《美味しい魚図鑑》 Vol.9 イワシ
読んで字の如くイワシは弱い?
スーパーに並ぶあの魚、この魚。どんな海に生息し、どこで捕れるものが美味しいのか。本当の旬はいつで、どんな料理が合うのか。魚を知り尽くす小川貢一さん監修のもと、日本人なら知っておきたい魚の基本を詰め込みました。
小川貢一(おがわ・こういち)さん
956年、東京・築地生まれ。仲卸3代目として築地で育つ。魚を知り尽くし、かつて築地で魚料理店の店主を務めた料理人でもある。著書に『本当に美味しい魚の見極め方』など多数
家庭料理に欠かせない馴染みのある魚
日本でイワシといえばマイワシを指すが、ウルメイワシやカタクチイワシ(セグロイワシ)もさまざまに加工して食べられる。英語では「サーディン」。北欧やポルトガル、イタリアのシチリア島など海外でも愛され、カタクチイワシはアンチョビやオイルサーディンなどの加工品としても使われる。
マイワシは、1980年代は日本の総漁獲量の3割を占める大衆魚だったが、2000年代半ばに激減。近年は回復傾向にある。夏に旬を迎える頃は栄養価も上がり、夏バテに効果的。手開きで簡単にさばけることもあり、さまざまな家庭料理を生んできた。
鮮度がよければ刺身やなめろう、軽く酢で〆て寿司ネタにもよい。蒲焼き、フライ、しょうが煮、つみれ汁、香草焼き、ハンバーグなど、和洋を問わず、昔もいまも日本人の食卓を支えている。
<鰯の基礎知識>
●科
ニシン科
●旬
6〜10月(マイワシ)
●名前の由来
水から揚げるとすぐ死んでしまうことや、ほかの魚の餌になりやすいことから、漢字のつくりは「弱」。また、「いやしい」から転訛したものとも
●魚種
マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシ
●地域名、幼名
日本海で「ヒラゴイワシ」、関東の市場では「ナナツボシ」、キンタル、オイザサ、モロクチなど
●選び方のポイント
目が澄んでいて、全体に丸みを帯びてふっくらとし、青く輝き、つやがあるもの。ウロコが付いているものは新鮮
●主な生息地
沖縄を除く日本全域。
サハリン東岸のオホーツク海、
朝鮮半島東部、中国、台湾(マイワシ)
●県別漁獲量ランキング(マイワシの場合)
鳥取:5万200t
宮城:5万1700t
福島:4万6300t
茨城:22万3900t
静岡:4万2900t
Q:イワシはなぜ大群でいるの?
A:とっても臆病な魚だから
イワシが群れをつくる理由は、捕食者から身を守るため。敵が来たら、ボールや盾のようなかたちに群れを集結させ、相手を撹乱して生存率を上げる戦略だ。
Q:品種の違いを教えて!
A:3種類それぞれに用途あり
マイワシは刺身や塩焼き、フライなどに。ウルメイワシは丸干しや干物に向く。カタクチイワシはメザシや煮干し、アンチョビやオイルサーディンにも使われる。
マイワシ
体側に7つ前後の黒い点がある。北海道以南の日本各地で捕れ、大きいものは体長30㎝ほど
ウルメイワシ
目が潤んだように見えることが名前の由来。脂質がなく、脂による酸化がないため、丸干しが向く
カタクチイワシ
口が大きい割りに下あごが小さいのが名前の由来。メザシなどで丸ごと食べられるカルシウムの塊
Q:梅雨イワシってなんだ?
A:梅雨時に旬を迎えたもの
イワシは6月ぐらいに旬を迎え、暑くなるにつれて脂がのる。食欲が落ちる時期におすすめの料理が「梅煮」だ。最高潮に達するイワシの栄養と、梅干しの酸味が相まって、夏バテ解消に抜群にいい。
<column>
イワシとシラスのこと
シラスとは本来、イワシやイカナゴ、ウナギ、アユなど稚魚の総称で、「釜揚げシラス」、「シラス干し」などは主にカタクチイワシの稚魚を使っている。シラスの旬は地域により異なるが、一般的に3〜10月。冬は禁漁期間を設けているところも多い。漁場の近くでは「生シラス」が売られていることもある。
<trivia>
ニオイで鬼を寄せつけず
節分に家の門に掲げるのは、ひいらぎの枝にイワシの頭を刺した「柊鰯(ひいらぎいわし)」。先がとがったひいらぎの葉で鬼の目を刺し、イワシの頭(=臭いもの)で鬼を寄せつけないようにとの意味がある。
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text: Yukie Masumoto 写真提供=国立研究開発法人水産研究・教育機構、
フーズリンク、農林水産省「うちの郷土料理」、小枝圭太(東京大学総合研究博物館)、
標津サーモン科学館、PIXTA
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」