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写真で残すニッポン - ⑤

海とともに生きてきた港町

京都府・伊根町

一階が舟のガレージ、二階が居住スペースとなっている「舟屋」が湾沿いにずらりと立ち並ぶ京都府伊根町。その独特の景観は国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されており、「日本で最も美しい村連合」にも加盟している。
舟屋の存在からもうかがい知れるように、この町は古くから漁業を中心として暮らしを営み、海とともに生きてきた。夜明け前になると、伊根漁港には漁師たちが集い、まだ薄暗い湾へと舟を出す。漁場に着くまでは荒っぽい口調で冗談を飛ばし合っている男たちも、いざ網を上げ始めると、まるで全員がひとつの意識を共有しているかのように、無駄のない連携で作業をこなしていく。
今回、EOS 5D Mark Ⅳを手にして伊根町を訪れたのは、地域活性プロデューサーであり、写真家でもある柄木孝志さん。写真の持つ力で、地域の隠れた魅力を引き出すべく活動する柄木さんの目に、この町はどう映ったのだろう。「来るまではやはり、『舟屋』の独特な景観がある場所というイメージが強かった。しかし実際に町に入って、人々と接し、の営みを目にするうちに、『海の町』、『漁の町』なんだと実感しました。つまり、昔から海や漁が当たり前のようにすぐそばにあって、朝になれば地域の人たちが港に魚を買いに来たり、魚を捌いたあとの残渣は海に放り投げておけば鳥たちがきれいに掃除してくれたり……。舟屋はあくまでもそうした生活の一部に過ぎないんです」
舟屋を、町の空気を、生活という目線から切り取る。そこに浮かび上がるのは、伊根の人たちさえも見過ごしていた日常の美しさだ。

伊根湾(メインカット)

各々の役割分担に従って、身体に染みついた動きを手際よくこなしていく漁師たち。おこぼれを貰おうと集まってくるウミネコも含めて、これが伊根の日常なのだろう。そんな躍動感あふれる漁業風景を収めた

DATA

  • 京都府伊根町
  • 面積:61.95km2
  • 人口:2198人(2017年3月1日現在)
  • 特産品:鯵・イカ・ブリ等の鮮魚、干物、へしこ、岩牡蠣

写真家

柄木孝志さん

鳥取県米子市にIターン。鳥取の名峰・大山を中心に、さまざまな地域の美しい風景や隠れた魅力を切り取るなど、写真を通じた地域活性化に尽力。東京カメラ部10選

手軽な便利さにNOと言える町

伊根町にはコンビニがない。ファストフードやチェーン展開するカフェもなければ、そもそもお昼を食べられるお店さえほんの数軒に限られている。しかし、地域活性化の依頼を受けて全国を巡る柄木さんは、そこに「元気がなく、少しずつ寂れていく地域」ではなく、「自分たちの住む場所に誇りを持った地域の強さ」を感じた。
「普通に考えればコンビニはあったほうがいい。圧倒的に便利だから受け入れる。それが全国のさまざまな地域に起こっている現象で、コンビニやチェーン店を呼び込んだ結果として、個性が失われてしまっている。つまり、わざわざ自分たちの地域に足を運んでもらうための魅力を自ら手放しているんです。だけどそれに対して、町全体でNOと言えるのが伊根。便利さと引き替えに失うものがあるということを、人々がちゃんと知っているんだと感じました」
伊根町では、近年、若い世代の人たちが次々と新しい取り組みをはじめている。舟屋を改装して民宿を経営するご主人、海にもっとも近い酒蔵で古代米を使った日本酒を開発し、世界有数のレストランにまでその名をとどろかせる女性杜氏、伊根の景観を生かしたカフェと鮨屋を新たにオープンさせる動きもある。すべてに共通しているのは、「便利なものを外から呼び込む」のではなく、「自分たちの地域の良さを残しながら前に進んでいこう」とする姿勢だ。こうした試みが身を結んだのか、少しずつ若い移住者も増えてきているのだという。
「多くの地域では、変わらないといけないと言いながらも、若い人たちが自由に挑戦できる雰囲気がない。しかし伊根では、行動力と信念をもったキーマンたちが道を切り開きながら、徐々に町全体の空気を変えていったのだと思います。きっと、そういう大人を見て育った子どもたちは、『この町でも面白いことができるんだ』と気づいてくれるはず」

