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狛江《狛江湯》
都市部で緑と調和する心地よい場所に
|建築家・長坂 常が考える、湯と建築。

2025.2.24
狛江《狛江湯》<br>都市部で緑と調和する心地よい場所に<br>|建築家・長坂 常が考える、湯と建築。</small>

離島を盛り上げる温泉、のどかな郊外で生まれ変わった銭湯を起点とした次世代のまちづくりとは――。周囲の自然と調和することで、新たな憩いの場になっている、東京都狛江市の「狛江こまえ湯」をご紹介。

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都市部で銭湯は公園に代わるサードプレイスに

©Ju Yeon Lee

黄金湯に続いてリノベーションを手掛けた東京・狛江市の銭湯「狛江湯」で目を引くのが、緑のタイルだ。緑道沿いにあり、近隣を流れる多摩川や国分寺崖線の水源に恵まれた緑豊かなロケーションから着想を得て、岐阜・多治見でオリジナルのタイルを製作したという。

「京都を訪れたら必ず行っていた『錦湯』にモザイクタイルがあって、熱い湯船に浸かりながらぼーっと見ている感じがよかったので、2分の1、4分の1の寸法の異なる3つのタイルを組み合わせて配置する遊びを取り入れました」

かつて表にあったパブスペースはフロント兼カフェバー「SIDE STAND」としてリニューアル。周辺の空き地を縁側にして、クラフトビールやサワー、酒に合うおつまみを提供する開放的なスペースに。ここでは、飲食や物販、体験など多彩なコンテンツが楽しめる「えんがわ市」など、不定期でイベントやマルシェを開催
©Ju Yeon Lee

パズルのように組み合わせ、さりげなく切り替えるデザインはユニークな視覚的体験を生み、目の行き場としても機能している。「炭酸泉」などのサインもタイルを組み合わせて表示し、フロント兼カフェバーの壁にはタイルで富士山が描かれ、風呂上がりに富士見酒も楽しめる。風呂に入らない人も酒を楽しみ、地域のフェスの実行委員たちの打ち合わせも行われるなど、狛江は地域コミュニティが再生しつつある。

「いま、都市部では公園の規制が厳しくなっていて、〝公共の場〟がなくなりつつあります。銭湯はそれに代わるサードプレイス的な場所としてまさに理想。日本人にとって風呂に入る行為は本当に大事で、どんな人でも肩書きも立場も関係なく、一緒に湯船に浸かればフラットな関係になります」

 そういった心地よい場所でありながら、地域のハブとしての機能をもつのも温浴施設ならではだ。
「風呂上がりに楽しみたいのは、美味しい料理や酒なので、地域にいい銭湯ができると魅力的な料理店と酒場が増えて、街がじんわり盛り上がっていく。温浴施設は、街に新たな価値をつくる可能性をまだまだ秘めています」

新宿から電車で20分の距離に位置し、世田谷に隣接している狛江市は、多摩川をはじめとした水源に恵まれた自然豊かな街。リニューアルした狛江湯は、その緑豊かなエリアに馴染んだデザインが魅力的
©Ju Yeon Lee

狛江湯
住所|東京都狛江市東和泉1-12-6
Tel|03-3489-3881
営業時間|13:00~23:00
定休日|火曜
料金|大人550円、小学生200円、未就学児100円、サウナ+680円(貸しタオル付)
www.komaeyu.com

「狛江湯」は1955年に創業した狛江市内最古の銭湯。ここに来るとリラックスして、ちょっと気分が上がる陽だまりのような場所を目指して2023年にリニューアルオープン。42℃のあつ湯と炭酸濃度1000ppm以上の医療効果が期待できる高濃度炭酸泉、座面に国産の檜材を使用したオートロウリュサウナ、ミネラル豊富な狛江の天然水を冷やした14℃前後の水風呂が楽しめる。

長坂 常が考える、湯と建築のいい関係・三原則

1.就寝前の過ごし方の選択肢がひとつ増える
2.目の行き場があるデザイン
3.温浴施設だけで完結せず、地域のハブになる

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text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
2025年2月号「温泉のチカラ」

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