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ホテルジャーナリスト・せきねきょうこさんの《記憶に残る絶品朝食》
ホテル&宿の朝食の愉しみ【前編】

2023.7.7
ホテルジャーナリスト・せきねきょうこさんの《記憶に残る絶品朝食》<br><small>ホテル&宿の朝食の愉しみ【前編】</small>

食事が愉しみな旅先では、満腹感を遥かに超える贅沢な夕食をとっても、翌朝目覚めると、お腹がそこそこすいているから不思議……。そして、一日を幸せに過ごせる“美味しい朝ごはん”が待ち遠しい。

文=せきねきょうこ
1994年から現職。仏アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。環境・もてなし・癒しの3テーマを軸に現場取材主義を貫く。著書多数

懐かしくも美味しい白飯に東京産生卵の「卵かけごはん」は永遠の朝の定番(ホテル龍名館東京)

昔の話で恐縮だが、私が現職に就いた29年ほど前、ホテルや旅館など宿の朝食は夕食ほど重視されず、期待感もなかったように思う。
 
しかし時代は変わり、滞在客側も宿側も、朝食に対する思いが加速度的に変化してきた。「朝食に力を入れているホテルは、良心的でお客さま思い」という利用者側の勝手な定説もあるが、いまや、どのホテルでも朝食は一日の元気の源として、また旅の歓びとして存在感が増している。充実した朝食を愉しみにホテル選びをする旅人もいる。
 
そこで、私自身の体験を通して知った、ホテル自慢の“朝食”の中から、記憶に残る絶品の朝食をご紹介しよう。
 
海外も含めると朝食の思い出は多々あり、候補を絞るのも難しいが、日本のホテルや旅館の朝食は、世界のどこよりも個性的で栄養バランスがよく、芸術的でさえある。季節感にこだわり、クオリティの高い美食が並ぶ。特に近年は安心安全な食材にこだわり、また「Farm to Table」をうたい直接生産者から仕入れるなど、地産地消、旬の食材を提供する潮流が見えている。
 
日本の食文化は、日本人の“食”への飽くなき思いや味覚の鋭さ、優れた探求心に基づいて発展してきており、世界屈指のグルメ大国としての和食は世界文化遺産にも選ばれている。
 
たとえば、東京駅を目の前にする超都心の小規模な「ホテル龍名館東京」では、顧客がこのホテルを選ぶ理由が、交通至便と優れた朝食にある。スタッフにも話を聞くと、「お客さまは手づくりの和食がうれしいと言ってくれます」という。滞在客は、“おふくろの味”のような朝食を待ちわびる。店内に並ぶ副菜類はすべてが料理人の手づくり。ブッフェ形式だが、目玉焼きやオムレツなど卵料理は熱々のつくりたてをキッチンから運んでくれる。フルーツ類も希望があれば、同様にカットしたものを席に運んでくれるのだ。

フレンチトーストはミルクと生クリーム、砂糖、卵黄にひと晩漬けたパンドミをバターで焼き、最後にオーブンでふわふわに仕上げる(グランド ハイアット 東京)
季節の野菜をその場で揚げてくれる天ぷら(ホテル ザ セレスティン京都祇園)
シグネチャーディッシュのエッグベネティクトも選べるインターナショナルブレックファースト(ザ・リッツ・カールトン京都)

一方、インターナショナルで都会的な雰囲気の「グランド ハイアット 東京」では、外国語の飛び交うフレンチ キッチンで映画のシーンのようなおしゃれな朝食が提供される。老舗料亭の空気感と端正な和食を満喫できるのは「箱根・翠松園」だ。ここでの朝食は、少し襟を正し、上質なうつわを愛でながら食す満足度の高い和朝食だ。もうひとつ、朝食からコース仕立てのオリジナル料理が並ぶのが「ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 京都」だ。手の込んだ斬新な料理はひと皿ごとにどれも驚くほどに美味しい。
 
また、京都の老舗日本料理店「八坂圓堂」が腕を振るう「ホテル ザ セレスティン京都祇園」の朝食は、ブッフェ形式だが、朝から目の前で調理される絶品の天ぷらが印象的だ。
 
そして毎回、和食も洋食も奇をてらわないが上質な内容で満足させてくれるのが「ザ・リッツ・カールトン京都」の朝食の高いスタンダードである。
 
伊勢志摩の美しい大自然の中で、3つのダイニングシーンから朝食のロケーションを選択するリゾート感あふれる朝食がある。ワクワクするような非日常の朝食が楽しめるのが「NEMU RESORT」だ。「グランピングブレックファスト」、NEMU フォレストヴィラ滞在専用の「森のあさごはん」、そして「ブッフェ」の3種類が用意されている。
 
こうしてみると、現在、日本のホテルや旅館には、いずれ劣らぬ麗しい朝食が用意されている。いま、ゲストが朝食に求めるのは品数の多さではないことも知られてきた。先人たちから受け継がれる郷土食や伝統食など、そこに足を運ばなければ食べられない朝食であれば、その地に向かう意義をより高めてくれる。心の込もる手づくり感があればなおうれしい。私自身、ホテル選択に“朝食”を念頭に置くことが珍しくなくなった。

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