日本の伝統文化を応援!日本伝統三道スペシャルプログラム連載【第六回】ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道(後編)
Local Experience(その土地ならではの体験)、Private Style(第二の我が家のように過ごせる場所であること)、Personalized Hospitality(ゲスト一人ひとりにあわせたおもてなし)の3つのキーワードを大切にしているザ セレスティンホテルズ。ゲストのステイ体験をより豊かなものにするため、「ホテル ザ セレスティン銀座×華道」「ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道」「ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道」と、3館を通して日本伝統三道をテーマとしたスペシャルプログラムを展開している。
「ホテル ザ セレスティン東京芝」ではロビーでの茶道体験や、鹿児島茶生産農家×若手茶道家によるトークショーを実施。連載第六回目の今回は、トークショーに登壇した鹿児島茶生産農家・小牧誠悟さんとホテルの総支配人・小野寺克浩さんの対談を紹介。
急須でいれるお茶の価値を再認識
——薩摩藩の上屋敷跡に位置する「ホテル ザ セレスティン東京芝」。島津家の十字紋をモチーフにしたインテリアが施され、レストランでは鹿児島の食材を使用するなど、鹿児島とのゆかりが深いことで知られる。鹿児島は、茶葉の生産量が全国第二位であることからも今回の「ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道」の取り組みが実現。体験茶会やお茶にまつわるトークショー、鹿児島フェアなどが行われた。
小野寺(ホテル ザ セレスティン東京芝) 小牧さんとは、ホテルのリブランド2周年で鹿児島フェアを開催するにあたり、“食材探し”の旅に出かけた鹿児島でお会いしたのが最初でしたね。鹿児島県の方にご協力いただいていろいろな食材の生産者をご紹介いただきました。その中にお茶もあり、県の方から若手でがんばっていらっしゃる小牧緑峰園さんをご紹介いただくということで、伺いました。
小牧(小牧緑峰園) その節はありがとうございました。僕らは農家で、自分たちでPRをしていくのがなかなか難しいため興味をもって来ていただけるのは非常にありがたいです。
小野寺 鹿児島でお茶をいれていただいたときの第一印象は「甘い!」でした。ちょうどいい温度の湯、葉の量、時間でいれたお茶がこんなにおいしいのかと驚きました。普段、急須でお茶をいれるというのはしないのですが、お茶をいただいてからは家でもいれるようになりました。その時間もふくめて、ほっと一息できますね。
小牧 ありがとうございます。力を入れている「さえみどり」というお茶で、日本茶AWARDの「うまいお茶部門」でプラチナ賞をいただきました。お茶というとこれまでブレンドが一般的でしたが、コーヒーでいうところのシングルオリジンの考えも浸透してきて、より茶葉による味の違いを楽しめるようになってきました。「さえみどり」は、玉露のような「かぶせ」の製法によってケルセチン、テアニンといった旨味成分が多く、カテキンやタンニンなどの苦味成分が少なく仕上がっています。さらに、強く蒸す「深蒸し製法」によって、非常に水色が良いのが特徴です。
小野寺 お湯の温度が大切というのを伺いましたが、思ったよりも低い温度でいれるのですね。
小牧 70℃くらいのお湯で入れると、甘み成分が出やすいです。苦味の成分は100℃に近い温度になると出やすくなってしまうんですね。本来は、生産者の我々がそういったお茶のおいしいいれ方をお伝えしなくてはいけないのですが、それができていないのが現状ですね。
コミュニケーションとしてのお茶文化
小野寺 現在「カフェ&ロビーラウンジ セレクロワ」では、「茶々セット」として急須でいれるお茶とお菓子のセットを販売しています。先日は、イベントの一環で、小牧さんのさえみどりを水出しにしてお客様にお出ししたのですが非常に好評でした。外国のお客様も多いので、急須のお茶のいれ方や、水出ししたことなどをお話するのですが、非常にいいコミュニケーションになります。お茶はやはり日本文化に欠かせないアイテムですよね。
小牧 日本では、昔からお店に行くとただで緑茶が出されるという習慣がありましたよね。今では、ペットボトルのお茶が当たり前に販売されています。お茶が身近である反面、丁寧につくられた茶葉に見合った価値がつかないというのが我々の課題です。お茶を飲まなくなったわけではないのですが、茶葉としての国内需要は減っています。一方、欧米での需要は伸びていて、とくに紅茶をよく飲むヨーロッパでは、茶葉本来の価値をわかってくださる方が多い印象です。パリの日本食材店「エースオペラ」で扱っていただいていますが、海外のお茶ブームが新しいお茶の価値として日本に逆輸入されるといいなと考えています。
小野寺 今回の「ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道」の取り組みもそうですが、
我々のように海外のゲストが多いホテルで、本物のお茶を出すことは、本物の日本文化に触れていただくきっかけにもなります。我々もおいしいお茶とともに、おいしいお茶のいれ方をゲストにご提供できるようにしたいです。この先、ここで飲んだお茶がおいしかったから、自宅でも飲んでみようというゲストがいらっしゃるかもしれません。いいものを選択して提供することはホテルの価値を上げることにもつながりますし、その積み重ねがホテルの個性になるともいえます。
小牧 今回、バーで提供するカクテルにも「さえみどり」を使っていただいていると伺いました。甘みや水色の良さがいきるのでぴったりだと思います。鹿児島では、焼酎のお茶割りをよく飲みます。なかには、“マイティーパック”をお店に持っていって水出しにしておいて、こだわりのお茶割りをつくる人もいるくらいです(笑)。
小野寺 薩摩とのつながりもあり、お茶を使ったオリジナルカクテルは通年でお出ししていきたいと考えていますし、夏にはウエルカムドリンクのように冷たい水出しのお茶を出すのもいいですね。今回、日本伝統三道の取り組みをきっかけにご縁をいただきましたが、今後もさまざまな形でお付き合いいただけると嬉しいです。本日はありがとうございました。
——この対談のあとには、茶道裏千家青年部と鹿児島茶の若手生産者によるトークショーが行われた。ゲストは茶葉を使ったオリジナルカクテルを片手に、お茶の現状や後継者不足といった課題、今後の展望などについてじっくりと耳を傾けていた。
今回のケースでは、この取り組みが、三道に直接携わる若手後継者だけでなく、茶葉といった関連する生産者の応援にもつながることを実感できた。今後も各館で行われている取り組みがさまざまに発展していくための、布石となるだろう。
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文=山本章子 写真=山平敦史