TRADITION

世代を超えて受け継ぐ
祈りの伝統行事「御木曳(おきひき)」
|伊勢神宮・式年遷宮と木

2026.10.17
世代を超えて受け継ぐ<br>祈りの伝統行事「御木曳(おきひき)」<br><small>|伊勢神宮・式年遷宮と木</small>

いまから約2000年前、倭姫命による巡行の旅を経て、伊勢の地に天照大御神が鎮座したのが伊勢神宮のはじまり。20年に一度行われる式年遷宮は、神様に新しい御社殿に遷っていただくお祭り。2033(令和15)年に63回目を迎える予定の式年遷宮。いま「御神木のお祭り」がはじまっています。今回はそのお祭りのひとつである、「御木曳おきひき」に迫る。

それぞれの背景をもつ奉曳団の
個性豊かな奉曳車のしつらえも
御木曳の見どころ

宮川河岸から外宮の北御門まで約2㎞の道のりを曳く陸曳。「多賀宮」へ御木を納める「本町奉曳団」。町名ではなく大きな日の丸の幟を掲げて曳く

「エンヤー!」。伊勢の街中を威勢のいい掛け声とともに、勇壮に飾られた御用材を、揃いの法被をまとった人々が綱で曳く御木曳。伐採された木を神宮に運ぶ行事・御木曳には「川曳かわびき」と今回撮影を行った「陸曳おかびき」がある。

外宮領の奉曳団では、特に9つの団が、御用材などにまつわる縁により与えられた伝統として、特別な用材「役木(やくぎ)」を曳く役木曳(やくきびき)を許されている。八日市場町は約280年前、火災の中から御用材を守って曳いたという由来が

遷宮の諸祭行事の中でも、市民がかかわることができる数少ない機会で、各地域で「奉曳団ほうえいだん」が結成され、伊勢市の人口(約12万人)の半分が、さまざまなかたちで参加する一大行事だ。奉曳団ごとにその背景や規模もさまざま。例えば曳き手を唄で鼓舞する「木遣きやり」。木遣り唄の節回しや歌詞、木遣り子が手に持って振る「采ざい」のかたちにも団の伝統と個性がある。

猿田彦大神の像を奉曳車に掲げて進む「八日市場町篤友会」。神宮の別宮で天照大御神の弟神を祀る「月夜見宮」に納めるための特別な御用材を曳くことが許された団だ
外宮の門前町として栄えた大世古町の「大世古町奉曳団」。法被の背中や鉢巻きには、団名の頭文字「大」をかたどった弥次郎兵衛の印が

心をひとつに世代を超えて受け継ぐ

奉曳車が動くと「椀鳴り」が低く鳴り響く。「ギギギ」といった奉曳車の車輪の芯から出る振動と摩擦音で、いい音を鳴らすのが大工の腕の見せどころだとか

御木曳については1462(寛正3)年の『造内宮記ぞうないくうき』に最古の記録があり、560年以上の歴史がある。中世から近世にかけ、神領地の住民「神領民」が年貢の代わりに御用材を運搬する労役を担っていた。江戸時代になると、神宮を取り巻く地域は神領地として自治が認められ、神領民は神宮への奉仕が義務づけられる代わりに納税免除の特権を得ていたという。

御木曳の道中、音頭を取って盛り上げるのが木遣り。木遣り唄を披露されると、采を振りながら合いの手が入る。声を合わせることで、心をひとつにして曳くのだ
外宮に到着すると貯木場まで曳いていく。御用材の乾燥による割れや品質低下を防ぐために、池に浮かべて保管をする。池に落とすと喝采がわき起こる

川曳は五十鈴川の中をそりで内宮に向けてさかのぼり、陸曳は奉曳車を使い市街地を通って外宮を目指す。奉曳団ごとに揃いの法被を着て、声を合わせて木遣りを唄い、心をひとつにして曳く御木曳は旧神領民の誇りであると伊勢神宮奉仕会の民俗行事委員長である中村基記もときさんは言う。

「神領民の精神を次世代に引き継いでいくのが役割だと思っている」という伊勢神宮奉仕会の中村さん。今回、自身の息子も地元に戻り参加しているそう

「今回の御木曳には前回よりも若い世代が積極的に参加。20年に一度の御遷宮に携われる名誉を感じているようです。前回の経験がない人ばかりですが、チームで力を発揮しています」

伊勢の人々に限らず、
全国からの2万人が参加

全国から集まり、揃いの法被と鉢巻姿の特別神領民による御木曳。神宮の御用の印「太一」をつけた神宮所有の奉曳車を曳く。伊勢市内でも最大の大きさで、全長7.5m、重さは4t、車輪の直径は1.7m

そして「特別神領民」による陸曳。特別神領民とは、旧神領民以外の全国の神宮崇敬者なども奉仕できる特別な制度だ。来年の御木曳、そして2033(令和15)年に行われる御白石持おしらいしもち行事にも、特別神領民の参加が予定されている。この貴重な機会に参加を、と望む人々が今年すでに2万人参加。伊勢の人々に限らず、日本に暮らす人々の中にある、祈りや崇敬の念、伝統にかかわることへの興味や感謝を喚起する行事にもなっているのだ。

特別神領民が曳く奉曳車の綱。約800人で2本の綱を曳き、約1㎞の道のりを曳く。綱の長さはそれぞれ200m。地元の係の人々の手厚いサポートによりかなう貴重な機会

「神宮の事例が全国の祭礼の参考になれば」と語るのは神宮司庁広報室次長の音羽悟さん。日本のお祭りの原点がある神宮の遷宮の行事が、各地域の祭礼を見つめ直すきっかけになればと語る。昨今、全国の祭礼の担い手不足が課題となっているが、その伝統をいかに継承していくか、ひとつの手掛かりにもなりそうだ。

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伊勢神宮・式年遷宮と木
01|式年遷宮へつなぐ、御神木の伐採
02|「仮御樋代木伐採式」の様子を追う
03|祈りの伝統行事「御木曳(おきひき)」

text: Discover Japan photo: Mariko Taya
2026年9月号「木と生きる2026」

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