築</small>

既存の建築を生かしつつ、用途を変化させて活用する「コンバージョン」。育まれてきた歴史と現在の営みが重なる空間に滞在することで、その地域の風土に出合う。そんな建築の再生・活用事例を建築史家の倉方俊輔さん監修のもとご紹介。今回は、京都府にある「さらさ西陣」を紐解いていく。

文=倉方俊輔
大阪公立大学大学院工学研究科教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築イベント「東京建築祭」の実行委員長を務めるなど、建築の価値を社会に伝える活動を行う。『建築を楽しむ教科書』(ナツメ社)など著書多数。

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マジョリカタイルがもたらす
レトロな雰囲気

当時の姿を生かしながら喫茶店に
桟瓦葺きの屋根に唐破風の装飾、マジョリカタイルが施された木造2階建ての外観は、当時のままいまに残る。現在は、「CAFE SARASA」の文字が入った黄色の軒先テントや、温泉マークのウェルカムボードがお客を迎え入れている

玄関をくぐり、内部に足を踏み入れれば、想像以上に開放的な空間が広がる。銭湯の時代には、手前が脱衣場、その奥は向かって左が男湯、右が女湯として使われていた。脱衣場の天井には、木材を格子状ごうてんじょうに組んだ格天井が用いられている。唐破風と同様、この形式は江戸時代には上層住宅に限られていたもので、入浴者を迎え入れる場のつくり方が丁寧に考えられていたことが読み取れる。

さらに奥へと進むと、壁一面のタイルに囲まれた空間が現れる。席に腰を下ろし、視線を少し動かすだけで、色のニュアンスが変化する。さらさ西陣の最大の特徴は、脱衣場から浴室にかけて用いられた「和製マジョリカタイル」である。大正末期から昭和初期にかけて国内で生産された装飾タイルだ。輸入タイルの意匠や技法を参照しながら国産化が進められ、量産品でありつつも、レリーフの深さや釉薬の表情には一枚ごとの差異がある。さらさ西陣では、植物文様や幾何学文様が連続的に配され、壁面に立体的な表情と視覚的なリズムをもたらしている。

〈改装後〉銭湯時代の装飾を生かす内装
右)緑色と花の装飾が映えるマジョリカタイル
左)1階の浴場や脱衣場だった場所が、喫茶スペースに生まれ変わった。また、天井の吹き抜けは、湯気抜きの役割を担っていた。中央には、男湯と女湯を隔てていた壁の一部が残る

銭湯におけるマジョリカタイルは、装飾性と実用性を併せもつ素材だった。水や湯気に耐え、日々の入浴空間に変化を与える。その性質は、現在の喫茶という使われ方の中でも引き継がれている。光の入り方や席との距離によって、色の重なりや陰影の現れ方が変わり、空間の印象は刻々と移ろう。

かつて国内で生産されていた装飾タイル「マジョリカタイル」が、いまも壁面に使用されている

建物の構成にも、銭湯ならではの工夫がある。奥に長い敷地を生かし、入り口から番台、脱衣場、浴室へと空間が連なる。浴室部分では湯気を逃がし、光を取り込むために天井が一段と高くなっている。

銭湯から地域の交流の場へ

〈改修前〉外観は銭湯らしい意匠を施す
日本の城郭建築などでよく見られる、中央頭部が弓のように盛り上がる曲線が美しい「唐破風」が目を引く銭湯で、脱衣場棟、浴場、釜場棟、店舗棟を擁していた。1階には脱衣場や浴室、2階には和室も設けられていた

かつての銭湯は2000(平成12)年、さらさ西陣として第2の生を享けた。喫茶店への転換にあたっては、浴槽の上に床を張って客席を設け、番台周辺は注文や会計の場へと読み替えられた。マジョリカタイルや木製建具、天井の意匠といった要素は、そのまま保全。男湯と女湯を隔てていた壁は一部を残した。そのことが過去と現在が交差し、光と風が流動する空間の効果を高めている。

銭湯らしい構成やマジョリカタイルの表情、コーヒーやスイーツ、名物のランチを味わう憩いの時間が重なる。使われ方は大きく変化したが、念入りにつくられた建築は、人々に親しまれ続けている。

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〈概要〉
京都市北区の鞍馬口通に面する場所に、1930年、「藤ノ森湯」として建てられた建物。約70年間銭湯として親しまれ、2000年に現在の喫茶店に生まれ変わった。

〈建築データ〉
竣工年|1930年
開館年|2000年
設計|不詳
改修|大塚章寿(サラサ役員)
構造形式|木造2階建

〈施設データ〉
住所|京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
Tel|075-432-5075
営業時間|11:30~21:00
定休日|水曜
https://www.cafe-sarasa.com/

 

愛知《墨会館・小信中島公民館》
 
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text: shunsuke kurakata
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」

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