町民すらも知らない伊根の美しい表情

伊根町をPRする写真ではどうしても舟屋がクローズアップされがちだが、地域の人たちにとっては海や山とともにある日常の風景。あえてまわりの風景とともに収めることで、そこにある美しさを表現した。

柄木さんの考える「写真を通じた地域活性」とは、外に向けたPRでありながら、内側の人々の意識を変え、地方活性化の骨格となる「地域の誇り」を芽生えさせるためのインナーブランディングでもある。外から来た人間がいきなり改革をしようとしても話を聞いてもらえないが、まず最初に、地域の人たちが知らない魅力を切り取った写真を見せることで、「もっとこの地域をよくしたい、この魅力を発信したい」という前向きな気持ちを芽生えさせるのだ。「伊根町の人たちは、十分地域に誇りをもっているように感じました。だから今回僕が写真で伝えたかったのは、舟屋という見どころ以外にも、当たり前に暮らしている日々の中に、美しい瞬間がたくさんあるのだということ。いまもっている誇りを、後押しするような1枚を撮りたかったんです」。ふと足を止めて空を眺める。見慣れた我が家が、いつもより素敵に感じられる。写真には、きっと、そんな力がある。

たくましくも心優しい海の男たち

伊根湾では大型の定置網漁が行なわれている。ともに海に出る仲間や舟は家族のような存在。流れるように進む作業や、漁の合間に見られるちょっとした談笑からは、目に見えない強い絆が感じられる。のんびり海沿いを歩いていると、ふと、漁に使われる網が広げられているのを見つけた。地元の人々にとっては見慣れた仕事道具かもしれないが、自然の美しい青や緑と並ぶと、まるでアート作品のようなコントラストに。写真で切り取ってはじめて、すぐそばにこんな光景があったのだと気づかされる。

この町に魚屋はない、でも漁港がある

漁船が大量のウミネコを引き連れて戻り、瞬く間に魚の選別を終えると、伊根漁港は「町の魚屋さん」へと早変わり。じつは、伊根には魚屋が存在しない。その代わり、毎朝各家庭にある防災スピーカーを使って、漁港から町の人たちに選別作業の手伝いを依頼するとともに、その日揚がった魚を伝え、個人でもそれらを購入できるようになっている。漁師ではないおじいちゃんやおばあちゃんたちも、魚の目利きはプロ並み。まだ薄暗い出港前から活気あふれる朝の光景までを、その空気感とともに切り取った。

自然と人が共存する舟屋の暮らし

なんとなく観光名所のようなイメージのある舟屋。しかし実際に伊根を歩いていると、そう思っているのは外の人間だけで、いまでも人々が生活を営む場なのだとしみじみ感じる。自分の舟に乗り込んで漁に出掛ける人、港で仕入れた魚の処理をして、その残渣を鳥たちに投げてやるおばあちゃん……。柄木さんが生活の目線から、そしてまわりを囲む自然とともに収めた舟屋の写真を眺めていると、まるで自分がこの町で生まれ、海とともに暮らしているような、そんな錯覚におちいる。

いままでも、これからも、海と一緒に生きていく……

窓を開ければ海。そんな生活を想像できるだろうか? しかし、伊根で暮らす人々にとって海は生まれた瞬間からすぐそこにある日常だ。そして、海こそが庭であり、遊び場であり、大切なことを教えてくれる先生なのだ。子どもたちは、ゲームでモンスターを捕まえる代わりに海で魚を探し、遊園地に行く代わりに目の前の海に飛び込む。そんな様子を見ていると、どこか懐かしい気持ちに包まれる。きっと、昔は日本の各地にこういう風景があったはずだ。「この町が大好き」。人々の表情から、そんな声が聞こえてくる。

柄木さんが伊根を通して知ったEOS 5D Mark Ⅳの実力

夜明けの漁や舟屋の中など、狭く薄暗い、三脚も満足に立てられない状況での撮影が多くありました。とくに前者は、ただでさえ不安定な舟の上で、邪魔にならない位置を確保しながらてきぱき動く漁師さんたちを収めなければいけません。ノイズを気にせずに、ISOやシャッタースピードを躊躇なく上げられるEOS 5D Mark Ⅳに助けられました(柄木)

まだ誰も知らない地域の魅力を引き出す1枚

京都府・伊根町

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